旅路[12]
その瞬間、建物が崩壊した。
これは予想外だった。
こういう時はまず、身体強化魔法を頭に全振りしてIQを人外レベルにする。
おおよそだが、普段1時間かかるものを1秒で考えられるようになる。
今回は転移魔法を使ってここから脱出することにした。
この世界の転移魔法というのは実に複雑なため、注意が必要だ。
転移魔法と聞いた時の一般認知としては、そこにある物体自体を瞬間的に移動させるという認識が近いだろう。
しかし、この世界の転移魔法は違う。
簡単にいうと、転移対象を移動させるではなく、空間自体をぐにゃりと曲げて擬似的に移動させる仕組みだ。
発動方法に関しては、「対象を転移」という発動方法ではなく、「対象から半径〇〇mの範囲を転移」
という発動方法になる。
さらに、転移先と転移対象の事前登録が必要になる。
今回で言うと、俺が登録しているのは俺自身と他の2人だけ。
この3人を中心に、範囲を指定して転移させるのだ。
転移先も、事前に魔法陣を組んだところにしか転移できない。
しかし、瞬間転移は別物だ。
瞬間転移は、高速で移動しながら時間を飛ばすことによって発動する。
時間を飛ばしているため、他人から見たら瞬間的に移動しているように見える。
つまりは、時間に干渉して転移しているのだ。
しかし、干渉できる時間は一般的には0.01秒にも満たないため、転移できる範囲は限りなく狭くなる。
今回使うのはもちろん前者、もしものことがあった時のために転移先をアジトの外に指定してある。
俺は転移魔法を発動させた。
(ここまでの時間、0.03秒)
身体強化を解いた。
反動で頭がクラクラする。
2人の様子を見ると、何が起こったのか分かっていないようだった。
一応、魔力探知を発動する。
どんな生物にも魔力はある。
生きていたら反応するはずだ。
地下にいた人たちは全滅していた。
建物が全て崩壊し、その重みのほとんどを乗せられている状況だ。
即死に決まってる。
崩壊から生き延びて這い出てきた者に関しては拘束した。
その中に首謀者がいるのかどうかの判断はつかなかったが、とりあえず国にこいつらを受け渡した後事情を説明した。
国側としては特に気にしないとのことだった。
妙な違和感を感じ、やけにすっきりしなかった。




