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童貞喪失、それ即ち死亡フラグ 1

目を開けた瞬間、俺は思った。


ここ、絶対エロゲだ。


ありえんほど眩しい日差し、クラスメイトたちの適度な笑い声、

窓辺でそよぐカーテンに、すぐ近くで聞こえる鳥のさえずり――

どう見ても“ラブコメ開幕前夜”みたいな空間に、俺はぶち込まれていた。


……いや、ぶっちゃけ、既に感動していた。


「……テンプレすぎて逆にありがたいな……」


ガチの無一文で、現実じゃ冷蔵庫に水すら無かった俺が、

今、清潔で整った教室に制服姿で座ってる。

しかもこれは《VRゲーム》。女の子とエッチなことができるという噂の、テスター限定・超高性能18禁ゲー。


ついさっき、怪しげな事務所で契約して、

ベッド型の機械に寝かされて、気づけばこの世界。


正直、まだ現実感ないけど……。


「陽炎くん、現実感なら今から実感させてあげるよっ!」


「へっ?」


背後から声がして、反射的に振り返る。


そこに立っていたのは――


淡い金色のセミロングを、ハーフアップでまとめた女の子。

ぱっと見は学年に一人はいそうなタイプの、元気そうな美少女。

でも、よく見ると、髪には銀色のパーツが埋め込まれ、

目は水色で、光の加減で時々スキャンでもしてんのかってくらい反射する。


「ど、どちら様……?」


「わたしはこのゲームのサポートAI、ひかりちゃんですっ!」


「はいAI来たー!」


俺は叫んだ。

ていうかこの子、笑顔が完璧すぎる。口角の角度、まばたきの間隔、声のトーン――

どれをとっても“人間っぽく作られた何か”って感じがすごい。怖いくらい自然。


「ふふ、陽炎くんってば目が鋭いな~。でも、それも含めて“恋の演出”なんだからね!」


「いやサポートAIって聞いて、もっと無機質なの想像してたわ。

 モニター越しに『次は右に曲がってください』的な……」


「うわぁ、それ恋できる? 絶対できないでしょ? だから私が来たの♪」


ノリもトークも軽い。けどこの距離感の近さは完全に女の子。

ほんとにAIか疑うレベル。というか、これ絶対エロいことできるやつだろ……?


「……触ってみてもいい?」


「はいストップ!!!!」


パァン!!!


最高速度のビンタが俺の右頬に突き刺さった。


「……っいてぇ……AIの癖に容赦ねぇな!?」


「陽炎くんがスケベすぎるだけです!」


「でも! だって! このゲーム! 18禁って書いてあったし!」


「18禁でも!女の子にすぐ触ろうとするのはめっ!だよ!」


一瞬で制裁されたが、逆にリアリティを感じた。

このAI、思った以上に……“人間”だ。

しかも俺よりまっとうな。



「それじゃ、陽炎くん。説明ターンいくよ!」


ひかりはすっと俺の前に立ち、胸元からタブレットみたいなホログラムを取り出す。

見たことないデバイス。しかも手の動きに合わせて浮遊してる。完全に未来。


「ここは、VRゲーム《BET:END》のスタート地点!

 高校二年生の春、陽炎くんがとある学園に転校してきた……って設定から物語が始まるの!」


「お、おう……テンプレ通りすぎて逆に怖いな……」


「陽炎くんの目的は、ズバリ、“恋”!」


「恋……ってだけ?」


「そう。誰か一人と、ちゃんと恋をして、卒業式まで添い遂げるの。

 その先に、“君だけのエンディング”があるからね!」


「……いやでも、エッチは?」


「それは、がんばったらね?」


「がんばり方にも種類があるんですが!!」


このAI、完全に煽ってくるスタイル。

でも、嫌いじゃない。むしろ好きなタイプ。


「じゃあ、そろそろ“ヒロイン候補”の子に出会ってもらおっか」


「マジで出るの? もう出るの?」


「うん、いるよ。そこに」


ひかりが指差した先――

教室の隅、俺の隣の席には、一人の少女が座っていた。


黒髪のセミロング。うつむいてノートを開いてる。

喋ってはいないけど、静かな空気をまとっていて、他の“作り物のモブ”とは何かが違った。


「……あの子?」


「うん。彼女が、今ルートのヒロイン、“中戸 現”(なかと うつつ)


「う、現……って、名前からしてゲームっぽいな……」


「そりゃあゲームだからね。彼女はね、ちょっと重たいかも。でも、それが最初の恋のレッスンにはちょうどいいって判断されたんだって♪」


「ちょっと待って、恋のレッスンって何……? 俺、恋を教えられるの? エロじゃなくて?」


「そのへんも、プレイしていく中で明らかになるよ~。それじゃ、がんばってね陽炎くん!」


バイバイ、と手を振ったひかりは、まるで消えるエフェクトでも発動したかのように、

空気ごと、音もなく消えてしまった。


「……やべぇ。マジで始まった……」


残された俺は、改めて現のほうをちらりと見る。


変わらず、俯いている。ノートに何かを描いてるような手元。

ただ、周囲とまったく交わらないその姿に、どこか“違う世界の人間”みたいな空気があった。


「……まあ、最初だし。軽く挨拶くらいは……な」


俺は一歩、彼女の席の方へと足を踏み出した。

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