3度目のフラグ到来
「メガネくん…」
僕は心の中で読んでいた名前を思わず本人の前で言ってしまった。
本人はメガネくんという名前に呼び慣れているのか特に反応せずに「あの…すみません。突然押しかけちゃって」と申し訳なさそうに謝罪した。
放課後は昨日と同じく、教室の前の廊下で掃除当番の池田を待っていた。今日こそはメダルゲームに行くつもりだった。
昨日は仙道先輩に邪魔をされ、今日は…どうやらメガネくんのようだ。
僕はメガネくんの返事をする前に足元を見た。やっとメガネくんが何年生か確認できる。
…赤…3年生。先輩だ。仙道先輩と同級生なのか。それにしてもメガネくんの靴は3年間使ったとは思えない綺麗な靴だった。買い直したのかな?
「あ、すみません。それで仙道先輩のお見舞いでしたっけ?あの人いま入院してしているんですか?」
「あぁそうみたいなんです…」とメガネくんはモジモジしながら答えた。
昨日の仙道先輩、太っちょ君のドッペルゲンガー召喚に失敗して子供に緑色の液体かけられて…服を溶かされて思い出したら吐き気がした。まぁでも良かった。先輩生きていたのか。
「ちなみに太っ…お友達の方は無事でしたか?」
「あぁ…丸山君は今日学校休んでいます。」
太っちょ君は丸山って名前だったんだ。
「あの…すみません、長谷川くんは昨日の記憶ありますか?」
「え!?」
絶対に聞かれるであろう質問だったのに拍子抜けしたリアクションをしてしまった。
「いや…その実は僕…地下に降りてから記憶がなくて…」とメガネくんはオドオドしながら言った。
メガネくんはあの時、自分に降りかかった災難も、自分をいじめている同級生がむせび泣くところも、僕の鼓膜がぐちゃぐちゃにされるところも、蛍の背中から木が生えてきたことも、何も覚えていないのか。
いや覚えてないからこそ、呑気に学校なんて来れるのか。
「長谷川くんは昨日の記憶あるんですか?」とメガネくんは興奮したような口調で聞いてきた。
「まぁ…」と言って僕は黙り込んだ。ありのままを話すと、さっきの池田みたいに“分かりづらい厨二病”という烙印を押されそうだと思った。
「僕も…あんまり…記憶なくて…」と僕はメガネくんの目を思わずそらして答えた。
「ふーん」とメガネくんは言った。あ、ふーんとか言うんだ。少し心開いてくれたのか。僕のことを少し見下したのか。どっちだろう。
「あっ長谷川くん…どうでしょう…その…仙道先輩のお見舞い…」
「うーん」と言って腕を組んだ。正直言ってあの人のせいで大変な目に合った。死ぬかと思った。お見舞いに行く義理なんてこれっぽっちもない。
「お見舞いに行く義理なんてない」
僕は正直に言ってしまった。
メガネくんは目をぱちぱちとさせた。
何も言い返さないメガネくんに対して「あなただってそうじゃないですか?昨日の態度から察するに仙道先輩にいじめられていましたよね?なんでそんな人のお見舞いに行く義理があるんですか?」と強気で言った。
「いや…でも…その」とメガネ君はまたモゴモゴとした。あ、僕こういうタイプ苦手だ。昔の自分を思い出す。
「蛍さんも一緒に行くって…」
「へー蛍が…蛍!?」
そんなはずはない。あいつは今日学校休んだ。帰りのHRの時だって蛍の席は空席だった。
「おはよ!長谷川君!」
メガネくんの後ろから長内蛍は現れた。今日はお団子ツインヘアではなく、ツインテールだった。
「えっなんで!?帰りのHRまでいなかっただろ!」
「今来たの〜」と蛍は呑気に話した。
「社長出勤にも程があるだろ!!え、何しに来たの!?」
「図書館の本返さなきゃ、読み終わらなくてもう1週間延滞してるんだ〜」と言って鞄から本を取り出した。 『こげぱん』だった。
「どう読んだら、こげぱんに3週間もかけられるんだよ」
「まぁ良いじゃん。行こ!仙道先輩のお見舞いに!」と蛍はにっこりそう言った。
フラグだ。これ絶対フラグだ。仙道先輩のお見舞いが平和に終わるはずがない。2度あることは3度ある。これは絶対3度目だ。僕の非日常3度目だ。
池田…助けてくれ…。池田、フラグをクラッシュしてくれ…。頼む池田…。俺にとってお前が日常の象徴なんだ。頼むいけ…。
教室掃除が終わったのか、教室のドアが開き池田がタイミングよく出てきた。
「お、長谷川〜。急遽バイト入ったからやっぱゲーセン行けねーわ」
僕は…やっぱり都合のいい男がタイプだ。
「よーしじゃあ3人で仙道先輩のお見舞いに行こー!」




