星が降ったあと
三題噺もどき―さんびゃくごじゅうはち。
※「星が降った日」https://ncode.syosetu.com/n1280hu/ の後日譚イメージ……※
星が降ったあの日。
去年の七夕。
天の川がかかる空に。
静かに還っていった君。
「……」
誰もがその景色に瞠目した。
大雨のように降り注ぐ星々。
滝のように落ちてくる光。
掴もうと手を伸ばしたものもいただろう。
「……」
あれから一年たった。
空はどんよりと曇っている。
星は見えない。
光は閉ざされている。
「……」
空っぽになったベッドの前に。
1人で座り込んだあの日。
何もできなかった自分への怒り。
君を失ったことの悲しみ。
「……」
いっしょにケーキを食べようと。
君の生まれた日を祝おうと。
もう助けてもくれない母も忘れて。
そう、約束をした。
「……」
君の好きなケーキを買って。
静かに病室の扉を開いた。
その瞬間にヒヤリとした風が肌を撫でた。
心臓を掴まれたような気分になったのを、今でも覚えている。
「……」
それでもまだ大丈夫だと言い聞かせ。
返事はないと分かりながらも、声を掛けた。
ゆっくりとカーテンを引いた。
君の居るはずのベッドの中。
「……」
そこにはもう。
君は居なかった。
「……」
あけ放たれた窓から。
夏らしからぬ涼しい風。
降り出した星の光。
どこかから聞こえた歓声。
「……」
空っぽのベッド。
机の上に置いた二つのケーキ。
小さく光る炎。
星の光が照らす部屋。
「……」
あれから。
一年が経った。
何もできずに終わったあの日から。
藻掻くことも許されなかったあの日々から。
「……」
今日までの一年。
ただ一人、君を思っていた。
忘れまいと。
失うまいと。
「……」
でも、どうしてだろう。
君の笑顔を忘れてしまった。
君の声を忘れてしまった。
君の最後を忘れてしまった。
「……」
写真を見ても。
果たしてこれが君だったかどうか、確信が持てなくなって。
声を思い出しても、何かの機械音声なのかと思ってしまって。
君の最後の笑顔が、靄がかかってはっきりしなくって。
「……」
あの日から一年たった。
星が降ったあの日のことは。
今でもたまに話題に上る。
今年は無理だろうと言う専門家のお言葉つきで。
「……」
それはそうかもなぁとふと思う。
あれは。
君のお迎えだったし。
今年は曇っている。
「……」
それでも来年は。
星は降るかもしれない。
僕はもう、立てない。
お題:天の川・約束・瞠目