真佐江 1-3
そしてアッシュはギガンテスに新しい技を伝授した。
名付けて『トルネード・スクリュー・ボンバー』だ。
簡単に練習をさせたあと、アッシュはギガンテスを引き連れ、フィールド内を物色する。
どこかにいい練習台になりそうな冒険者たちがいるはずだ。
そして見つけた。
レベルがあまり高そうではない3人組だ。明らかに経験値が低そうな表情をしている。おそらく初心者だろう。
練習にちょうど良さそうだった。
「よし、ギガちゃん。あいつら襲おう」
アッシュが目をつけたのは、女1人、男2人の三人パーティだ。
装備から推測すると、女性が主戦力で、男二人は補助担当のようだ。
アッシュとアイコンタクトをし、うなづいたギガンテスは咆哮をあげて冒険者たちに襲いかかった。
弱そうなパーティは、ギガンテスの登場に慌てふためいた。
「うわぁぁあっ! 巨人だぁぁあ! 一撃で死んじゃうよおっ! ミヨリアちゃーん! サークぅ! かよわいボクを守ってぇぇえ!」
長髪の吟遊詩人が女戦士の背中で縮こまった。それをもう一人の男がむりやり立たせてから殴り倒す。
「てめえ! ノボルージ! すぐにミヨリアの後ろに隠れやがって! 男のくせに情けねえと思わねえのか!
うざったい髪しやがって! さっさと切っちまえ!」
「もー! 二人とも攻撃力も防御力も弱々なんだからケンカしないのー! ノボルンのただでさえ少ないHPが減っちゃったよおー。
見てて。私があのおっきいのやっつけるから、ちゃんと援護してよね! いっくわよー!」
見た目は派手だが、防御力は低そうな防具を装備した少女が、やっぱり見た目ばかり派手で戦闘用ではなさそうな剣を片手に、決して速くはない乙女走りをしながらギガンテスに駆け寄っていく。
どう考えてもこの人間たちに勝ち目はなかった。
(行け! ギガちゃん!)
アッシュは隠れながらギガンテスにエールを送る。
ギガンテスは繰り出した!
アッシュと共に生み出した超必殺技・トルネード・スクリュー・ボンバーを!
激しく回転するギガンテスが振り回す大きな棍棒と、強靭な巨体が回転することで生まれる突風が冒険者パーティを襲う。
「危ねえミヨリア!!」
仲間の一人がなにかのアイテムを発動させ、パーティを攻撃から守る。障壁用の魔道アイテムのようだ。ギガンテスの連続攻撃をすべて防いでいる。
アッシュは予想外のできごとに驚いた。
(マジか! なんだあのバリアみたいなやつ! あいつらのレベルと持ってる道具のレベルが合ってねえぞ! ビギナーのくせに! 課金勢か!?)
回転をやめないギガンテスは、ついに目が回り、その場にひっくり返った。
アッシュは思わず腰を浮かせる。
(あ! ギガちゃんのバカ! 目を回すほど回転すんなってあれほど言ったのに!!)
さっきまで頭をかかえて怯えていたナヨナヨの長髪吟遊詩人が、ギガンテスが倒れ込んだとたん偉そうに仕切りだした。
すると何故か突然、どこからともなく飛んできた花びらが、吟遊詩人の周りで無駄に舞い散り出す。
「この巨人、賢さが低そうだ! 今のうちに倒して経験値もらおうぜ! レベルアップだ!」
派手な格好の少女が、いまどき誰もしないようなぶりっ子ポーズで飛び跳ねている。
「こんな大きなモンスターなら、きっと私たち全員レベルいっぱいアップよ!」
「油断すんなお前ら! まずは動かないように拘束だ。とどめを刺すのはそのあとだ」
さっきのどえらい防御アイテムを出してきた魔道技師と思われる男が、新たな捕獲用アイテムを取り出した。
(やべえ! ギガちゃんがやられる……!!)
ギガンテスのピンチにアッシュはいても立ってもいられず――……。
「俺のギガちゃんをいぢめんな――――っ!」
人間のパーティに向けて、最大出力のやめなよパンチを放ち、遥か地平線の果てまでぶっ飛ばしたのであった。
その日を境に、モンスター側に寝返った裏切り者の人間がいるという噂が、瞬く間に広がっていったのである。