真佐江 1-9
討伐隊を適当に蹴散らし終わったアッシュは、自分もボロボロだったので引き上げた。
さすがに息が上がっている。
天の声の警告によれば、あと何発か攻撃が当たると死ぬらしい。
学生時代の修羅場が走馬灯のようによみがえる。
(俺が一人で相手したときの最多って何人だったっけ?)
思い出そうとしたら、闇狩り討伐活動がバレて父親に殴られたときのことを思い出した。
今までどんなケンカ相手からくらった拳よりも、父親から殴られたときのダメージのほうがダントツで痛かったのを覚えている。
ちょっとしたトラウマ記憶だったので、思い出すのを中断した。
【アッシュさまが何を考えているのか……私には分かりません……】
天の声が戸惑ったようにつぶやいた。
そういえば天の声にも何も説明せずにつきあわせてしまっていたことを思い出し、アッシュは少し反省した。
学生時代にも、頭より先に体が動くバカだと言われたことを思い出す。
「まあとりあえずさ。
人間の裏切り者の正体は俺だったって分かれば、必要以上にモンスターを狩って、人間の味方アピールする必要なくなるだろ?
モンスターたちだって、さすがにこれ以上自分たちに被害が出れば、人間たちに報復しようと思うだろうけど、俺に人間の注意を向けてしまえば、また今まで通りの生活に戻れる。
あとはぜーんぶ俺が悪いってことにしてさ、なんか適当に話が分かるようなやつと話をつけてさ、俺を倒してもらおうと思って。ほら、ガローランドのときみたいにさ。
そうすれば裏切り者は無事にこの世界から排除されましたとさ、めでたしめでたしってなるだろ?
どう? 一件落着だろ?」
【なんで……。どうしてアッシュさまがそこまでするんですか……?】
責めるような天の声の言葉に、アッシュは苦笑しながら答えた。
「よそものの分際で、余計な手を出しすぎちまったなって反省してるんだよ。
俺がギガちゃんと仲良くすんのは俺の勝手だけど、他の人間にとってはギガちゃんはモンスターでしかねえし、ギガちゃんにとっても人間は敵でしかない。
俺が考えなしに行動したせいでここのバランスが崩れちまったわけだから、元に戻すのも俺の役目だろ?」
アッシュは静かに天の声の返事を待った。