流転[6]
朝がやってきた。
今日、カインに勝ったら旅に出れる。
俺はこれまでカインに勝ったことはない。
しかし、これまで本気を出したこともない。
今までは、剣術による勝負だった。
しかし、今回は魔法も使ってよし、
俺にも十分勝ち目はある。
朝庭に出ると、木剣を持ったカインが立っていた。
「おう、意外に早いじゃないか」
「お父様こそ」
お互い、見つめ合う。
「お互いこれ以上会話は要らなそうだな。」
「そうですね。」
お互い構える。カインは低く構えた。
俺は昔から習ってきた剣道の構えをした。
俺の一番得意な構えだ。
お互いの呼吸が共鳴しているのがわかる。
風がなびく、鳥がさえずる。
その瞬間。勝負は始まった。
この感覚には武道家にしかわからないだろう。
始める合図がなくとも、お互いの目と呼吸で始まるタイミングを見計らう。
お互いの心が合った時、勝負は始まる。
カインが低い位置から間合いを詰める。
魔法を回避しやすくするためだろう。
下の角度から俺の喉に向かって攻撃が来た。
俺は身体強化を発動し、
カインの攻撃を受けた。
受けるというより、受け流したという方が正しい。
今、受け流したことによってカインの力の向きは上に向いている。
「大突風!!」
カインの力の向きと全く同じ方向に魔法を発動させる。
それによって、カインの体は高く舞いあがる。
ここで勝負を決める。
しかし、そう思った瞬間。俺の直感が働いた。
離れなければならない。
離れなければ、負ける。
俺は咄嗟に間合いをとった、
カインは落下しながら地面に大きく切り込む。
カインの重い剣を喰らった地面には、直径2mくらいのクレーターができていた。
引いて正解だった。
しかし、もたもたしている暇はない。
落下の反動を使ってカインが大きく踏み込んでくる。
カインとの間合いがもう一度縮まる。
同じ手は通用しない、
ならば…!!
「大氷撃!!!」
カインの足元を凍らせた。
このまま切り込む…!!
カインは、足元がふらついた。
その影響でたった一瞬、反応遅れた。
そして、俺に負けた。
「さすが俺の息子。見事だった。」
「やっとお父様に勝てて嬉しいです。
約束通り、旅の許可はもらいますよ?」
「ああ当然だ。
そんなことより、そこの2人が何かお前に頼み事があるらしいぞ。」
そういってカインは俺の後ろを指差す。
そこにはセリーナとリリナがいた。
「2人とも…!どうしたんですか?」
2人とも、すごく緊張しているようだった。
別れの言葉だろうか、自分からいうつもりだったのだが…
2人からわざわざ言いに来てくれたのか、少しほっこりした気持ちになる。
「カイル様。本当に迷惑なのはわかってます。
わかってますけど…!!お願いしたいことがあります!」
そういって2人は息を合わせてこういった。
「「わ、私たちも旅に連れて行ってください!!」」
「え?」
俺は思考が停止した。
「え、セリーナとリリナが俺の旅について行きたい…ってことであってる?」
2人はうんうんとうなづく。
「多分、ついていっても何にも面白くないと思いますよ?」
「それでもいい!」
「カイル様と一緒にいたい!!」
2人はこう言ってる。
でも危険なことに巻き込みたくないし…
そう思っていると、カインが声をかけてきた。
「カイル、お前の考えてることくらいわかるぞ、
どうせ、この2人を危険なことに巻き込みたくない!って思ってるんだろ?」
「なんでわかったんですか?!」
「息子の考えてることくらい手にとるようにわかるさ。
実は2人もだいぶ前からお前が旅に出たがってることを知ってたんだぞ?
でもお前と離れたくなかったらしい。
だから、ついていっても足手まといにならないようにエリスから魔法も教えてもらってたんだ。」
「そうだったんですね…」
「もし何かあったら、お前が守ってやればいいさ。
一緒に行ってやれ。」
俺は覚悟を決めた。
「2人とも、顔をあげてください。
これからの旅は、危険なことが待っているかもしれません。
もしかしたら、命を危険に晒すようなことになる可能性だってあります。
でも、ここまでしてくれた2人の思いを無駄にはしたくないです。
だから、2人は俺が守ります。
これからもよろしくお願いします。」
そういって、俺たち3人はぎゅっと抱き合った。
それから、俺たちは旅に出るための身支度を一通り済ませた。
そろそろ出発の時が近づき、俺たち5人は家の前で集まった。
「セリーナ、リリナも気をつけてね。カイルのこと、頼んだわよ。」
「もちろんです。カイル様のことは私たちに任せてください。」
俺はエリスとカインの方に近寄った。
エリスは泣いている。
「お父様、お母様、本当にありがとうございます。」
「まだ9歳なのに、こんなに立派に育ってくれて、ほんとに嬉しい…」
「次に会ったときは、絶対に勝ってやるからな。」
俺はエリス、カインと抱き合った。
「では、いってきます。」
俺はそう言って家を後にした。