終わり続けるこの世界で
繰り返している。
そう自覚したのは、何回目かの繰り返しのあとだった。
ある日、なんの変哲もないある日。世界は突然終わりを告げて振り出しに戻る。
生まれたばかりのわたしは、なにを思うこともなく過ごしていて、ものごころついたときにふと、過去の記憶を思い出す。
別の人間として、三十年を生きた記憶だ。
この生の終わりは十八年で来るから、量としては過去の、前世と言うのだろうか、その記憶が大きくて、だからわたしの人格は前世にかなり引っ張られているのだと思う。それで間抜けにも繰り返しに意識が行くのが遅れるのだから、世話もない。
けれど前世の記憶があったのは、まあ、幸いなことだったのだと思う。曲がりなりにもある程度、大人としての分別があり、前世の記憶も繰り返しも、迂闊に他人に知られればよろしくないと判断出来た。アマチュアながら劇団員だったので、演技の心得があったのも良かった。
とにかくわたしは繰り返しの記憶を隠しつつ、終わりと始まりを繰り返す世界を生き続けた。
わたしには幼馴染みがいて。
その子はまるで物語の主人公のように、周りの心を惹き付ける子だった。
だから、繰り返しに気付いてから先は気付くのも早かった。
あの子が主人公で、繰り返すこれは、あの子のための物語なのだろうと。
それからは、あの子が望むハッピーエンドを迎えられるように、手助けをするようになった。そうすれば、いつかはこの終わりの繰り返しにも、終わりが来るかもしれないと。
何度も、何度も繰り返すうち、気付けば、好きなひとが出来ていた。
"ラビ"を名乗る青年。物語の役所としては、コドモである主人公に助言し導いてくれる、頼れるカッコイイ年上のお兄さん、と言ったところ。外見も言動も大人びていて、むしろ前世のわたしよりも年上ではないかと思うくらいだけれど、なんとまだ大学も卒業していない二十二歳だと言う。物語の登場人物の精神年齢が高過ぎる案件だ。
まあ、年齢設定は、どうやら恋愛要素を多分に含むらしいこの物語で、あの子の相手として年齢が離れ過ぎてはいけないと言う、大人の事情かもしれないけれど。
なんにせよ、その他大勢に比べて大人びた彼は、主人公の幼馴染みでしかないわたしにも優しく、頼れるお兄さんだけあって能力もべらぼうに高い。そしてカッコイイお兄さんなので、見た目もとにかく良い。半ば子供のお世話の心境のわたしが、よろりとよろめく気持ちも、わかって欲しい。
それからは、"ラビ"さんを心の癒しに、終わり続ける世界を廻り続けた。
気持ちを伝えるつもりはなかった。だってこれは、あの子のための物語で、わたしはただの端役に過ぎないから。
たとえ、"ラビ"さんと出会うのはわたしが先で、わたしのお陰であの子は"ラビ"さんに出会えるのだとしても。否。だからこそ。
きっとわたしは"ラビ"さんとあの子を出会わせるための、舞台装置なのだ。
だから、"ラビ"さんとあの子が結ばれたとき、今度こそ終わることなく世界は続くのかもしれないと思った。
でも、世界は終わって振り出しに戻って。
ああ、あの続きを見なくて済んで良かったと思うと同時に、ならばどんな結末なら、この世界は終わらずに済むのかと憤った。だってわたしから見れば、彼こそこの世界でいちばん素敵なひとで、彼と結ばれる以上の幸せなんて思い付かない。
けれどそれでも世界が終わるなら、もっと別の結末を探さなければならない。
繰り返し。
繰り返し繰り返し繰り返し。
わたしは終わる世界を見続けた。
何十、何百、もう、何千かもしれない。
あの子はいろいろなひとと、結ばれたり結ばれなかったりして。それでも一向に、世界は続いてくれなくて。
ああ、いつまで終わりは続くのだろう。
繰り返しと言っても、あの子はいつも違う行動を取る。だから完全に同じではない。それでも、同じひとと同じことを、何度も繰り返せば辟易して来る。
しかも、記憶を持ち越すのはわたしばかりで、ほかは振り出しに戻ればすべて忘れてしまうのだ。
"ラビ"さんがいなければ、わたしはきっと狂っていただろう。
"ラビ"さんはどんなに大人びていても、大学生で。卒業後の、夢があった。
曲がりなりにも大人だった記憶を持つものとして、この子にきちんと、夢を叶えて貰いたい。
その気持ちだけをよすがに、わたしはどうにか正気を保っていた。
「好きな子とかいないの」
何回目の終わる世界だっただろうか。
不意に"ラビ"さんから訊かれたことがある。
『ラビさんです!!』
そう答えないだけの分別が、自分にあって良かったと思う。
まだ終わりの日までは時間がある。ここで変な確執を作って、終わりまでの時間を気まずく過ごしたくない。だってわたしが好きだと伝えれば、きっと彼を困らせてしまう。
それでも、少しは欲目を出して、好きなひとはいないが憧れるヒトは"ラビ"さんだと答えた。
「ラビさんみたいな大人になりたい!」
そう言えば、優しい"ラビ"さんは、なれるよ、と言ってくれたけれど。
前世でも、何千回と繰り返した今世でも。わたしは"ラビ"さんのような出来た大人にはなれなかった。
そんな会話からまた何回、終わりを見届けただろうか。
駄目な大人なわたしはつい、気持ちが切れてどうでも良くなってしまった。
今日は八月四日で。あしたは世界が終わる日で。
どうせ世界が終わったら、わたし以外はみんなこの世界を忘れてしまうのだ。
それならいっそ、好きなことをやってしまおうと。
なんの悪戯か"ラビ"さんとふたりきりになったときに、だからわたしは言ってしまった。
「恋人ごっこしましょうよ、桜日さん。あした世界が終わるまで!」
勢いで言い放って、なにを馬鹿なことをと思った。けれど、出した言葉は戻らなくて。
「言っている意味がよくわからないけど」
けれど、"ラビ"さんは、どこまでも優しくて。
「良いよ。ただし、もしも世界が終わらなかったら、そのときは責任を取ってね」
世界は終わる。どうあがいても、あしたで。
振り出しに戻れば、彼はこのことをすっかり忘れる。
だからわたしが責任を取る日は来ない。
そんな考えでわたしは、"ラビ"さんの言葉を安請け合いした。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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