真佐江 1-10
しかし天の声よりも先にアッシュへ声をかけたのは、討伐隊の残党たちだった。
「見つけたぞ! 裏切り者のアッシュ!
かつては光の救世主の称号を手にしたお前が、堕ちたものだな! ガローランドの二の舞になるがいい! そして俺が救世主の称号を得るのだ!」
「おいおい、知り合いでもないくせに偉そうな口をきくガキだな! 残念だったな! 俺は思春期からこの仕様だよ!
人がシリアスな話してるときに割込みやがって……その口から先に潰してやるぜ! 唇突き出してそこに並びやがれ!」
アッシュの頭の中を即死の文字がよぎって行ったが、表面上は不敵な悪役笑いを浮かべ、特大級のやめなよパンチを放つ。こういう時はいつだって気持ちが先に折れた方の負けだ。
(フィールドの端まで吹っ飛びやがれ!)
しかしアッシュのやめなよパンチは効かなかった。
「貴様の遠距離攻撃が風属性だということはお見通しだ! すでにどの冒険者も風属性無効化装備の準備を整えている! 貴様の負けだ! 大人しく死ね!」
(ちっ、そろそろ引き際かもしれねえな。
でもこのガキはなんか話通じなさそうだから、こいつにやられんのはパスだな)
とはいえ連戦続きで体力が尽きかけていた。
なんていったってあと2,3発でゲームオーバーらしい。
遠距離攻撃のやめなよパンチも、中距離のブーメランフックも使えないとなると、殺さないように手加減しながらの接近戦となる。相手の数は10人か……。
ちょっと厳しい戦局だ。
<……力を、貸してやろうか……?>
頭の中で低い男の声が響いた。
(……誰だ?)
アッシュも心の中で問いかける。
<……お前に力の使い方を教えてやろう……>
強制的にアッシュの体の主導権が奪われた。
(……おい、やめろ……!
なにする気だ……!? やめろ! やめ……)
アッシュの手が振り払われると、その軌跡に沿って激しい黒い稲妻が走り抜けていた。
「うわああああああ!!」
悲鳴をあげて、倒れる討伐隊のメンバーたち。
(お、おい! 殺すな! やめろ!)
アッシュが静止するが、声は出なかった。
「案ずるな。気を失わせただけだ……」
アッシュの口から、アッシュのものではない低い声が発された。
先ほどアッシュの頭の中に響いた声と同じ声だった。
「圧倒的な力を見せつけてやればいい。歯向かう気が起きなくなるほどのな……」
アッシュの手が、空を指さした。
突然、無数の稲妻が空から降り注ぐ。
裏切り者のアッシュを討伐するために編成された討伐隊メンバーたちは、一瞬で全滅したのだった。