美緒 2-2
自分が気づけるくらいだから、父には完全に疑われているだろう。
美緒がそっと父の表情をうかがうと、案の定、父の目が少し細くなっていた。
こりゃだめだ。完全にロックオンだ。
仕方ない。母に貸しひとつプレゼントだ。
貸しだけど。貸しなのでもちろんすぐに返してもらうつもりだけど。
「ママ? 白状するなら早い方がいいよ。
あれでしょ? こないだの誕プレのなんとかライトってやつにいろいろオプション買い足してドッキングして、レールガンとかが飛び出るすごい兵器とかに開発しちゃったんでしょ?
その費用が高くてローンとかこっそり組んじゃったんでしょ?」
「はあ!? そんなことするわけないでしょ!? あんたママのことをどんな人間だと思ってんの!」
にぶい母親だ。
せっかく娘が助け船を出してあげたというのに気づいていない。
仕方ない。特別サービスで、もう一回だけ助けてあげよう。異世界体験に行くためだ。
「じゃあ珍しく高い化粧品でも買っちゃった? 最近ママ肌荒れひどいもんね~!」
ぎくっと母の身がこわばった。
瞬間的に美緒は察した。
(――あ、ヤバ。もしかして地雷踏んだ……?)
過去に母の地雷を踏みぬいて、ビンタをもらったことは忘れていない。
そのあと父からも、さんざんお説教をされてしまった。
何気ない言葉で相手を深く傷つけるのは悪い癖だ。気をつけなさい。
口から出す前に一度冷静になって言葉を吟味しなくちゃいけない。気をつけなさい。
家族と言えどもお互いを思いやる気持ちは持たなきゃいけない。気をつけなさい。
相手への配慮がどうとか、共感がどうとか……。
あーもう! 分かってるんだってそんなことは!
気をつけようとは思ってるんだってば!
だけど分かってても気がついたら口から出ちゃって手遅れなんだってば!
また父からのお説教タイムかと、内心で冷や汗たらたらの美緒だったが、母は美緒の話題に乗っかってくれた。
「……そ、そーなの! ほんと、最近仕事のイライラがひどくて!
むしろ私の方がどこかの令嬢みたいにエステとかでお姫様気分が味わいたいのよねー!」
よし! お説教回避成功!
美緒は心の中でガッツポーズをすると、一気にたたみかけた。
「いいじゃん! エステ行きなよママ! たまにはリフレッシュ大事だよ! じゃあママがエステ行くんだから、私も異世界体験行ってもいいよね? はい三・千・円♡」
もう一度かわいらしくちょうだいポーズをしてきた美緒に、母は苦々しい顔でしぶしぶ三千円を渡したのであった。