御前集会の会場に到着
「ここだ」と先輩が指定した場所はまさかの公園の公共トイレだった。
白いボロボロのタイルの外壁でできた立方体のトイレ。赤と青の女と男のマークはうっすら黄ばんでいる。そして男子トイレの入り口には、ピンクのスプレーで“おにぎり”と書かれてある。仮に尿意が迫っていてもこんなところでするくらいなら、漏らした方がマシだ。
「えぇ私達今から何するんですか?」と蛍はスマホをいじりながら聞いた。LINEのメッセージを返している。
「おっとここからスマホは全員回収な」と先輩は言って蛍のスマホを摘み上げた。蛍は顔文字の(´ω`)みたいな顔をしたが何も言わなかった。
先輩は角ばったリュックに僕たちのスマホをポンポン適当に投げ入れ、足元に置いた。リュックの下に落ちないと良いな。先輩のリュック偏見だけど汚そう。
「御前集会ってトイレでやるんですか?」と僕は手で口を押さえながら聞いた。仁と蛍はハンカチで鼻を押さえている。こういった些細なところで育ちの違いが出て少し嫌になった。
「入り口はここなんだ。このトイレに地下通路があって歩いて行ったらここに繋がる」と言って先輩は右手の人差し指を西に向けた。指先を目で追っていくと某宗教団体の施設があった。建物は僕たちが通う学校より一回り大きい。この宗教を知らない日本人はいない。良い印象よりは悪い印象の方が強いが。この宗教がドッペルゲンガーの秘密を知っているのか。
「え〜それなら施設から直接入りましょうよ」と蛍は至極真っ当なことを言った。
「お前がこの長谷川をドッペルゲンガー探しに誘ったんだよな」と先輩は蛍の提案を無視して聞いてきた。
「そーですよ。だってロマンがあるじゃないですか?ドッペルゲンガーなんて」と蛍は無邪気に答えた。
「お前は長谷川のドッペルゲンガーに会えたのか?」
「結局会えなかったんです!でも…」と言って蛍は僕の方をチラリと見た。
「私が数十分、目を離した隙になんだか雰囲気急に変わって別人みたいになったんですよ」と蛍は先輩の表情をじっくり見ながら言った。
「ふーん…それは大変だな」と先輩はニヤリと笑って僕の方を再び見た。僕は背筋が凍った。多分…これは勘だけど、先輩は僕に用があるんじゃなくて、もう1人の僕…ドッペル長谷川に用があるんじゃないか。先輩は僕をドッペル長谷川だと勘違いしているんだ。
あの時 『吸収して一つになる』と言っていたドッペル長谷川の言葉が脳裏で繰り返される。
「ふーん。先輩…隠し通路は男と女どこにあるんですか?」と夕根仁は一足早くトイレの中へ入ろうとした。
なんだかここにいる奴、全員自分の話にしか興味がない。だれ1人会話のキャッチボールをしようとしない。
「待てよ。俺も人用意しているんだわ」と言ってスマホを取り出した。そして1分ほどスマホを操作したところで「噂をすれば…」と言って先輩は右手を上げた。
僕は目を細めて先輩が手を上げた方を見た。人影がうっすら二つと思ったが…みるみるそれは色濃く大きくなって近づいてきた。走っているのか。それも相当早く。
すみません、すみません!という声と共に現れたのは同じ制服を着た2人組の男だった。僕は反射的に足元を見たが無駄だった。ここは外だから靴では学年を判断することができなかった。でも仮に学年が先輩とタメでも僕たちとタメでも納得できる。この2人…いかにもカツアゲされそうな見た目をしている。
1人はチビでマッシュヘアでメガネ。もう1人はデブで肌が荒れている。クラスで対等に扱われないタイプだ。
「すみません…遅くなって…あの僕たちあの」と2人組の1人、チビメガネ君のほうがオドオドしながら言った。腕時計をチラチラと見て、遅刻はしていないぞと主張しようか悩んでいるようだ。
先輩はそんな2人をゴミを見るような目で見た。先輩は身長180は超えているから俄然怖い。
「よし…揃った。いこうじゃないか御前集会に」




