流転[4]
次の日になり、俺は母から魔法の授業を受けていた。
正直に言うとつまらなかった。
母は熱心に教えてくれてたが、やっぱり宗教くさい。
「魔法ってのは、体内の魔力っていう力を消費して使うものなの。
そして、魔法を使うには詠唱をしないといけない。
魔法を極めていくうちに、詠唱を短縮したり、詠唱なしで使えるようになるわ。
私が使ってみるからちゃんと見ておくのよ。
『精霊よ、我が力を受け取り、今ここに、敵を打ち砕け![水弾]』!」
ただ詠唱を聴いた時はなんの関心もなかった。
しかし、エリスが詠唱を唱え終わった瞬間、俺は目を疑った。
エリスの手から勢いよく水の弾が出たのだ。
見間違いかと思い、エリスにもう一度魔法を使ってもらうようにお願いした。
「お、お母様!!もう一回お願いしてもいいですか?!」
「?いいわよ。今回は詠唱を短縮するわね。『[水弾]』!」
本当に手から水が出ていた。
見たところ、小細工などは何もなかったはずだ。
そこで、今までの不可解な出来事を思い出す。
今までの不可解な言動、
聞いたことのない地域、
剣をふるう父、
魔法を使う母、
現実世界よりも少し遅れた文明…
これらの出来事を頭の中でぐるぐるめぐらせていた。
すると、全ての出来事を矛盾ひとつなく説明できる一つの答えを見つけた。
そして、今回の魔法ってのが何よりの証拠だ。
そう…ここは…
異世界だったのだ。
それに気づいた瞬間、魔法に対するやる気が出てきた。
「お母様!僕にもその魔法教えてください!!」
「あらあら、カイル、やっとやる気が出てきたわね!!」
俺はそれからも、毎日のように剣と魔法を交互にやる毎日が続いていた。
ここが異世界と知ってからは、両方ともに真剣に打ち込んだ。
この世界のモラルや常識について学ぶことにも力を入れている。
そういう系に関しては、セリーナやリリスに色々なことを教えてもらっていた。
まず、この世界の魔術や剣術に階級があるらしい。
さらに剣術は主に「蒼炎流」「静水流」「影刃流」「風無流」
という四つの流派に分かれる。
それぞれの流派の特徴があり、階級も流派ごとに分かれている。
蒼炎流は、スピードと攻撃力を意識した流派。
しっかり構え、一撃一撃が早く鋭く重い流派だ。
現代の剣道で言ったらシンプルな面打ちとかが蒼炎流にあたるのだろう。
清水流は、一言で言えばカウンターだな。
相手の出る瞬間を捉え、素早くカウンターを決める。
現代の剣道でいう返し技、擦り上げ技、出花技、だな。
影刃流は、主に奇襲として使う流派だ。
どんな姿勢や構えでも、素早く相手の急所に不意打ちして勝負を決める。
暗殺向きって感じがするな。
風舞流は、軽快さと機動力を生かしたスタイルが特徴的だ。
相手の攻撃を受けるのではなくかわし、素早く近づいて攻撃する。
忍者が戦ってる様子とか想像したら分かりやすいかもしれない
そして、この4つの中にも階級があり、初球、中級、上級、
ここまでは全部統一。
それ以降は各流派から一文字づつとって、王、帝、神がつく。
蒼王、蒼帝、蒼神
水王、水帝、水神
影王、影帝、影神
風王、風帝、風神
となる。魔法は結構単純で、
初級、中級、上級、王級、聖級、神級、聖王級、神王級、
との、8階級に分かれる。
魔法は、使える魔法に応じて階級が決まる感じだ。
初級の魔法まで使えるなら初級魔術師。
神級まで使えるなら神級魔術師。
みたいな感じだな。
ちなみに、魔法使いも剣士も、大体の人は中級で伸び悩むらしい。
カインは全ての影刃流は上級。
それ以外は全て王の階級まで会得している。
エリスは、王級魔術師。
ちょっと前まで現役冒険者として働いていたらしい。
セリーナとリリナは風舞流を上級までかじっているらしい。
この世界のメイドにはある程度戦闘力が求められるからだ。
俺は多分今の状況だと蒼炎上級、清水上級くらいまではいけそうかな。
影刃流が一番苦手かもしれない。
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ある日、カインと実践稽古をすることになった。
