神的児童vs
木のツルはどんどんと数が増えて、太っちょ君の目の前には木のツルでできたドームが姿を現した。
太っちょ君はもう声をあげることもできず、自分の現状を知るにうってつけな目の前の木のドームをただ呆然と眺めていた。
仙道先輩は過呼吸になりながら右手に力を入れて木のドームを創造している。右手の浮いた血管は今すぐにでもはち切れそうだ。
「よし…で、できた」と仙道先輩は息を漏らすように言った。目は焦点が合わずヨロヨロと倒れそうだ。僕はそんな仙道先輩の体を支えた。仙道先輩は180をゆうに超える巨体。ぶっちゃけ辛い。
太っちょ君の目の前には、瓜二つの木のツルのドームが出来上がった。
仙道先輩が右手を念じて作り上げた。あの時のドッペル長谷川と同じように。
「先輩…何したんですか?」
「召喚だ」
「召喚?一体何を…?」
「コレでダメなら俺はもう女と同じように養分ルートだ…」
「養分ルート?」と僕は馬鹿の一つ覚えのようにおうむ返しをしたその瞬間、強い閃光を浴びた。
そしてズドンと大きな衝撃音が背後から聞こえた。何かが刺さる音。僕と仙道先輩はゆっくりと後ろを振り向いた。
「さぁ…来い」
仙道先輩は祈るように言った。
仙道先輩が作った木のツルのドームに中心2メートルほどの剣がダーツのように綺麗に刺さった。
そしてドームは剣の刺さり目から、少しずつ穴が広がっていった。
先輩は何を召喚したんだ。いやもう分かっているだろ。これは…そう考えた矢先、穴から肉付きの良い右手が出てきた。人間のとは思えない。緑色の粘液に包まれた気持ちの悪いものだった。
「来た…」と先輩は子供のように顔が綻んだが、それはすぐに崩れることになった。
穴からゆっくりと右手が出てきて二の腕あたりでボトリと落ちた。
「わぁああああああああああ!!!」と太っちょくんは叫んだ。木のツルに体を固定されて依然動くことはできない。さっきよりも苦しそうだ。
「そんな…そんな…」と先輩は何度も叫んだ。
召喚は失敗したようだ。
地面に落ちた右手がびくんびくん動いている。
「シィィィ!!ハァアアアア!ハァアアアア!」と金髪坊主の子供はぴょんぴょん跳ね上がった。
右手に持ったハンドベルがガランガラン音を鳴らす。
そして2本の木のツルが地面から現れ先輩の足を拘束した。先輩はもがこうとしたがすぐに諦めた。
そして3本目の木のツルが現れた。鋭く先輩の喉元に向かって飛び出した。
「おい!!ちょっと待てぇ!!」と先輩は叫んだ。喉に刺さる直前で木のツルは止まった。いや止まってないのか。少し刺さって、先輩の喉元からは血が流れた。
金髪坊主の子供が歯茎剥き出しの笑顔で先輩のことを見ている。
「そこの隣のやつ…コイツは昨日“カエリビト”になったばかりだ!!コイツが召喚に成功したら俺は紹介人になるだろ!!ほら!まだ材料は3体ここにある!」と先輩は叫んだ。
子供はまた、うーんと悩んだ後に大きく頷いた。
そして蛍、仁、メガネくんがそれぞれ入った木のドームを見て、一つのドームに歩みを進めた。
子供はうんうんと頷きハンドベルを鳴らした。木のツル数本がウニョウニョと動きだし、ドームの真ん中にいる人物を確認することができた。
「夕根仁…」
仁は太っちょ君と違って意識を失っているようだった。僕は仁の首元に手を触れた。良かった暖かい。
「巻き込んじゃってごめんな」と僕は仁に謝った。仁は僕を助けてくれたのに。仁の頬は少し切れて血が流れていた。僕はその血をそっと拭き取った。
「長谷川!召喚しろ!コイツを!」と先輩は唾をたくさん吐きながら叫んだ。
「召喚…仁のドッペルゲンガーを召喚してここにいる仁を殺させるんですよね?」
「当たり前だ!お前が昨日したことだ!いいから早く!」
「違いますよ」
「は?」
「僕はドッペルゲンガーを殺しました」
10秒ほど場が沈黙した。仙道先輩はキョトンとしていた。
「あ?嘘だろお前。お前…4だったのか?」
4?
カランカランカランカラン!!!
ハンドベルが再びけたましく鳴り響いた。仙道先輩は歯をガチガチとさせ失禁していた。
「シィィィシィィィシィィィ!!!!」と子供は声をあげる。怒りに満ち溢れた顔をしている。でも子供の怒った可愛い顔じゃなくて老人が理不尽に怒った顔だ。
「嫌だ!助けて!」と仙道先輩は僕の方を向いて叫んだ。
天井にぶら下げる電球は左右に揺れる。何個かは電球同士でぶつかり割れて動かなくなる。
子供はピンク色のバケツを体全身で支えながら、よいしょよいしょと運んだ。
「やめろ!やめてくれ!」と先輩は何度もさけんだが、子供はニンマリ笑ってバケツに入った液体を仙道先輩にぶちまけた。
「あぁ…嫌だ…嫌だ。せっかくこの世界にきたのに…どうして…どうして」
先輩の服は緑の液体に包まれた瞬間ドンドンと溶けていった。
先輩は全裸で身をかがめ、おうおうと泣き叫んだ。そして先輩を包む緑のゼリー状の液体はぶくぶくと沸騰し始めた。
『ぎゃあああああはははははは!!!!!』と子供はベルをガランガラン鳴らし笑い叫んでいる。
どれくらい時間が経ったんだろうか次第に先輩の泣き声も聞こえなくなった。
次は僕の番だなと思い、辺りを回した。だけどあの坊主の子供の姿が見つけられなかった。そう思った次の瞬間、僕の顔の目の前にあの子供がいた。
そんなはずはない。僕は身長173センチだ。あの子は110センチくらい…。どうして目の前にあの子供が。そう思って視線を下に落とした瞬間、脳天が撃ち抜かれそうな衝撃を受けた。
「あぁっ!」
耳が溶けたような感覚だった。耳の中に水が入ったかのような破裂音を最後に僕は耳が聞こえなくなった。あの子供が操作した木のツルに僕の両耳の穴は差し込まれたようだ。
目の前の子供は腹を押さえながらゲラゲラと笑っている。いや正確には聞こえないが笑い声がどこからか聞こえてきた。
子供のかけている虫眼鏡のような遠視のメガネから僕がうっすらと写った。なんとも情けないマヌケな顔をしていた。殺される…そう思った瞬間、メガネからゆらりと人影が反射した。
そして 「伏…せ…て…」とまた聞こえないはずの耳から聞こえた。
僕はその声に従い身体を伏せた。
次の瞬間、目の前の子供は勢いよく吹き飛ばされた。
僕はゆっくり後ろを振り返った。
「ほ…たる?」
そこには僕の好きな人がいた。
さっきまで木のツルに囚われていた彼女は僕の目の前を立ち笑顔を向けていた。
彼女の首のタトゥーと黄色の光は神々しく輝いていた。




