高校生はサイゼデートしてなんぼ
「ふわ〜サイゼのティラミスってやっぱり最高に美味しいね〜!」と蛍は満面の笑みで言った。可愛い。
「ねぇ…良いの?」
僕はドリアを食べながら聞いた。
「何が?サイゼデートは蛙化必須だよって?高校生はね、むしろサイゼデートが青春なんだよ」
「いやそこじゃない。ねぇ少し状況整理して良い?」
僕は頭を抱えながら言った。
「どーぞ!」と蛍はティラミスを食べているスプーンを僕の方に向けた。
「僕さ…去年君に告白したよね。んで君フッたよね」
「うん。そうだね。」
「…気まずいんだけど」
「あぁ、そっち」
「いや、そっち以外何があるの?」
「ドッペル長谷川探さなくて良いの?って質問かと思った」
ドッペル長谷川…。そう。僕は今日4月4日4時44分44秒に体育館の4隅からダッシュをしたことで、僕のドッペルゲンガーが召喚された疑いがある。
現に僕が痴漢をしてサラダを万引きした動画がネットに拡散されている(僕はその頃既に学校にいた)
「いや….まぁそうだけど…僕は自分の命の危機より、振られた女とデートできていることの方が一大事なんだ」
僕はドリアのスプーンを皿の上に置き、蛍の目を一心に見つめた。
「なんで?」
「…」
「何どうしたの?長谷川君?」
「….っき、期待するだろ〜」と僕は声にならない声で言った。隣のテーブルの客に聞こえたくない。
「え…あぁ私、仁と付き合ってるから」
「へ…?」
「だから仁と付き合っているんだって」
「ひ、昼休みは付き合ってないって言ったじゃんねぇ?」
「あ、これ内緒の話だった」
隣の主婦が蛍のその言葉を聞いた瞬間コーヒーを吹き出した。くそ。全部聞いてやがったなババァ。
「でもお昼に長谷川くんも言ってくれたじゃん。『幼馴染同士の恋愛に手を出すことほど罪深いものはない』って」
「いやだってそりゃあね!格好つけるよ!周りに友達いるもん!あんなの嘘だよ!幼馴染同士の恋愛に手出すのちょっと背徳感もあって興奮します!全然僕手出します!!」
隣の席のババァが机に顔を伏せ、ヒィヒィと笑っている。
あぁ…あはは…アツアツのミラノドリアを顔に突っ込んだら死ねるかな。
「なんでそんな怖い顔をしてドリアのこと見つめているの?」
「別に…ドリアの湯気で目を潤そうと思って。最近ドライアイだし」
「ん?もう充分目潤っていると思うけど?」
そんなの知っている。
好きという感情と嫌いという感情はとっても似ていると思う。相手のことを考えたら忘れられないし、気分に変化が起きる。まさに今がそうだ。僕はこの女に対してもう好意はない。もう悪意しかない。一度僕が告白したから、この女はもう僕のことを『自分のことが好きな都合のいい男』と認識しているんだ。
「僕を馬鹿にしている自覚はある?」
「ないよ。なんで?」と蛍は言いながらメニュー表に2101と書いた。何か注文する気だ。ますます僕をバカにしている。ナタを持って駅のコンコースで暴れたい気分だ。
「…じゃあ何で僕を誘ったのか聞いてもいい?」
「だから、一緒にドッペル長谷川を探すためでしょ!!」と蛍は頬を膨らませて言った。
あぁー畜生。可愛い。あぁでもクソ女。思わせぶりのクソ女。僕は思春期の心を、貧乏ゆすりをすることで落ち着かせようとした。無論…治らない。
「そのための腹ごしらえよ!!長谷川くん!!
頑張ってドペハセを探しましょ!!」
「….探す…!」
「うん!!」そう言った長内蛍はめためたに可愛かった。
かくして僕の人生初サイゼリアデートは最高なかたちで幕を閉じた。
ここから開く幕が僕の人生を一変する地獄の幕だとは知らずに。