美緒 2-6
AIアナウンサーが原稿を読んでいるニュースを見たことはあるが、そのうちAI声優とかも出てきそうな気配がする。
ミーシャが機械音声の演技力に感心していると、聖女の親玉であるセーラがカツカツとヒールを鳴らして目の前に立った。そしてミーシャを威圧的に睨んだ。
「随分と品格の低そうな方が混ざり込んでいたものね。それでも貴女、女性のはしくれ?
その言葉遣い、品格の欠片も感じないわ。恥ずかしいと思わないのですか?」
しかしミーシャは、その鋭い視線を負けじと睨み返す。
こんな女の睨んだ顔なんか、母に比べれば幼稚園児の膨れっ面と同レベルだ。1ミリも怖くない。
わざとおどけてバカっぽい喋り方をして煽ってやった。
「えー! ごめんなさーい♪
正直ー、私が男だったらー、こんなお高くとまった女ってー、ちょっと無理かなーって思っちゃってー。いまどきこんな女の子絶対モテないしー。時代に合ってないっていうかー。
そもそもセーラさんもー、全然聖女が似合ってなくてー。絶対に悪役令嬢向きな気がするー!
もうみんなで聖女コースやめて悪役令嬢やりましょうよー。そっちのほうが楽しいですよー」
セーラが冷たい表情でミーシャへ言い返した。
「私はこの世に生を受けたその時より、聖女としての責務を授かりました。
皆が私を大切に思い、そして支えてくれます。私は自分の欲望で役割を放棄するつもりはありません。それは民に対する裏切りです」
(わー……すごーい。この人、超キャラ作りこみすぎじゃなーい? 引くわー……)
心に浮かんだ言葉はひとまず飲み込んで、美緒は素朴な疑問を投げかけてみた。
「でも別にそれってー、セーラさんだから大切に思われてるわけじゃなくてー、『聖女』だから大切に思われてるってことですよねー?
じゃあこんなに聖女増やしちゃったらー、セーラさん、必要とされなくなっちゃうじゃないですかー?」
目に見えてセーラが動揺したのが分かった。
ミーシャはたたみかけた。
「あ、わかった! 実は彼氏ができたから聖女辞めたい的なやつだ! あるある展開だよねー、それ。
だよねだよねー、聖女って絶対キャラ的に恋愛禁止っぽいもんねー。
あれでしょー? もうその他大勢の聖女としてじゃなくてー、好きな彼氏だけの聖女でいたいんでしょー? それわっかるー! 聖女だとか聖女じゃないとか関係なくてー、そのまんまが好きだよって言ってくれる彼氏がいいよねー!
でも心配だよねー、聖女辞めたとたん、聖女って肩書きに近づいてきた男だった場合、関係が終わっちゃう可能性もあるわけでしょ?
その点、悪役令嬢だったら悪役って最初からフラグもついてるし、もし途中で実は悪役じゃなかったとしても……」
セーラが低い声でミーシャの言葉を遮った。
「……黙りなさい。聖女を増やす必要があるのは、悪との戦いが目前に迫っているからです」
「戦い? 聖女がバトルに参加するの?」
聖女が先陣切って戦いに出撃するラノベなんかあっただろうか。
だとしたら自分よりも母の方が食いつきそうだ。
ミーシャは屍の山の上で勝鬨をあげる聖女な母を想像してみて……吹き出しそうになった。