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 ☆輝星side☆



 球技大会当日になりました。


  梅雨時期というのに雲ひとつない晴天。 絶好の半袖日和です。 僕は体操服の袖から伸びる右腕をさすり、にんまりと微笑む。


 やっと1年中長袖生活から解放されました。


 右腕のヤケド痕は広範囲で、校内で晒したら気持ち悪がられちゃうかもと心配しましたが、全くもってそんなことにはならず……


「輝星くん、ヤケドの痕見せて」


「霞先輩を守った時にできたものなんですよね?」


「幼なじみの両片思いのすれ違いジレジレ愛が、ついに実ったって聞いたよ」


「キャー素敵すぎます! 私、カステラ推しになりました!」


 腐女子で元祖カステラ推しの流瑠ちゃんが、僕と霞くんの幼少期をドラマチックに脚色して広めてくれたおかげ。


  幼なじみで両片思いだった美談の花が校内に咲き誇り、みんなが僕のヤケド痕を勲章だと褒めてくれるんです。


「カステラカプが出るテニスの試合、絶対に応援に行きますから」


 キャーキャー騒ぐ女子たちにありがとうと軽くお辞儀をして、静かな場所まで駆け抜ける。 人気のない体育館の壁に右半身を預けようと体を傾けた瞬間、上半身が後ろに引っ張られた。


  筋肉がのった腕が僕の首に巻き付いている。 自由がきく顔だけで振り返れば奏多くんで、背後からホールドされているから逃げ出すことができない。


  「おーい輝星、絶対に決勝まで勝ち上がって来いよ。そうしないと俺たち勝負できないんだからな」


  オスっぽい笑い声のあと、ゴツゴツした手の平で髪をワシャワシャされて


「やめてよ」とつぶやいてみたものの


「なんかお前って、存在してるだけで無性に構いたくなるんだよな」だって。


「存在がマスコットっていうか、ヒヨコっつーか」


 意味が分からない。 固まる僕なんか気にも止めず、変わらず奏多くんは僕の首を背後から抱え込んだまま。


「奏多、輝星は俺のものなんだけど」


 不機嫌な声に視線を上げると、目の前には綺麗な顔で奏多くんを睨む霞くんが立っていた。


「嫉妬魔に呪い殺されたらたまったもんじゃねーから、ペットにしようと思ってたこのヒヨコ、カスミに返してやるよ」


  奏多くんは腕をほどくと僕たちに背中を向け、「決勝で会おうな」とキザっぽく残し去っていった。



「大丈夫だった? 奏多になにもされてない?」


  さりげなく抱かれた肩。 お互いの熱を押しつけ奪い合う腕のぬくもり。


  これが恋人の距離か。 ゼロ距離か。


  恥ずかしさと幸福感がこみあげてきて、かぁぁぁと体中の血液が沸騰しそうになる。


 ここは学校。 誰に見られるかわからない。


 別に霞くんとのイチャイチャを見られて困るわけじゃないけれど、霞くんに触れられただけで真っ赤になっちゃう顔を見られるのは恥ずかしいなって。 上昇してしまう体温を下げたくて、僕はさりげなく霞くんの腕から逃げ出した。


 霞くんの真ん前に立ち、見上げるように大好きな瞳を見つめる。


「お昼……約束通り作ってきたよ……」


「ありがとう輝星、俺の分もお弁当作るの大変だったでしょ?」


 ううん、そんなことない。


「楽しくてたまらなかった」


「ほんと?」


「僕はね、作った料理をいつか霞くんが食べてくれたらいいなって思って調理部に入ったんだ」


「栄養士になりたい理由も俺だったりする?」と真剣な顔で聞かれ、僕はあごをコクりとさげる。


「スポーツを頑張る霞くんを、食でサポート出来たらいいなって。あっそれだけじゃないよ。霞くん、あの火事以来、火を見るのが怖くなっちゃったでしょ。僕が火の中に飛び込んじゃったから……」


 責任を感じていて……


「俺のためだったんだね」ともらした霞くんの表情は悲しげだった。 そんな顔をしてほしくない。 僕の前では楽しそうに嬉しそうに笑っていて欲しい。


「あっ実はね、カステラを作るのもうまくなっちゃったんだよ。僕たちのことを流瑠ちゃんがカステラカステラって言うから、特別なお菓子って僕のなかでなっちゃって」


 頭をかきながらアハハと声を上げれば、「嬉しいよ」と霞くんは優雅に微笑みながら瞳を閉じ 「なんで輝星って、俺を喜ばすことばっかり言うかな?」だって。


  僕を抱きしめ、優しく頭を撫でてくれたんだもん。 恥ずかしいよりも、霞くんを笑顔にすることができた幸福感で満たされ、喜びの涙が溢れそうになってしまった。


「霞くんにもっともっと大好きになってもらいたい。僕って欲張りすぎだよね?」


  霞くんの胸に熱を帯びた頬を押し当てれば


「もっと欲張っていいよ。輝星が俺を求めてくれる以上に、俺は輝星を溺愛しまくるから」


 と、霞くんが僕を抱き締める腕に力を込めて。


「相変わらず、霞くんの愛は重いね」


「俺の行き過ぎた執着を知ったうえで、俺を選んでくれたんでしょ? 嬉しいな。それに輝星も同類。俺のこと大好きすぎだからね」


  「あはは、そうだね。僕たちは同類だね」


  僕たちは抱きしめあいながら、お互いが唯一無二の存在だと認めあうように、たくさんたくさん笑いあったんだ。



 ☆

 ☆

 ☆


 過去を振り返ると……


 僕なんかが霞くんに選ばれないと思っていた。


  霞くんと奏多くんは推しカプで、霞くんと僕は地雷カプ。


 そう思い込むことで、叶わない恋を必死に諦めようとしていた。


 でも僕は間違っていた。自分の中の【大好き】という気持ちは、絶対に絶対に偽ってはいけないんだ。


  霞くんと結ばれた今、たまに怖くなるときがある。

 

 本当に僕なんかが、霞くんの隣にいていいのかな?

 

 霞くんを幸せにできるのかな?って。


 でも……


 僕たちが二人で歩む未来が、僕たちの人生の正解になるように、これからも僕はたくさんたくさん霞くんを笑顔にするからね。


  大好きだよ、霞くん。


 そして僕にとって【カステラ】は、地雷カプじゃない。


 最も尊い推しカプだよ!




【地雷カプブルー   END】








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