第1話 不器用なオッサン、ダンジョンに爆誕。さっそく死亡フラグを踏む
「では、倒したスライムを使って鍋物に挑戦します!」
(料理物ぉ? 見飽きた。つまらん)
「手を使わずにゴブリンを倒しまーす」
(どっかで見たなこれも……)
「今夜の心霊スポットは、アンデッドの巣窟、墓場に突撃したいと思います!」
(いや、それ心霊スポットじゃねーし!)
おもしろくねー。
最初の頃はおもしろかったダンジョンの配信。
でも今はほとんどつまらん。
V-TUBEみたいな企画ばっかで退屈。
10年前。
突如、世界各地にゲートが現れて世界中がパニックになった。
だが、今ではゲートに繋がっているダンジョンの中で配信を行う時代。
俺、突込寛二はダンジョンに乗り込む勇気はない。
こうやって、配信された映像に文句を言うだけ。
どこにでもいるパンピーである。
攻略系の配信も見飽きたなー。
どっかにおもしろい配信ねーかな?
ん~~。ん゙ぶっ!?
なっ、なんだこの人……。
ダンジョンの最初の部屋。
全裸で腕組みした男が仁王立ちしている。
なぜ全裸?
そしてなぜ腕組みをしている?
全裸待機している男は30代前半のごつい眉をしたオッサン。
ちなみに倫理コードにかかる部分は自動で配信映像にモザイクがかかる。
なのでオッサンが〇ルチンスタイルでも、配信事故になっていない。
あっ動きだした。
セーフティーエリアから地下1階に降りた。
にしても堂々としてんな。
普通、前は隠すだろ?
急所をさらけ出したまま。
なにも持たずに魔物のいる地下1階をウロウロし始める。
この人、絶対ダンジョンの仕組みわかってねー。
最初の部屋にあるテントの中に初期装備が保管されているのに。
ほら、さっそく魔物に遭遇しちゃったよ。
ゴブリンが1匹。
人間の子どもくらいのサイズ。
だが、手に棍棒を持っている。
棍棒って、たぶん殴られたら死ぬほど痛いはず。
ぶっとい木の棒は棘つき。
おまけにオッサンは全裸だし。
殴られたら死ぬんじゃないか?
「これは夢、なのか……」
はい、そのセリフは死亡フラグぅぅ!
オッサン、今、死亡フラグ踏んじゃったから!?
ダンジョンのこと何も知らずに入ったの?
モンスターなんてどのダンジョンにもいるでしょ!
『ゴトッ!』
オッサンの目の前に段ボール箱が転送された。
現在このチャンネルを視聴しているのは3人。
俺以外のどちらかが課金通販を使ったようだ。
課金通販。
視聴者がアイテムを贈ることができるサービス。
他にも応援通販というものがある。
こちらは視聴者から無料で配信者にプレゼントを贈ることができる。
まあ、どちらもV-Tubeでいう投げ銭機能なようなものだ。
中身はなんだ?
ゆっくりと詰めてくるゴブリン。
それを無視して、オッサンが箱を開封する。
なん……だと?
モアイ像の置物。
こんなのでどうやってピンチを乗り切ろうとしているんだ?
誰だよ、こんなん送ったの。
ふざけすぎだろ!
しかし、オッサンはモアイ像の置物を手に取った。
ほぼ同時にゴブリンが棍棒をオッサンに振り下ろす。
んなっ!
オッサンは棍棒を手に持っているモアイ像の置物で弾いた。
そして、そのままゴブリンをブン殴る。
殴る。殴る。殴る。
ゴブリンを倒した。
倒したゴブリンから魔石1個と骨付き肉がドロップした。
お腹が空いてたのか?
オッサンは魔石と骨付き肉を回収すると、最初の部屋に引き返した。
あっ、悩んでる。
肉を食べたいが、生はちょっとなー、って顔をしている。
いや、テントの中に肉焼きセットがあるはずだが?
