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いじめ加害者よりも、見て見ぬふりする周りの奴らのほうが憎悪




 茎がポッキリ折れた花のように、乗客達の頭は俯いていた。眠っているというよりは気絶している。座席は乗客で全て埋め尽くされているから俄然不気味だ。僕が意識を失う前は、席はガラガラだったし扉の前に立っている人もいた。


 電車は時々おおきく揺れ、コンマ数秒差で吊り革と乗客の頭は振り子のように揺れる。


 「メガネくん…き、君は何者ですか?」

 僕は目の前にいるメガネくんに聞いた。


 メガネくんは足を組み、顎を少し上げた。そして僕を見下すような姿勢で「4だよ」と言った。


4…またかよ…

 『だから4ってなんだよ。もったいぶらないて説明しろよ』とメガネくんは音読するような棒読みでそう言った。


 「え」


 「って思っているね。さっきから」とメガネくんはクスクス笑った。


 やっぱりコイツ…


「『僕の心を読んでいる』….ピンポーン正解。遅かったね。僕のセカンドの力さ」


 メガネくんは立ち上がり、両手で吊り革につかまって言った。


 「いやー君みたいなタイプメチャメチャ嫌いなんだよ長谷川くん」


 「は?」


 「君みたいなタイプってさ、僕みたいな人間をイジメはしないけど助けないタイプでしょー」


 「は…」


 もはや“は”が相槌のようになってしまった僕をよそにメガネくんは饒舌に話を続ける。


 「いじめない。助けない。だけど僕がイジメられている様子を見て安心してどこかスッキリ。自分の手は汚さず僕という人間をエンタメとして扱う…」

 メガネくんは親指の爪をガリガリ齧りながら言った。


 「ごめん…メガネくん…」


 「今さら謝たってなぁ!」


 「この状況をまず説明してほしいです。まずメガネくんとは学年が違いますし昨日初めて会ったから、そして僕は…」


 「うるさいなぁ!ほら…もっと僕のことを考えろ!今だって僕への罵詈雑言で溢れているんだ!僕の…セカンドの力は…」


 メガネくんは10数秒僕のことを見つめて黙った。そして顔を真っ赤にさせ座席に再び座った。


 さっきまで気にしていなかった車両の暖房の音や吊り革のギュという音が耳にチラつくようになった。


 相変わらず僕の手を握る蛍の手は汗でべっとりとしていてブルブルと震えていた。


 


 

 


 『こら…そろそろ本題を話しなよ。ムツミ…』






 聞き覚えのある男の声が聞こえた。僕は車内全体を見回したが誰が話したかわからなかった。僕と蛍とメガネくん以外は皆下を俯いている。

 



 『空気を読まずに自分の話を一方的にするからお前は虐められるんだよ』




 今度は全く別の女の声が車内に響き渡った。人を嘲るような若い女の笑い方だったが、さっきと同様に乗客の誰が喋ったか分からなかった。

 

 

 「うるせぇよお前らさっきから!!」とメガネくんは再び座席から立ち上がった。


 「僕のおかげでカエリビト1人捕獲して、4も1人連れてきた!!お前らが嫌味を言う資格なんてないんだよ!」


 今度のメガネくんの演説には誰も反応をしなかった。バツが悪くなったメガネくんは座席に座った。


 帰りたい。でも、電車のアナウンスはかからない。窓から見える景色はずっと真っ暗で僕と蛍が反射して写る。血走った目をしている自分と目が合って思わせず目をそらす。


 

 『長谷川くん…こんにちは。ビックリさせちゃって悪かったね?』


 その時、メガネくんの隣の男がゆっくりと顔を上げてそう言った。隣の男…さっき僕の交通系ICに千円をチャージしてくれた…色男くんだ。


 色男くんの綺麗に揃った黒い毛先が揺れた。頭頂部の金髪は電車の白い蛍光灯に反射してピカピカ光っている。


 「うん…」と僕は色男の顔を見て返事をした。


 「説明するにしても大変だ。毎回この作業にはうんざりしているんだ」と言って色男は座席から立ち上がり、僕と蛍が座る座席の上の吊り革に手を置いた。


 「まずは全体像を知ることが大事かな。ディティールはその後だ」

 色男はニッコリ言った。


 「さっきから僕としか目を合わせないですね」


 「そりゃ勿論。俺は4の君としか会話をするつもりがないからね」


 僕は4と心の中でその数字を唱えた。


 「おっけーおっけー。よしじゃあ簡潔に話すよ」と色男くんは前髪をかき分けながら爽やかに言った。色男はクラスにいたら間違いなくモテるタイプだ。僕の緊張を少しでも解こうと落ち着いてゆっくり話してくれる。周りに気を遣えてイケメンはずるい。そしてそういう風に僕が考えられるってことはリラックスできている証拠だ。


 それにしても3日だ。3日かかった。やっと僕の身に何があったか分かる。僕のドッペルゲンガーは何者なのか、蛍やあの子供はなぜ植物を操れるのか、仙道先輩やメガネくんの言う“4”は何か。


 僕は少し前屈みになって色男くんの目をじっくり見た。茶色と水色を混ぜた瞳にはうっすら歪んだ僕が写っていた。そして色男くんは僕から目線を少し逸らしてふぅーと息を吐いてまた口角を上げた。


 「まず4は…自分のドッペルゲンガーを殺した者。君やこの電車にいる人たち」


 「はい…」


 納得できる。僕もあの時ナイフで僕のドッペルゲンガーを殺した(記憶はないけど)。そうか…ここにいる車内の乗客全員ってことはメガネくんも…俯いているサラリーマンも、女子高生も…それに中学生くらいの男の子も…皆じぶんと対峙したドッペルゲンガーを殺したのか。


 僕は少し恥じた。こんな境遇になったのは自分だけだと思い込んでいたからだ。


 「んでカエリビトはドッペルゲンガーのこと。君も見たことあると思うけど体内から植物を出すね」


 「はい…」


 「ドッペルゲンガーは植物の地球からこっちに来ている。まぁ異世界ってことだ。目的はこの地球の人間と植物の人間をスイッチ…殺して移住するためさ」


 色男くんはニヤリと笑って、そして初めて僕の隣に座る蛍のことを見た。


 理解が追いつかない僕をよそに…隣にいる蛍は僕の手を強く握り…ぶるぶると震えていた。蛍の手汗が凄くて何度か手が離れそうになった。


 薄々気づいていた。いやもう分かっていたんだ。


 僕の手を握る君は、僕が去年の夏休みに告白した病弱な女の子じゃないってことくらい。


 



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