「カイル、俺が石を投げ、石が地面についた瞬間にスタートだ。」
「分かりました。お父様。」
お互い木剣。
だけど緊張する。
技量では勝てる可能性はある。
しかし、相手は大人。単純な筋力で何倍もの差がある。
カインが石を投げ、緊張が走る。
——————落ちた。
カインは風舞流の足捌きで素早く間合いまで詰めてきた。
そして、蒼炎流の構えをとった。
色んな流派をかじるといいとこ取りができると言っていたのはこのことか。
俺はこのまま頭に縦向きに攻撃が来ると予想。
現在の間合いはギリギリ返し技が使える範囲内。
俺は「返し胴」という技を打つことにした。
頭に向かって縦向きに来た刀を前で受け、空いた腹を打つ技だ。
この技をチョイスした理由は二つ。
一つ目、単純にこの技は頭に来た縦の攻撃にトップレベルに強いからだ。
二つ目、この技が日本の剣道の技でこの世界にはない技だ。
つまり、初見のカインにとって対処しにくい可能性だ高いのだ。
俺はカインの攻撃を木剣で受けた。
しかし、驚いたことに木剣が手から離れ、転げ落ちる。
しくじった、カインの攻撃がここまで重いとは思っていなかった。
結果はカインの圧勝だ。
「カイル、お前は形も綺麗だし、タイミングも間合いの取り方も完璧だ。
今使った技も、初めて見る技だが、限りなく理にかなってる。
お前が俺に負けたのは単純な筋肉量の差だ。
筋肉がついてきたらあっという間に追いつく。
だから負けたからって落ち込むな。」
「ありがとうございます!お父様!」
確かに返し胴は有効的だけど、やはり筋肉量的にうまく扱えないのか。
確かに、俺も小さい頃は返し胴がうまく打ててなかったからな。
だけど、俺がカインに負けた理由はもう一つある気がする。
正直いうとカインの身体能力は人間からかけ離れている。
剣士はみんなそうなのだろうか?
この世界の人間だから、と言ったら一言で終わってしまうだろう。
しかし、それ以外の要因がきっとあるはずだ。
カイルと戦う時、お互いに構えた時、一瞬だけど空気が揺らぐ。
もしかしたらこれに関係があるのかもしれない。
「お父様は、剣術を使う時だけ、異様に身体能力が高くなりますよね?
あれってなんでなんですか?」
「あれは…なんでだろうな。
確かに剣術をするときだけ自然と体が軽くなる気がする…
なんか、力を入れたら、その一部にグワァーって力が湧いてくるんだ。
魔法を使う時と少し似てるかもしれないな。」
話を聞いたかぎりの憶測だが、
この世界の剣士の身体能力の高さには魔力が関わっているのかもしれない。
それなら空気の揺らぎも魔力によるものであると納得がいく。
俺は身体能力を上げる魔法があるのかをエリスに聞いてみた。
「身体能力を上げる魔法?あるわよ。でも、正直効果は今一つって感じよ?」
「それでもいいから教えて!」
俺はエリスに身体能力を上げる魔法である身体強化を教えてもらった。
早速使ってみると、身体能力が少し高くなった印象がある。
でもこれじゃあカインほどの身体能力を引き出すのは厳しい。
しかし、使ってみてわかったことがある。
一つ目、この魔法の効果は足し算ではなく掛け算だ。
だいたい約2倍になる。
つまり元の身体能力が高ければ高いほどこの魔法の恩恵も高くなる。
元の身体能力が低い魔法使いからしたら恩恵が低い。
だからあまり広まってない魔法なのだろう。
二つ目、範囲を限定的にすればするほど恩恵が高くなるということ。
範囲を絞ればそこに魔力が集中し、身体能力の強化倍率が上がる。
俺の予想だが、剣士たちはこの魔法を自然に身につけているのだろう。
移動の時は足、攻撃する時は手、
などのように瞬時に効果範囲を切り替えて戦う。
それによってさらに身体能力をあげて戦うことができる。
どれくらい素早く範囲の切り替えができるか、
それこそが、中級で止まるのか、それ以上の階級にいけるのか、
という分かれ道なのかもしれない。
そうと解かれば練習あるのみ。
このような類の魔法は無詠唱で発動できるレベルまで極めないと意味がない。
なので、毎日魔力がなくなるまで身体強化を使い続けた。