僕にもその力を使わせろ
1年の夏休み明け長内蛍は学校に来なかった。
朝のHRで「長内さんは生まれつきの病気で手術をすることになった」と担任の渡邊は深刻な顔で言った。
僕はその言葉を聞いてすぐに机に顔を伏せた。
恥ずかしくて死にたくなった。
僕は彼女の病気のことを全く知らなかった。彼女が病気と闘っていることを。
でも本当は気づけた。蛍は体育の授業はいつも欠席、遠足も来なかった。たまに授業を抜け出して保健室に行っていた。気づくチャンスはどこにでもあった。だが、なんとなく知りたくないと思って知らないフリをし続けた。
呑気で自己中心的な僕は、そんな彼女に告白をした。
「君の丁寧に生きるその姿が好きです。付き合ってください」と。
もうこのまま蛍が学校に来なければ良いと願った。
もうこんな醜い僕を見て欲しくなかったから。
まぁ僕のそんなクソみたいな期待は泡となり、彼女は3月の初めに見事に教室にカムバックを果たした。以前よりも何倍も顔色が良かったし、肉付きも良くなっていた。病院の先生曰く蛍の回復は奇跡としか言いようがなかったそうだ。担任の渡邊は声をあげて泣いた。今だから言えるが、蛍の手術の成功率はかなり低かったそうだ。
あぁでも今思えば、彼女は死んでいたんだろうな。
3月に現れた君はー
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蛍は笑顔で僕の方に近づいてきた。僕はそんな彼女のことを呆然と見ていた。彼女は天井にぶら下がる電球を手でどけず頭にぶつけながら僕に近づいた。
彼女は聖母のように微笑み、子供に破られた僕の鼓膜を両手で優しく覆った。
ズクンズクンとまるで耳に心臓があるかのような鼓動を、蛍の手を通して感じた。
そして耳から水が抜けるように僕の聴覚は戻っていった。
「これで聞こえるかな?」
「ほ…た…る?」
「良かった。長谷川くん…聞きたいこと怒りたいこと沢山あるのは分かっている。だけど…今は…」と言いかけて、僕の方に飛び込んだ。
光のような大剣が僕たち目掛けて飛んできた。当たったら一瞬で死んでいた。大剣は壁に当たり壁は崩れた。
砂煙が立つ中、ゆっくりと影が大きくなって近づいてきた。あの子供だ。
「長谷川君…これを」と言って蛍は木で作られた剣を僕に渡した。見た目は木なのに鉄のような重みと質感で地面に落としそうになった。
「なにこれ?」
「私が作った剣。これで3人を囲う木のツルを切って逃げて」
「え?」
「私が時間を稼ぐから」
そう言って蛍は前傾姿勢になって地面に右手を置いた。
そして地面が少し揺れた。その行為は彼女がこの世界の人間ではないことを証明するものだった。
ビクンと彼女の体が1回跳ね上がった。
彼女の白い頬は葉脈のような薄い線が浮き上がり、左側のお団子ヘアは解けた。そして…腰から木のツルがメキメキと生えてきた。それは触手のような人体の器官を感じさせるものではなくCG合成のような場違いさを感じた。
蛍の腰から現れた木のツルは意志を持ったかのようにウネウネと動く。そして鞭のようにしならせ、子供に向かって打ちつけた。子供はキャーキャー言いながら蛍の攻撃を交わし、また矢の如く剣を蛍に向かって飛ばした。
蛍はさっき僕に渡したのと同じ剣で、子供が飛ばした剣を弾いた。
僕は蛍の言葉の通り、3人に絡まれた木のツルを切るべく向かった。
トリアージではないが意識がある太っちょ君のツルから切った。確実に助かる人を先に助ける。蛍が渡した剣は木のツルがスパスパと切れた。この剣が切れるのか、ツルが脆いのか分からないが助かった。
太っちょ君の体を切らないように、慎重に切った。
「ねぇ…これもう夢だよね?」と太っちょ君は泣きべそ描きながら言った。
「あぁ夢だよ。だから君のツルが解けたら、メガネ君のツルを切るのを手伝って欲しい」と僕は太っちょ君を安心させるためにゆっくりはっきり言った。
「嫌だよ。むりだよ。ごめんなさい」と太っちょ君は丁重に断った。まぁ嫌ならしょうがないか。
それにしても急がなきゃ蛍の体が持たない。予想はしていたが劣勢だ。蛍は一度も攻めれていない。あの子供…化け物だ。人間じゃない。身体能力も…植物の力も…。
金髪坊主の子供は剣を10本同時に召喚し、ダーツのように蛍に向かって刺し投げた。蛍は腰から出した木の触手で防御を取ったが交わし切れず、仁が入った木のドームを掠ってしまった。
子供はヒィヒィ地面に手をついて笑った後、『アーアー』と言って部屋の電球を全て割った。
突然空間が真っ暗闇に包まれた。床は割れた電球でガラスまみれになった。
その時、僕の体に衝撃が走った。僕はガラスまみれの床におもいっきり尻餅をついた。
「ぅうう…」と蛍の呻き声が聞こえた。蛍だ。投げられたのか。僕は蛍の体を抱えた。蛍はゼェゼェと息を上げている。もう限界だ。
ガシャンガシャンと足音が近づいてくる。
カランカランというハンドベルの音も一緒に聞こえる。
人の鼓膜を一瞬でぶち破り、人間をダーツの的のように刺してこようとする子供だ。子供なのか。子供の見た目をした悪魔なのか。やばい。このままだと。
『シィィィキィいいいいハァアアアアキィ』
「長谷川くん…」と蛍は僕の名前を呼び、僕の頬を優しく撫でた。
「ほたる…?」
「ごめんね…長谷川くんのこと…助けられなかった…私は蛍ちゃんに助けられたのに…」と蛍はしゃくりあげ泣きながら僕に謝罪した。
蛍が何を言っているか全く分からなかったが、好きな子が泣いているのは、とても気分が悪かった。
「ほたる…泣かないでくれ。僕なんかを助けようとしなくていいんだ。僕は…好きな女の子にならいくらでも振り回されて良いドMなんだから」
ベルの音が止まった。
『アーアーシーキーハーキー!!!!』と子供が叫び上げたのと同時に、僕はガラスまみれの地面を右手にピタリとつけた。
昨日から散々見せつけられたんだ。僕が出来ても別にいいだろ。
さぁ頼む。
きてくれ。
好きな女の子1人を守る力をくれ。
あとはもう何もいらない。
さぁ…植物よ。
俺に力を貸せ。
あの時と同じように小刻みに地面が揺れ始めた。
結局君もこっち側の世界に足を進めるじゃないか。
ようこそ。地獄の地球に。
ローファンタジージャンル難しすぎる。
とりあえずブクマ5を目指す




