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羊の返り血(2)

 

「コモードル伯爵! いくらなんでも事前の取次もなしに殿下を晩餐に招待など、王家を軽んじすぎているのではないか!」


 俺が断りづれぇ、と思っていると、ランディが参入してきた。

 俺の前に立ち、庇ってくれる。

 うおお、ありがとうー!

 ランディの家は個人主義で、聖殿派もいれば中立派もいる。

 コモードル伯爵もあまり強く出られない。

 なにしろランディの家は侯爵家なので。

 ……つーか、侯爵家よりも舐められてる、王家よ……。

 うーむ、まだまだ下に見られてんなぁ。


「くっ、ぐっう……うう、チィ! おい、お前たち!」

「はっ!」


 お? 奥の手か?

 と、見れば私兵たちが連れてきたのは幼い平民の少女。

 まだ3歳とか4歳の、マジ赤ちゃん。

 ちょっと衝撃的すぎて吐き気がする。

 おかぁさん、と泣きながら兵士の手で拘束されて、しゃがみ込む。


「殿下はたいそう平民にお優しいそうですね! この平民のガキを助けたければ、こちらへ一人でいらしてください!」

「き、貴様……!」

「なんてことしてるのよ! この恥知らず!」

「ひ、ひどいです!」


 俺の代わりに怒りを露わにするランディとパティ。

 震えるレナと、珍しく本気でイラッとしたジェラルドの顔がやばい。

 ラウトも驚いて固まっている。

 思った以上に愚かな作戦。

 でも、俺に対しては確かに効果絶大。

 学院で平民の味方みたいに持ち上げられているから、ここであの子を見捨てたら、「やっぱり王家は」って平民に失望される。

 ようやく上がってきた王家の好感度がまた下がってしまう。


「さあ!」

「……仕方ない」

「ヒューバート様!?」

「大丈夫だ、レナ。俺は()()から」

「で、ですが!」


 闇魔法で防御力を上げておけば、とりあえずは大丈夫。

 杖を取り上げられても、しばらくは保つ。

 問題は俺が行ってもあのコモードル伯爵が人質を殺してしまう可能性。


「杖は捨ててくださいね」

「わかったよ」


 一歩一歩、ゆっくり歩み寄り、[影操作]で子どもを助けようとしたが杖は捨てさせられた。

 普通にタックルで助けるか。

 いくらバフで硬くなってるとはいえ、剣で斬りかかられたら痛いだろうな。


「さあ、その子を離せ」


 コモードル伯爵から一メートルも離れていない距離。

 人質を解放するのなら、このタイミングが最適かな。

 レナたちに任せれば、その子も家に帰れるだろう。


「くくく、馬車にお乗りください、殿下」

「……馬車に乗ったらその子を離すと約束しろ」

「わかりました、お約束しますよ」


 背後から斬りかかってくる気だろうか?

 首の後ろとかは特に硬くしてるけど、貫かれるとさすがに痛いよなぁ。


「今だ! やれ!」


 馬車に向かって歩き出し、伯爵を通り過ぎた時、伯爵が振り返って部下に命じる。

 部下たちが槍や剣で俺の全身を貫こうとしてきた。

 ちょっと想像以上にガチ!

 バフはかかったままだから、多少の傷で済むと思うけど衝撃は内臓にクる!

 いやだぁ!


「ほっと」

「あぎゃっ!」


 槍の刃が突き刺さる直前、俺は転んだ。

 なぜか。転んだ。

 誰か膝カックンした!?

 目の前で奴らの槍が交差して、血飛沫が散る。

 同士討ち……!


「ほいよっと」

「あっ!」


 幼女と俺を抱え、宙を飛び上がった一人の男。

 馬車の屋根の上に降り立ち、コモードル伯爵と同士討ちで怪我をした私兵たちを見下ろすのは——しなびたおっさん!?


「な、なんだお前は!?」


 父上の影か?

 いや、うちの王家に影は五名のみのはず。

 そのすべてが父のもの。

 俺に割く影はいないはすだ。

 なぜなら俺の護衛たちが優秀なので!

 じゃあこのオヤジ誰!?


「誰だ貴様は!」


 俺と同じことを、コモードル伯爵も叫ぶ。

 びゃあ、と泣き出した幼女を抱き締めながら見上げる。


「いえいえ〜、名乗るほどの者ではありません。ちょーっと、こんな子どもを殺すためにこんな小さな子を人質に取るアンタに、ムッとしちまっただけです。そんだけそんだけ」

「なんだとぉ! 降りてこいこのぉ!」

「いいですよ。……ヒューバート殿下はこちらでお待ちください。一応お聞きしますが、生かしておきますか? それとも皆始末なさいますかい?」


 マジで誰だ?

 わからないが、そんなことを俺に聞く余裕がある。

 ——こいつ、強いのか。


「では、生捕りだ。証人にもなるからな」

「かしこまりました。今回はオレが首突っ込んだんで、金はいりませんよ」

「え」


 ふ、と消えた男は、手甲に仕込んだワイヤーを広げたと思ったら全員をまとめて一網打尽にした。

 あまりの華麗で無駄のない動きに言葉が出ない。

 馬車の中にあったロープで全員の口と手足を縛り上げ、ポイポイと馬車の中へと放り投げていく。

 手際良すぎだろ、こいつ。

 本当に何者だ?

 幼女を抱っこして下に降りると「いや、せめてオレが降りていいっすよって言うまで上にいてくださいよぉ」と言う。

 あ、それはマジごめん。


「ヒューバート殿下! ご無事ですか!」

「誰この人〜」

「あ、ええと……父上の影だろう」

「どうもどうも、影でーす」


 駆け寄ってくるランディとジェラルド。

 俺のごまかしに全力で乗っかってきたおっさん。


小ネタ



ヒューバートを見てる(見張る)ようになってからも村には頻繁に帰っていたトニス。


デュラハン「これはなんだ?」

トニス「ヒューバート王子が作った石鹸ってやつですね。体や顔を綺麗にできるそうです」

デュラハン「ほう、マルセイユ石鹸か」


デュラハン「これはなんだ?」

トニス「ヒューバート王子が作った洗剤ってやつですね。洗濯の時使うそうです」

デュラハン「服と食器どちらにも使えるのだろうか?」


デュラハン「これはなんだ?」

トニス「ヒューバート王子が作った消毒液ってやつですね。傷口に使うと清潔に保てるとか」

デュラハン「…………言いたいことが多すぎて言葉が出てこない」

トニス「どういうことですか」




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