魔王デュラハンと死者の村(1)
それからしばらく、歩き続けていると——前方に奇妙なものが現れた。
大きな塔。
それを中心に家が無数に建っている。
待って、これ、俺、見たことある。
前世の漫画の中で——!
「まさか」
「ヒューバート様、あれは……もしかして、む、村でしょうか?」
羊の返り血のおっさんが迷わずその場所へと入っていく。
困惑の声は聞こえるが、俺たちも、その後に続いて村へと入る。
よく見れば村は魔法陣の上に浮いていて、段差があった。
サルヴェイションも光炎も地尖も問題なく入ることができたが、入ってすぐの広場はあまり広くはなく、サルヴェイションたちが入るとぎちぎちだ。
村の側面には畜舎のようなものがあり、中には馬や鹿、トナカイや牛などの晶魔獣が入っている。
マジか……!
「晶魔獣があんなに大人しく捕まっているなんて……」
「本当だ〜。全部首輪してるね〜。あれが晶魔獣を操る首輪かぁ」
「あのおじさんが乗ってたの、首輪した晶魔獣だったよね。ねぇねぇ、お兄ちゃん! 僕も晶魔獣乗ってみたーい!」
「うわぁ! ……わかったわかった、俺も興味あるし、聞いてみような」
「わーい!」
腰に飛びついてきたラウトの頭を撫でながら、俺も晶魔獣乗ってみたい気持ちめちゃくちゃわかるー!となる。
というかラウト、マジ、顔いい。
可愛いし、なんでも言うこと聞いてあげたくなる。
「え〜、ラウトばっかりずるいよ〜! ぼくも乗ってみたい〜」
「えー、ジェラルドも? 聞いてみようなー」
「うん〜!」
ジェラルドが反対側から抱き着いてくる。
くそぅ、ジェラルドも顔がいい。
なんでも言うこと聞いてやりたくなる。
元々ジェラルドへの俺の好感度カンストしてるのもあるけど。
右にジェラルド、左にラウト。
顔面偏差値高すぎる美少年に挟まれて——……………………普通こういうのって美少女じゃないの……?
異世界転生っていえば、美少女ハーレムでは?
いや、ジェラルドもラウトも顔がいいので別に文句はないですけども。
俺はレナ一筋ですし!?
「おーい、ヒューバート王子! うちの長を連れてきましたよ〜」
「あ、ほら、ちょっと離して。晶魔獣に乗せてもらえるか頼んでくるから」
「「は〜い」」
二人とも素直でよろしい。
ラウトはすっかりジェラルドに懐いたな〜。
「…………!」
そして、もしやもしやと思っていたが、やはり。
鳶色の髪を肩まで伸ばした、左右色の違う瞳の男。
黒い法衣、腰の後ろに二本の長剣、首に傷。
ああ、くそ、漫画で見た通り。
「ヒューバート様」
「レ、レナ」
やばい、どうしよう。
今までで一番不安。
一歩一歩歩み寄ってくる、あれは……『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』のヒーロー、デュラハン!
国外追放されたレナが拾われ、心を通わせる運命の相手じゃないか!
うおおおお、そう言われてみれば!
晶魔獣を操る首輪=晶魔獣の長、魔王デュラハン。
目的地が結晶化した大地の中=国外追放されたレナの向かった先。
石晶巨兵もってこい=魔王デュラハンの目的は土の大地を取り戻すことで俺と同じ。
げろ……。
どうして気づかなかったんですか? ヒューバート・ルオートニスくん。
気づいてもよさそうなもんじゃない?
おげろ……。
「!」
「え!」
「!? 旦那!?」
一定の距離。
顔が見える距離まで来たと思ったら、デュラハンは腰の剣に手をかけた。
足を肩幅まで開き、腰を落とし、うっすら魔法陣まで展開するほどの臨戦態勢。
俺も思わず杖を手に取ったし、ランディとジェラルドも剣と杖を掴んで前に出した。
デュラハンの反応はおっさんにも予想外だったらしく、慌てて声をかけつつ、自分も俺たちに対して戦闘モードになるべきか躊躇しつつも、腰の後ろに手を回した。
「…………ラウト、か?」
「え?」
ラウト?
思い切り振り返る。
キョトンとした表情の、ラウトだな?
「え? 知り合い……?」
ラウトと? デュラハンが?
でもラウトはわけがわからないっていう顔してるし?
はあ? どういうことだ?
「? 旦那の知り合い……ですかい?」
「ラウト、あの人のこと知ってるか?」
「え、わ、わかんない。知らない……」
おっさんも戸惑ってる。
ラウトもデュラハンのことを知らないって言ってるし、どうしたらいいんだ?
「……っ……どういうことだ? なにが狙いだ? 俺に会いに来たのではないのか?」
「え? な、なに言ってるの……なんか怖い……お兄ちゃん」
「あ、あの! なにか勘違いしてませんか! ラウトは記憶がないから、その……もしラウトのことを知ってても、多分、覚えてないので!」
「記憶がない……!?」
めちゃくちゃ驚かれた!
……もしかしてマジにラウトを知ってる?
向こうも嘘ついてるようには見えないし?
正直漫画のデュラハンと同じぐらい強いとかだと、俺一瞬で消し炭だと思う。
それでもラウトは、俺とレナが助けたんだし、責任持って守らなきゃ。
ぶっちゃけもう、俺より強いけどな、ラウト。
小ネタ
ヒューバート「わー、これが一花? リーンズ先輩の専用機かぁ。……まあ、なんていうか、うん」
アグリット「はっきり言ってくれていいんですよ? まさしくわたくしめに相応しい、と!」
ヒューバート「あ、うん。うん。……先輩以外着ないよね」
石晶巨兵完成形三号機一花、全長190センチ、形状、頭が花、胴体が茎、腕が葉っぱ、足が根っこ。
魔樹の部位を70%に増やしてみた試作機。
今のところ先輩しか着る予定がない。