フラグは意識した瞬間それがフラグになる。
「お前…分かりずらい厨二病ほど痛いものはないぞ」と池田はゼッケンを脱ぎながら言った。
池田の汗の匂いがムワッと鼻を刺した。シーブリーズと汗の匂いが混ざった僕の嫌いな匂いだ。まぁだけど僕も発しているだろう。Tシャツの襟部分をグイッと伸ばし自分の匂いを確かめた。
「厨二病にしては面白みがないだろ。今の話」と僕はため息をついて言った。
「だからそういうことだよ。ツッコミずらい厨二病話はやめろって。せめて悪の秘密組織とかダークリユニオンとかにしろよ」
「いや充分つっこめるだろ。トイレの中にマンホールがあって地下に繋がるんだぞ。そしたら俺と先輩以外は木のドームに包まれたんだ。んで小さな子供に鼓膜をぐちゃぐちゃにされて死にかかった時、蛍が背中から木の枝を…」
「あーはいはい、そういうところそういうところ」
「なにがさ?」
「背中から木の枝じゃなくて、触手とかカグネとかって言えよ。なんだよ木の枝って。なんでそんな微妙に固いやつが背中から生えてくるんだよ」
池田は立ち上がり肩のストレッチをしながら言った。
「それでも…事実なんだよ」
話半分で聞く池田に対して腹が立ったから不機嫌丸出しな態度で言った。
池田はそんな僕のことを数秒見つめてから
「まぁ…冷静に考えたらケツから硬いうんこも出るし、分からんでもないのかな」と謎のフォローを入れてきた。言い方はアレだけど池田なりに僕の身に起きた出来事を理解しようとしてくれている。僕は少し後ろめたい気持ちになった。
ピーっと体育教師の渡邊がホイッスルを鳴らした。池田は気怠げに立ち上がり「んじゃ行ってくるわ」と言って体育館の中央の方に走って行った。
僕は体育座りになって、自分の膝部分に空いたジャージを指で押した。
そしてため息をついた。
この非日常と日常の交差はなんなんだろう。夢みたいに信じられない非日常が僕を襲い、朝起きたら日常が始まる。いや今日に関しては朝帰りでシャワー浴びてすぐ学校だったけど。学校きたら、ただの日常だ。身体はボロボロに疲れているのに体育でバスケなんてしちゃっているし。
疲れた身体と相反して、16年培われた日常体質が僕を学校に行かせる。
まだあれから2日しか経っていない。
まず一昨日
池田達と4月4日の4時44分に体育館の4隅から4人同時に走った。そしたら僕のドッペルゲンガーが召喚されて、万引きと痴漢をやらかして指名手配。そして僕がドッペルゲンガーを殺して吸収。
次に昨日
僕のドッペル騒動を聞きつけた仙道先輩から御前集会に誘われる。蛍と仁、メガネくんと太っちょくんも同行。集会に向かう途中、金髪坊主の子供に殺されそうになる。絶体絶命のピンチになった時、蛍が背中から木の枝を出して戦ってくれた。
うん。池田に謝ろう。
こんなの信じる方が友達としてどうかしている。
ホイッスルの音が体育館に響き渡る。僕も体育館中央に向かって足を早めた。
今日の体育はバスケのミニゲームだ。5対5で試合。クラスの男子は今日この為だけに学校に来ていると言っても過言ではない。だが僕たちのチームは苦戦を強いられている。何故なら僕のチームは1人少ないからだ。いないのはもちろん夕根仁だ。
夕根仁と長内蛍はしっかり学校を休んだ。当たり前だ。明け方まであんなことがあったんだ。学校に行く僕の方がおかしい。
『お前…4か?』
突然、仙道先輩の言葉がフラッシュバックした。
守らなければ僕の日常を。
いつもとは違う…非日常なフラグが発生したら叩き潰さなければいけない。
5回ファウルを叩き出して退場になった池田をよそに、僕はバスケットボールを大袈裟に床に叩きつけた。
もはやこの思考がフラグだと気づくのは、放課後だった。
「あの長谷川くん…一緒に仙道くんのお見舞いに…その行きませんか?」




