真佐江 1-4
翌日――。
「まずいことになっちまったなよあ……」
真佐江はふたたび異世界体験に立ち寄り、異世界でアッシュになっていた。
どこぞの人間がモンスターの仲間となり、人間たちを襲っているという噂が一斉に広まっているのだそうだ。
直ちに裏切り者の人間を見つけ出せという空気になり、捕まえると賞金が出るなんて話までも出ているらしい。
そのため、プレイヤーたちの中では犯人探しが白熱している。
ちなみにその噂の入手経路はどこなのかというと、以前アッシュが出会ったプレイヤーにチャムという男がいるのだが、その男と偶然町で再会したときに教えてもらったのだった。
チャムは『王ロバ耳』という課金スキルを所持していて、他のプレイヤーの情報を勝手に盗み聞きできるのだった。
久しぶりにアッシュと再会したチャムは、それはもう嬉しさのあまりに体を震わせて喜んでくれた。
チャムは尋ねてもいないのに、アッシュにありとあらゆる情報を提供してくれ、そして礼も受け取らずに走り去っていった。
アッシュとしては情報料として酒場で飲み物の一杯でも奢るつもりだったが、それも丁重に断られてしまった。
(あいつ、最初会ったときはダラダラと道端で女はべらせてるだけだったのに、ずいぶんと忙しくしてんだな。
ふふっ、関心関心……)
随分と立派になったチャムの成長を、我がことのように誇りに思いながら、アッシュは一人酒場のカウンターで他の客のうわさ話に聞き耳を立てていた。
どうやら無実の罪で捕まるプレイヤーたちまで出てきているらしい。
自分や仲間の身の潔白を証明するために、狩った獲物の数で自分の立場を証明しようと、日夜モンスター討伐に明け暮れている連中が増えたとか。
もはや異世界体験のジャンルがRPGからハンティングアクションに変わってしまったかのようだった。
アッシュがギガンテスの様子を見に行ったとき、すでにプレーヤーたちの魔の手は、ガローランドの城跡の地域にまで伸びてきているところだった。
アッシュは、責任を感じてギガンテスが住んでいる森を拠点とすることにした。
あとで分かったことなのだが、実はこのギガちゃん、実はまだ新婚さんで、しかも奥さんは身重なのだそうだ。
こんな状態で、人間たちに襲われたら大変だ。
この騒動の発端は、自分の軽率な行動のせいでもある。
責任を取らなければいけない。
アッシュはこの森に近づく人間を排除して排除して排除しまくっていた。
そのせいで、討伐隊をこの地域に集中させてしまう結果になっていたが――。