表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

プロローグ:残高80円とエロゲで人生逆転

スマホの画面に表示された数字を見た瞬間、

俺は本気で息が止まりそうになった。


預金残高:¥80


八十円。

数字にすればたったの三桁未満。

けれど、現実を直視するには十分すぎる金額だった。


「マジかよ……」


思わず呟く。

けど、当然画面は何の反応もしない。

この通帳は、俺の人生の終わりを静かに告げていた。


死にかけている。

いや、むしろすでに死んでいる。


冷蔵庫は空。

部屋はゴミと気さくな同居人(むし)まみれ

あと三日もすれば電気も、水も止まる(ガスはすでに止まっている)。


そんな俺――葛葉陽炎(くずばかげろう)の人生を少し、振り返ってみよう。

なあな時間は取らせない、A4用紙で換算すればペラ1で終わる話だ。


幼少期…思えば俺が1番輝いていた時期だろう。

ベビーカーに乗る俺の愛らしいフェイスは、

それはそれは可愛らしく、女の子によく間違われたとか。

母はそれが嬉しく、真夏の炎天下だろうが真冬の極寒の中だろうがよく散歩をしていたらしい。

お陰様で環境の変化に強い体になりました。


続いて小学生。

この頃も至って普通だった、が。

俺の唯一の特徴とも言って良い、スケベさはこの頃から芽生えたものだ。

具体的な思い出は…今はまだ、語らないでおこう。

少しだけお漏らしすれば、当時の俺のあだ名は、

飛び級させるべき才能(エロガキ)

であり、通信簿の先生コメント欄には必ず、

奔放な子、の一文字が入っていた。


中学・高校は割愛。


高校卒業後、何と無く入った大学にはヤリサーなんてものは無く中退。

何と無くフリーターになったものの、女性関係のトラブル(犯罪になるようなものではない。俺は紳士なのだ)が相次ぎ、続かず。

今は何と無く、ニートをやっている。


両親とは絶縁、彼女いない歴=年齢、性欲だけは人一倍。

AVと妄想にまみれた生活の中で、

「本物の女とエロい事をしたい……」という熱意だけがなぜか日々強くなっていった。


風俗に行こうとしたこともある。

けど、街を歩けばそこら中に可愛い子はいるわけで、

「金払ってヤるとか、負けじゃね?」っていう謎のプライドが俺の足を重くさせる。

結局、女の裸は画面の中と母のものしか見たことがない。

…嘘だ。近所のばーさんのもある。

記憶から消していたが、庭で乾布摩擦しているところをたまたまお見かけしたのだ。


記憶削除



「こんな俺にも、ワンチャン……いやツーチャンくらい……エッチな奇跡、こねーかな……」


そんな願望にまみれながらスマホをスクロールしていたら、見つけた。

一件の求人。



『高額報酬・即日参加OK!』

『18禁VR恋愛ゲーム テスター募集』

『男性限定・経験不問・性に興味のある方歓迎』

『報酬:10万円+プレイ内容によって追加報酬あり』



「……神か?」


読み間違いじゃない。

エロいゲームをやって、10万円。

しかも追加報酬まである。

やらない理由が、どこにもない。


“18禁VR恋愛ゲー”


技術の進化とは、全くもって恐ろしく、

なんかもう、触れるし、匂うし、抱ける。らしい。


AIは脈拍や視線まで読んで「好感度」を測り、

プレイヤーの反応によってヒロインの態度もガンガン変わる。みたいだ。


シミュレーションというより、もはや本番とはよく言われており、

リアルの女に告白してフラれて落ち込むより、

VRの女に「ねぇ、続き……する?」って囁かれるほうが数億倍癒される。はずだ。


しかも可愛い。

しかも自分に気がある。

しかも反応がいい。


そりゃもうみんな現実に戻らなくなる。

いや、俺もその“みんな”側にずっと回りたかった。


けど、現実は非情で、VRエロゲーは意外と高い。

先ほどから感想が他人事なのは、

俺自身は未だに体験をした事がないからだ。

人気タイトルは抽選制、誰でもできるわけじゃない。

リアルも電脳も童貞である。


だからこそ見つけたときは、ガチで手が震えた。


これしかない。

俺の人生、ここから始まるしかない。


「いい時代に生まれたよな……」


俺は呟きながら、

“18禁VRゲーム テスター募集”のリンクを、迷わずタップした。



------------------------------------------------


長ったらしいアンケートに時間は取られたものの、

送ってから数分で、合格の通知と共にとあるビルの位置情報が送られてきた。


まさかの即日、集合だ。

いよいよもってヤバい案件かも知れないが、

俺も男の子だ、というか逃げても生きていけるあてがない。


電車賃も無かったが、幸い歩いていける距離だった。

茹で上がる暑さの中歩き続け、

着いた先は都内の片隅にある古びたビルの一室。

小さなプレートには、こう書かれていた。


『BET:END テストセンター』


扉をノックしてみると、中から、


『どうぞ〜』


の一声。


中に入ると、空気がひんやりと静まり返っていた。

無駄に高級感のある内装に、革張りのソファと紅茶の香り。


そして、俺の前に現れたのは――


「やあやあ、葛葉陽炎くんだね? ようこそ!」


金髪のツインテール。

ぱっと見、小学生にしか見えない女の子。

だけど妙に大人びた口調で名乗ってきた。


「プニア・ナオ・ナホールです。プニって呼んでね!」


「え、えっと……はい……(ロリ……?)」

頭が混乱する。

けど声は可愛い、正直ちょっとアリ。


「そしてこちらは、わたしの執事!」


プニの隣に立っていたのは、

完璧なスーツに身を包んだ長身の男性だ。

身のこなしも姿勢も仕草も、

どこを切っても“優秀な執事”そのものだった。


「アヌス・パンパンです。以後、お見知りおきを」


「ア……ヌス……?」


「ご心配には及びません、名字です。

お嬢様の身の回りのお世話、また今後は陽炎様のお身体のケアも行わせて頂きます。以後お見知り置きを」


「……あ、はい」


深々とした一礼も堂に行っており、

その所作に思わず黙らされてしまった。

何だろう、よくわかんないけど怖い。


立ち尽くした俺はプニとアヌスに案内され、応接間のような部屋へと通された。


部屋の中にはテーブルと一枚の契約書。

それと様々な医療機器のような何かと、

ベットタイプのVRゲーム機器があった。


「陽炎くんには、18禁のVR恋愛ゲーム《BET:END》のテスターをしてもらいます」


「!? はい!!」


「知っての通りだと思うけど、”18禁”って書いてあったでしょ? つまり…そういうことだよ!」


「……マジで……エッチできる……!!」


「まあ、上手くいけばね? ふふっ」


プニは悪戯っぽく笑った。


契約書には色々書いてあったけど、

ほとんど目に入らなかった。

“ゲーム内での選択と行動は現実に影響しない”とか、

“プレイ中の記憶処理に関する免責”とか――たぶん大したことない。


それよりも重要なのは、ただひとつ。


「ついに捨てられるんだな…さらばマイ親友(どうてい)!」


「それだけが目的なら難しいかもしれないけど……ま、童貞くんが頑張れば、ね?」


「ヤります!!!」


思わず大声で立ち上がった。

これが、俺の人生の転機――童貞卒業の第一歩かもしれないのだ。



「それじゃ、装置をつけて――いってらっしゃい!」


アヌスが恭しく差し出したVRヘッドギアを頭に被せる。

重厚な質感と、視界の暗転。

微かな光が脳裏を走り――


俺は、新しい世界に、踏み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