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プロローグ:祈りの終焉

「これは、私たちの選択——」


 夜空を閉じ込めたような髪を持つ女神は、崩れゆく世界を背に静かに呟いた。


 「たとえどんな出会いをしても、この結末はきっと変わらない。

人には選ぶ権利があり、何度繰り返しても、その“選択”だけは揺らがない。

変わるとしたら——そう、“選択肢”が増えたときだけ」


 彼女は振り返り、微笑んだ。

 滅びゆく星々の光の中で、その瞳はただ一人、私だけを映していた。

 そこには悲しみでも絶望でもなく、静かな決意と、愛惜が揺れていた。


 「それでも・・・きっと君は選択肢がいくら増えたところでこの選択を変えることはないんでしょ?うん、分かってる。いつも君を観測者、記録者。ううん違う。あなたに恋する一人の私として見守ってきたから。誰よりも君を分かってるつもり」


 大地は光を帯び、空へと舞い上がる。

 それは、命が還元される証——この世界のことわり

 すべてのものには始まりと終わりがあり、終焉は消滅ではなく再生の兆し。

 誰もがその循環を恐れず、ただ今を生きていた。

 その過程を、時には人々の祈りを聞き届けながら。見上げれば、すべてのものを等しく見守る星々が、それを記録していた。その光の一つひとつが、アトラの祈りの欠片のようにも思えた。

 終焉に向かったものはただ消えるのではなくエーテルに還元され大地を潤し時には星々に昇華し次の世代を見守る存在になるのだ。

 

 「私が君を愛したように君もこの世界を愛してしまった。そしてこれからのあなたの行動も想いも私だけは分かっているつもり。きっと君は他のものたちから見れば自分勝手に思われるかもしれない。それでも君がその選択を取ったその時から私は君についていくことを決めてたんだよ」

 

 「————————」


 「うん。分かってる。いくら私たちと言っても、何の代償もなしにはいられない。だけど君だけにその代償、対価を払わせるわけにはいかないんだよ。知ってる?人間はね愛する人のためだったら・・・どんなことだって成し遂げるんだよ」


 女神は手を伸ばし、崩れた大地に指を触れる。

 淡い光が弾け、一冊の白い本が浮かび上がった。

 本は勝手にページをめくり、神々の記録を示す。

 神々はかつて、エーテルを操る人間と、ネザを宿す魔族を隔てる壁——「ディバイド」を創った。

 だが、長い時を経て二つの種は出会い、恋をし、そして壁を壊した。

 命を賭して共存を選んだ彼らの物語は、記録ではなく“祈り”として語り継がれるようになった。

 しかし、この物語は第三者目線。観測者視点から見た物語なのがよく分かる。ただあった出来事をつらつらと書かれていて登場人物の感情や想いは一切読み手には伝わらない文体。ただこんなことがあったという歴史としてしか書かれていなかった。

 女神は本を閉じ、そっと微笑んだ。

 

「観測者から登場人物へ。

物語は語られるだけの“歴史”から、誰にも変えられない“真実”へと昇華するんだよ」


 私の隣に立った彼女は、強くも優しい眼差しを向けた。


 「始まりと終わりは決まっている。世界は今、確かに終焉へ向かっている。終わりは平等にやってくるけど——それは、今じゃない。君がこの世界を愛し、干渉するのなら、私にも君に干渉する権利がある。私は、君の“選択”を否定しない。ただ、少しだけ手伝うだけ」


 「・・・本当にいいの?」


 「うん。私は最初から、君の選択を尊重するって決めてたし。それにね私たちは別に機械じゃなくて、この大地で生きている人間と何も変わらない。変わるとしたら・・・そう役目だけ。自由に空を舞う鳥のように私たちも自由になる権利があるとは思わない?役目を捨てるわけではないの。そう・・・少し休むだけ」


 彼女は穏やかな笑みを浮かべ、私に手を差し出す。

 けれど、私はその手を取れずにいた。

 頼りすぎてしまっている気がした。

 代償を共に負うことは、彼女の想いを利用することになる気がした。

 彼女はその躊躇を見抜き、私の手を包み込むように握る。

 額をそっと重ね合わせ、囁いた。

 

 「本当に君は優しいね。けれど、私はそんな君だからこそ力を貸したいと思えたんだよ」


 静かに手を離し、彼女は頭に手を置いた。


 「星の女神、観測者であり、記録者———アトラの権限により、ここに宣言する。君がいなくなった後は世界の再構築を行い世界の記録を引き継がせるから。安心して。あなたが生んだこの力・・・ネザは、私が引き受ける。世界を壊すのではなく、見守るために。さようなら、最愛の創造者様」

 「ありがとう。・・・私も、愛しているよ。アトラ。」

 「うん。また、次の世界で———」


 涙を浮かべた彼女の指先が、私の頬に触れた。

 そして意識は、優しい光の中に沈んでいった。


 世界は、二人の神々の祈りによって、終焉とは違う穏やかな光に包まれていく。

 ———そしてその光の中で、一人の少女が静かに目を開けた。

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