旅路[1]
カインに勝った後、俺たちが向かったのはエルドリア王国という場所だった。
俺らがいた村の真隣の国だ。
そのエルドリア王国のど真ん中にある冒険者ギルドに向かっていた。
旅立ちへの第一歩は冒険者ギルドと相場は決まっている。
ギルドに到着し、ちゃちゃっと登録を済ませた。
登録の際、一枚のカードを渡された。
こいつ一枚で身分証、通帳、さらにはクレジットカード的な役割も果たせるらしい。
所有者の魔力を感知しないと使えない仕組みになっているから、セキュリティも完璧だ。
カードには自分が今使える剣術や魔術の階級なども表示されている。
俺のカードにはもちろん王級魔術師と書かれてあった。
受付のお姉さんはバグかなんかじゃないかと焦っていたが、
この表示が本当だと知った時はもっと焦っていた。
カードに書かれている階級を元に冒険者にランク付けがされるらしい。
ランクはE、D、C、B、A、S、SSと分かれており、SSになるためには特別な試験が必要だ。
それぞれのランクによって受けられるクエストが異なり、貰える報酬も変わってくる。
俺たちはSランクの冒険者に任命され、ほぼ全てのクエストを受けることができる。
Sランクのクエスト報酬の平均は小金貨1枚だ。
硬貨の価値はそれぞれ
小銅貨10枚で大銅貨1枚、
大銅貨10枚で小銀貨1枚、
小銀貨10枚で大銀貨1枚、
大銀貨10枚で小金貨1枚、
小金貨10枚で大金貨1枚。
となっている。
物価を見る限り、小金貨は俺らの世界でいう1万円くらいだ。
これを3人で分けると約3000円、月収にしたら9万円、年収にして108万円。
つまり、日本人の平均年収の600万に達するためには、一日6個のクエストを受けないといけないことになる。
命懸けのクエストを受けてこれは割に合っていない。
クエストの見極めも重要になってきそうだ。
中には一回で大金貨2枚稼げるものもあったり、賞金首を倒せばさらに大きな額が入ってくる。
まあ、賞金首なんてのは探すところが一番大変だけどな。
俺は試しに小金貨一枚のクエストを受けてみることにした。
内容は、魔法の森の魔物を5種以上討伐して首を持ってくるというものだ。
俺は2人を連れて魔法の森に向かった。
クエスト自体は難なくこなせた。
対して強い魔物はおらず、あっけなく5種の魔物を討伐することができた。
しかし…問題が発生した。
俺たちはある男に出会ってしまった。
名前はゼノス・スカーレット。
こいつは、ギルドのチラシに書いてあった10大金貨の賞金首だ。
長髪を後ろで括り、死んだ魚のような目でこちらを見てくる。
体中から殺気を放っており、今にも攻撃してきそうだ。
俺はすぐにカードできるよう、さっきギルドで買った日本刀っぽい剣を手にかける。
「邪魔だ。クソガキども」
そう言ってゼノスは腰にかけた剣を抜いて攻撃を仕掛けてきた。
ゼノスの狙いは俺。俺は剣を抜いてガードした。
誰にでも無差別に攻撃するようなやつだから、賞金なんてかけられるんだろうな…
俺は一旦2人を逃すことにした。
2人がいたら、広範囲の魔法が使えないし、普通に危ないからな。
「セリーナ!リリナ!2人は先にギルドにかえっててください!この場は俺がなんとかします!」
「で、でも…」
いうこと聞かなさそうなので強制的に送ることにした。
「転移!」
2人を無事にギルドに送った俺はゼノスと距離をとって構える。
不意打ちにはガードでしか対応することができなかったが、次は返し技を決める。
ゼノスが一気に距離を詰めてくる。
刃が下方向から迫ってくる。
俺は反射的に剣を抜き、ガードしたが、予想外の攻撃に返し技が出せず、少し傷を負ってしまった。
ゼノスは俺の姿を見てニヤリと笑う。
前世で学んだ剣道には、下から刃を振り上げて切るような動作は存在しなかった。
こればっかりは前世の癖だ。これから直していくしかない。
俺は剣を鞘にしまい、魔法で対処することに決めた。
「氷符 氷凍光!」
俺はゼノスの足元に氷結系の魔法を放つ。足元がふらつく。
その隙を逃さず、俺は叫んだ。
「蒼炎流抜刀術 神殺し!!」
素早い一閃をゼノスに叩き込んだはずだったが、手応えが全くない。
はっ!やばい、アニメのこういうシーンって大体後ろに敵が…!!
俺が咄嗟に後ろを向いた時には半分遅かった。
ゼノスの刃は完全に俺を捉えていた。




