真佐江 3-5
完全に自分の欲求が暴走する前に、アッシュは大事なことを確認する。
「あ、ねえガローランド? 本当はこういうことを聞いちゃうのってズルなんだろうけど、ガローランドがここの創造神てのに言われて私のところに転生してきたってことは、きっとガローランドは無事に産まれてきてくれるってことでいいんだよね?」
<それはどういう意味だ?>
「私さ、リアルではそれなりに歳なんだ。だからさ、なかなか子供を出産すること自体がさ、普通の適齢期の若い人たちに比べてハイリスクなんだよね。だから、私のお腹にいるガローランドにも結構な負荷がかかっちゃうんだと思う。最悪の場合、ガローランドが……ガローランドが……」
言葉にするのが怖かった。
今まさに会話している相手を、もしかしたら無事に産んであげられないかもしれない。失ってしまうかもしれない。
その現実を突きつけられ、アッシュは今日ガローランドと対話すると決めた決断を後悔し始めた。
<母上。俺は一度死んだ身だ。
そして生ある者はいつか必ず死を迎える。その時期は神しか知らない。母上がそのことを憂う必要など無い。全ては神が決めることだ>
「ガローランド……」
<母上が俺を疎んでいないのであれば、俺も貴女の家族に加えて欲しい>
「ガローランド……ちょっとそれ一回、『母上』を『真佐江』に変えてもっかい言って欲しい……」
アッシュの中に眠る乙女の血が覚醒する。
<……? 真佐江? それが貴女の名か。なら、改めて真佐江。真佐江が俺を疎んでないのであれば、俺も真佐江の家族に加えて欲しい。駄目だろうか?>
「はい喜んでぇぇぇぇっ!」
(うおおおおぉ! イケボの渋イケメンが私の名前を呼んでいる! なにこれ尊すぎじゃあないですか? しかもこのイケメン私の息子さんになるですけどなにこれどんなご褒美ですか今まで仕事と家庭をがんばってきた私への神様からのご褒美なんですかありがとうございますより一層仕事をがんばらせていただきますけど、ええもうそれは愛する夫とかわいい娘と将来素敵な渋メンに成長すること間違いなしの息子のために稼いで稼いで稼ぎまくって身を粉にしてもう粉がそのまま風に乗って飛んで行っても我が人生に悔いなしであります!)
四十にして誘惑に惑わされまくりのアッシュ=真佐江(ハイリスク妊婦)は、大容量のときめきが爆発し、なんかいろんなものが全回復したのであった。
「おっしゃ! よし! いろいろすっきりしたし腹くくることにした。私の持てる人脈と交渉力と権限をフル活用して、絶対に元気なガローランド産む! もう前みたいに一人で仕事抱え込んだり、変なプライドで意地張ったりしない! ハイリスク妊婦を盾に『こどものいのちだいじに』の作戦で産休入るまで戦ってみせる! 見てろよぉぉ!」
何やら士気を高めるアッシュの気迫に、中にいるガローランドはただただ感心するばかりだった。
<なるほどな。母上はこの世界ではない世界でも戦いに明け暮れていたのだな。道理で肝が据わっているわけだ>
「まーね。で、こっちの世界も、私が出産するまでにはなんとか解決しとかないとね。
ちょっと最近の人間たちの様子も偵察しておきたいんだけど、アッシュじゃ面が割れてるから街に行って情報収集ってのが難しくてさ。ねえガローランド、何かいい方法ある?」
<アッシュだとばれなければいいのだな。なら少し体を借りるぞ>
内側へと引っ張り込まれるような感覚を感じる。
「母上、気分はどうだ」
さっきまで話していたガローランドの声とは少し違う声が聞こえる。もっとはっきりとした振動で耳に聞こえる。
<え? 別に普通だけど。何? どういうこと?>
声に出したつもりが、口が動かせなかった。
「主導権を前回よりも多い配分で俺に移してみた。おそらく外見も俺寄りになっているはずだ」
アッシュが動かしたわけでもないのに、手が勝手に動いている。ガローランドが動かしているらしい。
<マジで? ちょちょちょ、ステータス見してステータス。おわ! イケメン! つーか装備がつんつるてん! なにこれ! 身長も伸びてんじゃん!>
そこには着丈の合わないアッシュの装備を身につけた二十歳そこそこの年代であったころのガローランドの姿がうつっていた。
まだ闇が深くなく、若さとあどけなさと天然イケメンの色気が絶妙のバランスで混在する姿に、現在実体のない状態のアッシュはよだれが止まらない勢いだった。
「加減が難しいな。もう少し母上に配分を戻せば、この背丈をどうにか……」
ガローランドの言葉をアッシュは即座に制した。
<全く問題ないガローランド。むしろその顔で身長が縮んだらアンバランスだから。装備なんて買い直せば済む話だから。むしろ買い物を口実に街に行こう。ちゃんとガローランドに似合う服買ってあげるから。ショッピング行くよ。ママがなんでも買ったげるから」
行動主導権がガローランドに移っても、絶対的な母親ポジションからアッシュはガローランドの行動主導権を握るのであった。




