私とドッペルゲンガーを探しにいきましょ⭐︎
「ねぇ長谷川くん!今日の放課後、私とデートしよう!」
昼休み同じクラスの長内蛍が僕たちのグループに割って入ってきた。僕は突然のことに困惑したが、お母さんが作った卵焼きを食べる手は止めなかった。
「おいおい蛍ちゃーん、君いいのかい?」と池田が席から立ち上がって蛍の方に向かった。
「えぇ?なにが?」
「君にはマイスイートダーリンがいるじゃないか?」
「ダーリン?」
「ほら仁くんでしょ。夕根仁!!君の彼氏❤︎」と池田は蛍の肩をポンポンと2回叩いて体の向きを仁の方に変えた。仁は食パンを食べながら本を読んでいる。
「ダメよ浮気は蛍ちゃん。色々な男に手出したら最後は何も手に入らなくなっちゃうよぉ。この世の定石。ビッチ系女主人公は読者から嫌われやすいんだよぉ。フラフラはバツ。一途が良いのよ一途が」
「だから!仁とは付き合ってないんだって!!それに一途に恋した結果好きだった男のウェディングケーキを作らされるハメになったヒロインの漫画だってありますー」と蛍は頬をぷくっと膨らませて怒った。蛍の耳下の両サイドのお団子ヘアが揺れた。お団子ヘアというより、フレンチクルーラーが二つ。1年時から変わらないヘアスタイル。
「毎日一緒に学校行って、一緒に帰っていたらもうそれはマイスイートダーリンだよ」
「家近いだけだって…」と蛍はうんざりした顔をした。クラス替えが無いからもう1年の時から池田と蛍のこのやりとりを何度も見てきている。
「幼馴染同士の関係に手を出すことほど1番重罪なものはないだろ」と僕は蛍に言った。
蛍は肩に乗った池田の手を振り解き、僕の目の前に立ち止まった?
「なに?」
「デートという言い方には語弊があったね!今日は長谷川くんのドッペルゲンガーを探しに行こう!」
そう言って蛍は僕の顔面にスマートフォンを近づけ、親指で画面をタップし動画を再生した。
プラスチックの容器に入ったサラダを片手に、陸上選手のような流麗なフォームで駅構内を走る男がスマホに映し出された。
「僕じゃん…」
その顔は正真正銘僕だった。表情は今まで僕がしたことない鬼気迫るものだった。
「そう!長谷川くんでしょ!!」
「これどっから?」
「SNSで10万いいねでバズってる!!」
池田もスマホの画面を覗き込み 「てーか、なんでサラダ万引きしたの?」と聞いてきた。
「僕に聞くな」
「長谷川ってサラダ好きなの?」
「全く…。トマトとアボカド以外は嫌いだよ」
「おぉインスタ女子」
池田の雑なボケにムカついて、僕は池田の頭を叩いた。
「おい長谷川…俺に雑なツッコミをしている場合なのか…?」
「雑なボケをかましたお前が悪い」
「お前のサラダダッシュの動画…TikTokでもインスタのストーリーでも、大バズりしてるぞ」
…なんて返せば良いか分からなかった。いやこの状況マズイだろ。今は周りにクラスメイト達がいるから僕の冤罪は証明できる。でも家に帰って、その後もこの僕のドッペルゲンガーが暴れ回ったら話は変わってくる。というか僕を知らない人からしたら、こんなの僕が痴漢してサラダ万引きして警察と鬼ごっこしているやつで確定じゃないか。
「これは…まずいかも…」
「でしょ!!だから放課後に私達で探しに行くの!!」と蛍がすかさず言った。
「何を?」
「だからこのドッペルゲンガーを!!」
「何で?」
「ドッペル長谷川がこれ以上、悪さをしないためによ!!」と蛍はどこかで見たことある女主人公みたいな言い方で言った。ドッペル長谷川って…売れない芸人みたいだ。
「いや僕がドッペル長谷川を探すのは納得いくけど、蛍は関係ないじゃん」
「関係ある!」
何故か蛍は食い下がらなかった。ここまで蛍と話し込むと、そろそろ蛍のマイスイートダーリンである仁の様子が気になる。僕は横目で仁のことを見たが、仁は相変わらず読書にふけていた。
「本で読んだの。この『異世界奇タンタン』っていう本で!」と言って蛍は小学生の中学年が読みそうな本を取り出した。
「この本によるとね本物のドッペルゲンガーを同時に見たものは幸運が降りかかるんだって!!」
「え…。ちなみに僕がドッペルゲンガーに出会ったらどうなるの?」
「死んじゃうみたいだ」
今まで全く話に入ってこなかった林が蛍から本を取り上げ読み上げた。
普段、こういうバカ話に乗ってこない林が話に入ってきたことで池田のテンションは爆上がりした。池田は椅子の上に立ち上がった。
「よーし行ってこい!!長谷川!!最後に女を幸せにして死ぬことほど男の本望なことはないだろ!ドハセを探しに行ってこい!」
今まで僕たちの会話を盗み聞きしていたクラスメイトたちが一斉に僕の方を見て拍手をし始めた。
「はせがわー!」
「かっこいいよー!」
「僕系ちょっと痛いよ〜!」」
「ジャンプ返せー」
「2千円貸してー!」
後半全然関係ないの聞こえたたし、一瞬悪口聞こえたけど僕はクラスメイトからの声援の元、長内蛍とニセ長谷川探しデートが決まった。
クラスがうるさく盛り上がる中、僕は蛍と仁の方をそれぞれ見た。蛍はニンマリとした笑顔で僕の方を見ていた。一方、仁は、疲れたような笑顔で「いってらっしゃい」と僕にそう言った気がする。
クラスメイトたちは知らない。
僕が一年の夏休み、つまり去年、長内蛍に告白し見事玉砕しているということを。