『ゴトッ!』
先ほどの視聴者だろうか。
また、課金通販でアイテムを送った。
オッサンがゴソゴソと段ボール箱を開ける。
中にはガストーチが入っていた。
これで炙って食べろってことね。
オッサンは味付けなしで骨付き肉を炙って食べはじめる。
いやー、骨付きの肉って美味しそうなんだよね。
こんがりと焼きあがった肉は表面がカリカリしている。
中もちゃんと火が通っていそうだ。
よしっ、俺も応援するか。
無料でできる応援通販サイトを開く。
視聴者は1人1日10回いいねを押せる。
いいねを10回ポチポチして応援ポイントが10貯まった。
10ポイントで、オッサンになにが必要かを考える。
やっぱ「アレ」しかないよな?
アレを送ってやらないと……。
目の前に通販サイトamanokawaの段ボール箱が届く。
オッサンが中を開くとブリーフパンツが1枚入っていた。
いや、いちばん最初にあげなきゃ……パンツ。
ようやくオッサンが人間らしい衣服を着た瞬間だった。
他にも服を送ってあげたいが課金するのはイヤ。
服が上下で応援ポイント5Pくらいで買える。
なのに、パンツ1枚で応援ポイントが10Pも必要なのは謎すぎる。
オッサン、ガストーチをすっかり忘れている。
パンツ姿で、モアイ像の置物をだけを手に再び地下1階へと降りていった。
たぶん、お腹は空いてない。
だが、今度は喉が渇いたんだと思う。
壁から少しだけ垂れている水をペロペロと舐めている。
だが、予想どおり、まったく足りていなさそう。
もちろん水だって、テントの中にあるわけだが……。
オッサンは自らハードモードで挑むスタイルらしい。
飲めるものを探して地下1階を探索しはじめた。
オッサン。
アンタって人は……。
さっそく道に迷ったらしい。
いや、角を2つ、3つ曲がっただけだが。
それぐらいで迷うか普通?
『キュルーーッ!』
今度はなんだ?
さんざん迷った挙句、疲れて休憩をはじめた。
いつ魔物に襲われるかわからないのに、ごろ寝している。
するとそこに4匹のスライムが現れた。
紫色のスライム3匹に透明なスライム1匹。
紫色のスライムは毒を持っている。
ベノスライムという名で、透明な方はノーマルのスライムのようだ。
ゴブリンと同じくダンジョン低階層の序盤で遭遇する雑魚モンスター。
ん、仲間割れか?
ベノスライム3匹がスライムを追いかけまわしている。
急にベチャッと、ベノスライムが一匹潰れた。
オッサンが振り下ろした小さなモアイ像をふたたび持ち上げる。
いいところあるじゃん?
魔物同士の争いとはいえ多勢に無勢。
スライムに助太刀するとは。
オッサンは毒に冒されながらもベノスライムを3匹とも潰して倒した。
勝ったのはいいけど……。
皮膚のあちこちが紫色の斑点がてきてて、そこから煙が出ている。
このままでは命があぶないかもしれない。
「キュルキュルッ!」
──ほう!
スライムってそんなことできるの?
透明な触手を伸ばし、オッサンの紫色の斑点に触れた。
すると、洗浄されて斑点が消えていった。
「仲間になるか?」
「キュル!」
「そうか、では、まずは名前を決めよう」
オッサンがスライムを何と呼ぶが考えはじめた。
まあ、キュルキュル言ってるので「キュル」とかでいいんじゃない?
「すいとう……お前の名前はスイトーだ」
「キュルっ!」
あきらかに水筒代わりにしようとしてる……。
スライムも名前を付けられて喜んでいる模様。
まあ本人が良ければいいか。
さっそく、スイトーを持ち上げた。
口をつけて吸うとストローのように透明な液体を飲んでいる。
あれ、透明だけど水なのか?
喉を潤したオッサンはパンツ姿のまま、ふたたびダンジョンを進みはじめた。