美緒 2-9
母のようにまっすぐに、嫌なものは嫌だと、許せないものは許せないとはっきり口に出す強さが欲しかった。
思ったことをただ素直に口に出しているだけなのに、母の言葉は人を傷つけなくて、自分の言葉は人を傷つけると言われてしまう。
その違いがどこにあるのか、どんなに考えても答えが出なかった。
【あは、なんか分かるかも。
僕の彼女もね、普段すごく落ち着いてる人なのに、仕事の愚痴を信じられないくらい饒舌に語るときがあってさ。きっと爆発しかけてたんだろうね】
妙に人間らしい雰囲気で機械音声が笑った。
「えー! AIのくせに彼女持ちの設定? なにそれ! 芸が細かい!」
【失礼だなあ、僕に恋人がいたらおかしい?】
「だってAIなんでしょ? なに? 彼女が登場するとラブラブモードとかにでもなるの?」
【えーあい? ……ああ、そういうふうに思ってたんだ。
僕は人工知能じゃなくて普通の……って言ったらちょっと違うんだけどヒトだよ。自己紹介がまだだったね、僕はキリルって言うんだ。よろしくね、野良聖女のミーシャさん】
「野良聖女? ひどっ! いきなり毒舌キャラ?」
【違う違う。ステータス見て。さっきのやり取りで【聖女見習い】から【野良聖女】に変化したんだ。事実上のステータス降格だね】
「えー! やだ最悪! もう聖女はいーんだって! 悪役令嬢にジョブチェンだってば!」
【なら課金する? でもまだチュートリアル途中だから、どっちにしてもチュートリアルを完了しないとどうにもできないけど。セーラ様に謝りに行く?】
あんな暴言を吐いて、今更もう一度チュートリアルをやり直させてくださいとは言えない。
「あーもう! 我慢してチュートリアルだけでも完了しとけばよかった!
本当にパパの言うとおり、口は災いの元だわ!」
大げさに頭を抱え、ミーシャは大きく頭を振った。
キリルとの話に夢中で、まわりをよく確認していなかったのが災いした。
ミーシャはあまり素行の良くなさそうな冒険者のグループの一人にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい!」
「あん?」
男は品定めするようにジロジロとミーシャを値踏みする。
(あ、これヤバいやつらだ……)
瞬時に本能が察する。しかしここはゲームの中だ。いきなり町中で人間相手に戦闘なんか起きるわけが――。
毛むくじゃらの太い腕が伸び、ミーシャの細い手首を乱暴につかんだ。
「いててて! あー痛てえなあ。さっきの衝撃で腕が折れちまったなあ。手当てしてもらわなきゃだなあ」
舌なめずりをしながら、ミーシャの体をいやらしい目つきで見ている。
(戦闘は発生しなくても、アダルトモード発生の可能性はアリなの――っ!?)
ミーシャの背中が粟立った。
このままどこかに連れ込まれて、男性向けのえげつない広告漫画のような目に遭わない保証はない。
ミーシャの血の気がひいた。




