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御前集会のお誘い①

 


 放課後は池田とゲーセンに行く約束をしていた。


 今月も僕たちはメダルゲームをやらなければいけない。もはや僕と池田に課せられた義務になってしまった。


 何故なら僕たちは大量のメダルを所持しているからだ。去年の学祭終わり、池田と2人でゲーセンに行った。適当に1000円から始めたメダルゲームだったが池田が見事にジャクポットにメダルを入れた。そしたら機械が壊れたのか心配になる程、僕たちの足元からはメダルがじゃんじゃか落ちた。僕たちはメダルの世界では億万長者になってしまった。


 メダルはゲームセンターで預かってもらっていて1ヶ月受け取りを放置したらメダルは失効する。もうメダルゲームはやり飽きたが失効するのはなんだか勿体無い。そんな理由でもう半年以上月一でメダルゲームをしに行っている。


 僕の高校生活はこんなので良いのかとたまに心配になる。


 帰りのHRが終わり、掃除当番の池田を僕は廊下で待っていた。放課後は別にスマホを使っていても教師からは怒られない。僕は池田から勧められた倉橋由美子の小説をスマホで読んでいた。


 その時、「長谷川って何組?」と遠いところから男の声が聞こえた。どんなに喧騒とした放課後の廊下でも自分の名前には反応してしまう。カクテルパーティー効果は侮れない。


 誰か僕を探しているのか。部活にも入らず目立たずの僕に用事なんてあるのか。僕はスマホから目を離さないまま、僕の名前を読んだ奴が誰か必死に考えた。まぁ考えたと言っても15秒ほどだ。僕の名前を読んだ相手はすぐ目の前に現れた。



 「お前が長谷川か?」



 聞いたことない男の声。僕はすぐには顔を上げずスマホを見ていた。そして少し視線をずらし男の靴を見た。赤…3年生か。僕たちの学校靴は白を基調としたスニーカーにカラーのラインが付いている。1年は緑、僕たち2年は青、そして3年生は赤色だ。だから僕たち学校の上下関係は足元を見たら一瞬で分かるのだ。


 何故3年が。僕なんかに。


 「おいお前いい加減顔上げろよ」


 僕はゆっくりと顔を上げ目の前の男の顔を見た。男は僕より背も体格も一回り上だった。短髪とは言えない伸びかけの髪は、男が最近まで野球部だったことがわかる。


 「長谷川だな」と男は威圧的に言った。


 僕は「そうですが」と言って男の目から視線を離さなかった。離したら殺されると思ったからだ。


 「ドッペルゲンガーな」


 「は?」


 一瞬、男の周りが黄色く光った。そして首元には黒の荊のタトゥーが見えた。

 

 また幻覚だ。再び瞬きしたら男の周りの黄色い光もタトゥーも消えていた。


 「安心しろ俺たちは仲間だ。お前を…御前集会に案内する」


 男は歯並びの悪い歯を見せつけるような汚い笑顔でそう言った。

   



 僕がカツアゲされていると思ったのか、池田が血相変えてこちらに駆け寄った。


 池田の右手にはチリトリがあった。池田…ごめんだけどその武器じゃマジで頼りない。せめてモップ…いや回転ボウキにしてくれよ。


 「ちょっとー先輩!どうしたんすか!?ウチのダチが何かやらかしましたー??」


 男は少し黙って池田のことを見つめてから嘲笑するように口角を上げた。


 「お前も来るか?俺たちこれからちょっとした集まりがあってな」

 


「ええっ合コンですか!?行きます!」


「んな訳ないだろ!馬鹿おまえ!」と僕は必死で池田の口を押さえた。ただでさえ目の前の男は威圧的で機嫌が悪そうなのに、これ以上波風を立てるな。


 そんなじゃれあう僕たちの様子に男は「来るのは長谷川だけで良いみたいだな」と言って僕の腕を引っ張った。


 「そーっす!ごゆっくりどうぞー!」と池田は居酒屋のテンションで言った。


 僕は池田へ必死に「助けろ!」「殺される!」と目線で訴えた。


そんな僕の様子に気づいた池田は、


「悪いな、俺都合のいい男じゃねーんだわ」と言ってウインクをした。


 クソこいつ。さっきの根に持っていやがった。

あぁ最悪だ。これで僕が殺されたらお前のこと一生恨むからな。



 男は凄い力で僕の腕を引っ張っていく。痛い。


 廊下にいる人間も僕たちの様子に気づいてどんどん道を開けていく。クソ。誰か先生呼んでこいよ。そして僕も戦えよ。あー無理。怖い。


 「すみません!先輩!痛いです…!」

 

 男は僕の方を振り返って「お前…こっちの地球に浸食されてんのか」と呆れるような声で呟いた。


 「え…今なん」と僕が言いかけたところで男の足が止まり、僕の腕は第三者によって解かれた。



 「センパーイ、それ俺たちも混ぜてもらってもいいですかね?」

 僕よりも低くて落ち着いた声が聞こえた。


 まさか…池田?僕は目を見開き、顔を上げた。


 ソイツの顔を見て 「なぁっ!?」と反射的に大きな声を上げてしまった。


 僕を救ってくれた人物の正体は、夕根仁だった。僕が昨日デートした長内蛍の彼氏だ。慌てて仁から目を逸らしたが今度は仁の後ろにいた蛍と目が合った。蛍は「やっほ」と小声で言った。最悪だ。好きな人の前で格好悪いところを見せてしまった。


 「俺と彼女と、この長谷川が御前集会に参加させていただきまーす」と仁は左目に力を入れ、眉を縦に吊り上げて言った。


 なんでお前が怒っているんだよ。と言おうと思ったが辞めた。今は味方が欲しい。いやでも…なんでお前が怒ってるんだよ。僕はお前の彼女じゃないだろ。お前の彼女は…僕の好きな人じゃないか。


 先輩と、夕根仁と蛍、そして僕は縦一列に廊下を歩いた。僕は先輩と夕根仁の間に挟まれている。前からも後ろからも逃げれるはずがない。僕は歩きながら通りすぎる廊下の窓を横目に西日が落ちていく空を覗こうした。だけど空には赤色が差されていなかった。ブルーハワイのかき氷に練乳を垂らしまくった青も白もどこか浮いた空。雪が道路から姿を消したのは2日前とはいえ、もう4月なのだ。日が落ちるのも遅くなったのか。


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