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在る天使の墓場  作者: ピカイア
第1章
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4話 ひとかけらの勇気

「さーて、このまま俊足の君を殺すか…いや、逃げ足も早いだろうからな、先に"感情石"だけ回収しようか…迷うねー……」


「くそ、何とかしねえと、あの女の子が…!」


「エル!そこの桃髪の子!しゃがんでくれ!」


茂は慌てた様子で僕たちに指示を飛ばす。


「茂、何するつもりで…」


「こういうことだ!」


そう叫ぶと、先ほどの轟音が再び響き渡る。


「さっきの音速…いや、ずっと音速で動き回るつもりか!」


「当てずっぽうかよ、品がないねー」


「とはいえ、ちょっと面倒くさくなっちゃったね。これでは迂闊に動けないな……」


「がはっ!」


男の吐血音が聞こえる!一撃ヒットした!


「…捉えた!お前はここだな!」


「トドメだー!」


茂の追撃。今度こそあの男…ゲシュを倒せる!


そう確信するのは自然な道理だった。


      ドン!!


衝撃音と共に暗闇から光が差し込んでくる。

そして、そこで見た光景とは…


「茂!!」


「がはっ…悪い、しくっちまった…」


膝をついて苦しそうに息をする茂。弾丸がふくらはぎを貫通してしまい、歩くこともままならないようだった。


「運は良かったけど、実力が伴ってなかったねー。」


「この拳銃から放たれる銃弾の速度は秒速にしておよそ500メートル。君がこちらに向かって突っ込んでくると予想がつけば、撃ち抜くのはそう難しいことじゃないんだよ。」


「さて…増援が来ても厄介だから、君を殺してさっさとトンズラしようかな〜」


まずい…このままじゃ、茂が殺されてしまう…


「止めないと…」


しかし、その時の僕を取り巻く感情は違っていた。

男への恐怖…そして、たとえ茂の身が危険に晒されようと、無能力者で、男に警戒されていない自分は助かることへの"安堵"だった。


結局僕も、自分の身が大事なんだ。

自分が行動を起こせば、例えば電話をすれば、茂を救えるかもしれないのに…!

やっぱり僕は、自分のことが……






「どうしたの?悩み事?」


「この声は…詩織義姉さん?なんで僕の部屋まで…」


遡ること数ヶ月前の事。ふと僕が顔を見上げると、そこにはこちらを覗き込むように首を傾げる詩織義姉さんがいた。


「うん?たまたま通りかかっただけだよ。そしたらエルが俯いてたから、悩み事かなあって。」


「すごいね詩織義姉さん。分かっちゃうんだ。」


「なんてったって、お義姉ちゃんだからね!エルのことなら何でもお見通しだよ!」


ふふん、と鼻を鳴らしてアピールする詩織義姉さん。その無邪気な振る舞いに、ついつい心が緩んでしまう。


「…いや、そんなに大したことじゃないんだよ。」


「??」


最早隠しようがないと感じた僕は、唐突に話を切り出す。僕の話の内容に要領を得ない義姉さんは相変わらず小首を傾げたままだ。


「今日の登校中、交差点で信号待ちをしていたらさ、横道からこっちに来るおばあさんが転んでるところを見て。」


「助けなきゃって、そう思ったのに、ついつい臆病になっちゃったんだ。」


「ほんの少しの勇気が出せなくて、「まあいいか」って見て見ぬふりをする、そんな自分のことが嫌になっちゃって…」


「そっか、そんなことがあったんだ。」


「……やっぱりエルは優しいんだね。」


「えっ?」


思わぬ返答に困惑する僕。一方僕の方をまじまじと見つめる義姉さんは話を続ける。


「だって、おばあさんを助けないことに罪悪感を感じてるんでしょ?それはエルの性根がいい人だってことの証拠だと思うよ。」


「でも、その時の僕は何もしなかった。行動の伴わない良心なんて、エゴでしかないよ…」


僕が胸の内をぶちまけると、義姉さんはふふ、と笑みをこぼす。


「もう、そんなに自分のことを卑下しないで。私の弟を悪く言うのは、誰であろうと許しません。」


むっ、と少し眉をひそめてわざとらしく怒る義姉さん。


「大丈夫、エルは優しいよ。」


「それでも勇気が持てないなら…私が背中を押してあげる。」


「勇気が出ない時は、義姉さんのことを思い出して。義姉さんは、どんな時でもエルのことを応援してるから。」

「それで、エルがほんのちょっぴり勇気を出してくれたら、嬉しいな……」






僕のことを、優しいと認めてくれる人がいる。

僕を信じてくれる人がいる。

そんな人たちを裏切っていいのか、エル!


「ほんのちょっぴりの勇気…今出すよ、義姉さん!」



「…うん?なんか言った〜?」


「お、おい!そこの怪しいやつ!その子に危害を加える前に、僕を倒していけ!」


「?!エル!何言ってんだ!」


「…ああん?お前のような無能力者が僕に叶う訳ないだろ。自殺願望者かー?」


「まあいいや、僕は慈悲深いからね〜。それならお望み通り、苦しまないように脳天一発で逝かせてあげるよ〜」


男はゆっくりとこちらに近づいてくると、銃口を僕の眉間へと向ける。

ヤバいヤバいヤバい!!何やってんだよ僕、どう考えても勇気出すタイミング今じゃないだろ!やっぱり死にたくない!!生きたい生きたい生きたい!


何でも誰でもいいから僕を助けてくれ、急に雷が落ちるでも、銃が故障するでも何でもいいから!


「あははっ、死ぬのが怖いのかな?面白いように表情がコロコロ変わるね〜。殺すのが惜しくなるや。」


「まっ、死んでもらうけどね。じゃーn

  

   ゴロゴロゴロ…ビシャーーン!!


「ぎいああっつつ!!」


辺りが一瞬眩くなったかと思えば、先ほど以上のとてつもない轟音が鳴り響く。


あ、あれ…?僕、死んでない……?

恐る恐る目を開けると、男は白目を剥いて膝をついていた。あたりからは煙が立ち上っており、焦げ臭い匂いが鼻を刺す。


「これって…雷?まさか本当に…」


「おいエル!無事か?」


僕の様子を伺うように、向こうから茂が声をかけてくる。


「うん、僕は大丈夫…でも、これは……」



「おい…何勝ち誇ってんだ…」


「…うそ!まだ動けるの?!」


男が重傷であることは誰の目から見ても明らかであったが、執念だろうか、男は立ち上がり僕を睨みつけている。


「弱者のくせに強者であるこの僕に逆らった…これがどれだけの重罪か、分かってるんだろうな〜?」


男はドスの聞いた声を張り上げる。


「お、おいエル!さっきのすげえ攻撃、お前がやったんだろ?もう一回できないのかよ!」


「そ、そんなこと言われても…」


「その技、連発はできないみたいだな〜?いや、そもそも能力のコントロールすらおぼつかない感じか…」


「なるほど、結構なことだね〜。なら、若い芽は今のうちに根絶やしにしてやろう。」


「ここでくたばれ!」


「ちょっ、何でもしますから許してください!命だけは…!」


僕の命乞いも虚しく、男はリボルバーに弾丸を装填し始める。

結局僕は誰も救えなかった…こんなところで死ぬなんて、嫌だなあ……


「…〜〜……!!」


うん?まだ茂が何か言って…


「エル〜!伏せろーー!!」


「いや、もう伏せたってどうこうなるものじゃないって…」


「違う、上から───


       ドォォンン!!




「お、お前は……!」



「…まったく、こんなひよっこたちをいじめて何が楽しいのかしらね。」

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