頑張り屋のレナ
「最近休みの日は国境によく来てるような気がする」
「そうですね」
「ところでレナ、進級試験の勉強捗ってる?」
「うっ!」
羊の返り血のおっさんとの約束の日。
父上に許可をもらい、サルヴェイションにレナと共に乗り込み、黒い星絵が描かれたところから結晶化した大地に侵入。
ファントムトナカイと呼ばれる中型の晶魔獣の背に乗ったおっさんを先頭に、サルヴェイションとジェラルド、ラウトの乗った地尖、ランディ、パティが乗った光炎、そして光炎の手にはリーンズ先輩と護衛騎士が五名乗った荷馬車。
あまり大人数で来てはいけないとのことなので、この人数で来たわけですよ。
完成形三号機——一花は一度も表に出したことないし、置いてきた。
あれ、リーンズ先輩専用機みたいなところあるから、別に要らないだろう。
今、あれをベースに三機ほど新型作ってるし。
なお、レナへの話題は進級試験について。
四年生までは初等部なのだが、それより上は高等部となる。
基本的に高等部は18歳、三年生で卒業。
だが、リーンズ先輩のような研究職志望の者は成績と進路希望によって、四年生まである。
高等部四年生まで勉強した者は漏れなく優秀であると認定され、割と最初からいい職種に就くことが可能。
というか、割と優先して上の役職になれる。
リーンズ先輩は俺が引き立てたこともあり、城で自身の研究室まで与えられているのだが、研究塔から相変わらず出てこない日々が続いているわけだが……まあ、そもそも高等部に上がるのに進級試験というものをパスせねばならない。
ランディは来年進級試験なのだが、現時点で文武魔道——座学、剣、魔法、道具作りなどをまとめて呼ぶ言葉だ——のすべての成績がトップ。
二位とかなり差があるほどの成績らしい。
四年間全教科一度も首席から落ちたことはないので、学院どころかすでに貴族院からも一目置かれているとか。
……ちょっと優秀すぎて無理してないから心配になったんだけど、俺を褒め始めたので多分正常。
自分を磨くのが楽しいみたいだから、よかったよかった。
ちなみに俺も一応学年首席を維持している。
正直ジェラルドの方が成績はいいと、首席は諦めていたのだが、あいつリーンズ先輩に影響されたのかなんなのか、成績にムラが出始めたのだ。
特に剣技はやる気がゼロで、授業をサボることすらある。
座学も偏りが激しく、特に歴史と経済学は睡眠時間になっていた。
魔法学と魔道具作りは飛び抜けているのだが、他の成績がなんつーか、並。
で、問題はレナ。
放課後はほとんど国中飛び回って回診しているからなのか、成績が年々落ちている。
努力家ヒロインのイメージが強いのだが漫画の中ではそういえば学院の成績は特に語られていなかったな、と思う。
それにしても成績下がりすぎて心配。
一応次期王妃なので、成績が下がりすぎると側室の話題がゴリゴリに盛り返してしまう。
っていうか、今ももうすでにお茶会の度に売り込み系令嬢たちの売り込みっぷりがあからさまで、俺はレナやパティ、母上以外の女性に対して、若干女性不信になりかけている。
「まだ再来年と時間はあるけど、今度勉強会しよう?」
「す、すみません……ヒューバート様が開発した石鹸や消毒液を病院に売り込んでいると、見る見る綺麗になって、患者さんも減っていくから……それをみるのが楽しくて……!」
「えぇ……あれ別にレナが普及しなくていいのに」
「でも、わたしがやるのが一番効果的だと思って!」
「まあそうなんだけど——いや、聖殿の聖女のマルティアに引き継いでもらおう。彼女、実績がなくて肩身狭い思いしてるみたいだし」
驚くレナ。
もちろんそれだけが理由じゃないので説明する。
まず一つに恩を売る、借しを作る意味がある。
実績がないマルティアにレナから業務を委託すれば、俺から直接マルティアに頼むより角が立たない。
レナが間にあることで、あくまでレナの方が立場上という構図もできあがる。
マルティアと聖殿は、俺とレナの二人に借りを作ることになるのだ。
もう一つは病院と聖殿の提携促進。
元々病気や怪我の治療を行う病院と、結晶病専門の聖殿は業務を連結した方が効率がいい。
どちらも“人を治し、癒す”仕事だからだ。
病院のない町や村にすら小神殿があるのは貴族たちの『一番偉い』を散布する目的だったが、裏を返せば「どんな小さな村や集落にも小神殿がある」ということ。
それを利用しない手はない。
小神殿には魔法を使える貴族がいるのだから、連絡網として使えば救急患者の対応を、近くの病院に依頼することができる。
病院と提携していけば、病院で結晶病患者が出た時も即座に聖殿から聖女や聖女候補を派遣してもらえてレナの負担も軽くなるし。
「な? 悪いことはないだろう?」
「た、確かに……」
「レナは色々背負い込みすぎだから、周りをもっと上手く使おう。マルティアだってこのまま特に実績もないと、聖殿からどんな目に遭わされるかわからない。聖女候補たちも」
「うっ、そ、そうですね」
「それに、そういう連絡網が広がれば情報の統制がしやすくなる。無能は炙り出せるし、逆に埋もれてる有能な者も見つけられる。レナも勉強に時間が充てられるし、いいことづくめだろ?」
「……は、はい」
「時間ができたら、その……またちゃんとしたデートにも、行こう」
「!! は、はい!」
返事でか。
小ネタ
ヒューバート「なあ、なぁランディ。レオナルドの想い人のマリヤは実家にいるんだよな? 連絡は取れないんだろうか?」
ランディ「取れると思いますが、なんて言ってどうするんですか?」
ヒューバート「レナの侍女がパティだけだとこの先大変だろうから、補佐役になってもらえればレオナルドとも会う機会がが増えるかと思って」
ランディ「なるほど! さすが人誑しの殿下! 天才でいらっしゃる!」
ヒューバート「それ褒めてるの?」
ランディ「大絶賛しております!」
ヒューバート(くもりのないまなこ…………)