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もしかして異世界召喚したのか?

 



 異世界召喚に失敗して早くも4時間。朝のHRも始まらない中、僕は既に家に帰りたかった。


 朝からバスケ4時間なんて高校生の体力ってキモすぎる。僕は疲れて新教室の新しい机に早速這いつくばっていた。


 高校2年の新学期、クラス替えのない僕たちは緊張感に欠けたいつも通りのHRが始まると思っていた。



 「うそ!長谷川いるじゃん!!!」


 「え!?マジ!本物や!」


 去年も同じクラスの三田村と街田が、教室に入るやいなやキンキンする高い声かつ大声で言った。僕が教室にいることに驚いたのは、これで6人目。



 HRが始まる直前クラスは荒れていた。


 理由は僕が教室にいるから。


 誤解をされないように先に言っとくが、僕は去年無遅刻無欠席の皆勤賞だ。そして女子から囃し立てられるビジュアルでも文武両道ボーイでもない。


 じゃあ何故騒がられるのか。



 「おい長谷川!!お前、電車で女の子痴漢して逃げ回ったって聞いだそ!」


 「えぇ!?違うって長谷川は駅のコンビニでサラダ万引きしてたって!私達見たもん」


 「あれ?俺が見た時は警察から追いかけられていたぞ」



 と朝から教室がこの調子なのだ。


 僕は朝から痴漢をし、駅員から逃げ出し、その逃げ足でサラダを万引きし、警察に追いかけられているそうだ。僕のソックリさんはなかなかガッツがある。



 「残念だけど僕じゃないよ。僕は朝4時から池田達とバスケをしていたんだ」


 自分で言ってとっても恥ずかしかった。



 「えなんで4時からバスケ?」

とクラスメイトが全員声揃えて言った。さすが1年苦楽を共にしたクラスメイト達だ。クラス替えがなくて良かったと安堵した。


 「俺たち異世界に行こうとしたんだよ!」と池田が加勢した。


 「あぁ?異世界?」とちょうどタイミングよく教室に入ってきた夕根仁(ゆうねじん)が言った。そして夕根仁の隣にいる長内蛍(おさないほたる)が興味深そうに僕のことを見ていた。


 「そう!異世界!!俺たち4月4日朝4時44分に体育館の4隅からダッシュして異世界に行こうとしたの!」と池田は丁寧に仁と蛍に説明した。だけど声の大きさ的に、クラスメイト全員に聞かれた。恥ずかしい。


 「すごいな〜お前ら馬鹿で。てか異世界行ってなにしたいの?今の現実不満なの?」と仁は煽るような口調で言いながらリュックを机のフックにかけた。


 「別に今の現実に不満なわけじゃないけどさ、ロマンあるだろ〜異世界って」と池田は引き下がらなかった。


 「あんなの中年のオナニーコンテンツだろ。仕事で上手くいかない俺が転生、ニートの俺が最強スキルで転生、社畜OLが悪役令嬢に転生。まじで今の中間層って病んでいるんだなと思って悲しくなるよ。現実で大した努力もしてないのに転生したら最強スキル?ご令嬢?笑わせるな。平凡な頭脳で異世界転生して最強?どんだけその世界の人間低脳の集まりなんだよ。仕事から疲れて現実逃避オナニー小説しか読む体力ないなんて俺たち若者からしたら絶望じゃない日本の未来。『お父さん好きな漫画何?』って聞いて『スラダンとドラゴンボール』って答えれていた時代って幸せじゃない?アイツらちゃんと修行して努力してるじゃん。今はどうよ『お父さんは異世界転生が好きだよ』ってなるんだよ。なんか虚しくない?」と夕根仁は一息で言った。


 「え、何おまえ異世界系に家族殺されちゃった系?」とすかさず池田はツッこんだ。


 「もう〜仁!そうやって人の好きなもの馬鹿にするのやめてって前にも言ったよね!」と蛍が教科書で仁の頭を叩いた。


 仁は少し驚いた顔をしてから 「ごめん…」とぼそりと言って、引き出しの中から小説を取り出し読み始めた。仁は1年の学期終わりに、ラノベ好きの中村先生から『母性』を読んでいるのを馬鹿にされたことを根に持っているのだろう。あれから仁はラノベ過激派となった。


 「長谷川くん、ごめんね」と蛍は手をペチンと合わせて僕に謝った。僕はそんな蛍に少し会釈をした。


 いつもより少し騒がしい教室が落ち着き始め、HR開始まで残り3分となった頃に担任の渡邊が息を切らして教室に入ってきた。



「おおぉい!!!長谷川のことで知ってるやつはいるか!?今警察から連絡が来て大変なことになっているんだ!てかあれ?!長谷川いるのか!」


 熱血教師の渡邊が捲し立てながら言った。全然何言ってるか分からなかったけど“長谷川”“警察”

の2単語はかろうじて聞き取れた。



 いよいよ教室も、なんだかコレまずくないかの雰囲気に浸食され始めた。



 「先生!!長谷川くんは冤罪です!!僕達、朝4時から8時半までバスケしてました!!」と池田がスマホを片手に手を上げて言った。


 「え、なんで朝4時からバスケ?」と担任の渡邊はキョトンな顔をした。


 「異世界に転生するためです!!!」と池田は言った。


 「え?なんで異世界転生?」



 あぁもうそのくだり、さっきやった。


 

 僕は池田のように異世界転生したいわけでもなければ、仁のようにアンチ異世界でもない。


 そんな僕は今、非現実的な可能性を脳内で組み立てている。



 僕達の異世界転生は失敗して、僕達はドッペルゲンガーを異世界から召喚してしまったのではないかと。


 いや…まぁあり得ないか。


 僕は1限で使う教科書を取り出し、退屈なHR を頬杖立てながら聞いた。




全員、異世界転生と異世界召喚の違いがよく分かっていない。

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― 新着の感想 ―
異世界物語に辛辣っ・・・!でも同意するところも多いですわー。わらっちゃいました。努力は大事ですよね。
2025/04/07 10:58 退会済み
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