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城下町視察(1)

 

「なんか変なとこない?」

「ないよ〜。ちょっといいとこのお坊ちゃんって感じ」

「よ、よし。行ってきます!」

「行ってらっしゃい〜」


 レナには申し訳ないなぁ、と思う。

 色々落ち着くまでずっと待ってもらった上、結局丸一日確保は難しい。

 夕方には切り上げて帰らなければならないのだ。

 なお、夜の予定は母の知り合いの夜会。

 聖殿派だが、母が言うには「あなたが顔を出すとケロリと王家派に寝返ってくれそうなのよ」とのことで、まあ家のためにも……出ます。

 最近そういうの多い。

 社交界デビューって14歳とか15歳が普通らしいのに、俺の現状はデビューしていると言っても過言ではないのでは。

 まあ、すでに婚約者もいる身なので、社交する理由なんぞ聖殿派を取り込むためぐらいなもんなんだけど。


「レナ! おはよう!」

「ヒューバート様、おはようございます」


 女子寮に迎えに行くと、淡いオレンジ色のワンピースを着たレナが出てきた。

 ううう今日も可愛い。

 そして、いつもより控えめ。

 大きめな麦わら帽子も可愛い。


「可愛い。なんかもうすべてが清楚。人類は花を愛でる心の余裕が必要っていうけどほんとだなって思う。レナは俺の心の花……!」

「殿下、心の声ダダ漏れが終わりましたら馬車へ。後ろからついていきますけど、迷子になりそうでしたらどんな状況でも話しかけますからね」

「は、はいっ、よろしくお願いします! パティっ!」


 レナとのデートの出だしは割といつも通り。

 町に着くと、まずは市場の視察だ。

 俺の中の市場のイメージと違ってこじんまりとしているというか。

 舗装された地べたに布が敷かれ、商品が並べられている。

 それが点々としていて、あと、思ったより商品の幅が狭いというか。


「野菜ばかりだな」

「そうですね」


 装飾品の類はまったくなく、野菜以外だと農具や調理器具が多い。

 布は売っているが、服は売ってないし。

 他には古着とガラクタ?

 売ってるものの選択肢が狭すぎて、お客も野菜ばかり買っていく。

 ラノベや漫画でよく見る、活気ある市場の様子とは程遠い。


「売れますか?」


 カボチャばかり売ってる店の店主に聞いてみる。

 彼は肩をすくめて「まあいつも通りだよ」と言う。

 いやー、俺はそのいつもがわからないんだわー。


「王家が納税額を減らしてくれたけど、聖殿がその分買い叩いて持ってっちまうからね」

「へ?」

「坊やたちは見ない顔だが、よその町から来たのかい? この辺の農家は大体聖殿に収穫物を持ってかれるから、もしヒューバート殿下や聖女レナ様の噂を聞いて王都に越してこようと考えてるのならやめとけって、お父さんとお母さんに言っておきなよ」

「そうだぜ」


 どういうことなの、と詳しく聞こうとしたら、隣でトマトやほうれん草を売ってる人も会話に入ってきた。

 今更だけど、売ってる野菜に季節感ないな。


「それでなくとも土地が減って供給が追いついてないのに、聖殿や聖殿派の貴族がタダ同然で持ってっちまうんだ」

「そうそう」


 おお、反対隣のおっさんも参戦してきた。


「十年くらい前まではそれも仕方なかったけどな。でも今は聖女レナ様がいるから」

「ああ、王家の聖女レナ様! 南部にいる親戚が村ごと助けてもらったんだよ! 王家は収穫量に応じて税も計算し直してくれるから、マシになったよな」

「うちの息子も王国騎士団に入れたんだ。聖殿騎士団と迷ってたけど、今の王家にはレナ様とヒューバート殿下がいるからな」

「わかるわかる。うちの娘も去年学院に入学したんだが、ヒューバート殿下が魔法を教えてくれたり、杖を作るのを一から手伝ってくださったり、本当に良くしてくださるって言ってたよ。将来は城に勤めてお役に立ちたいってさ」

「おお、ヒューバート殿下の話か!」


 またおっさんが増えた。

 みんなお店大丈夫なの?

 あと、俺の話はやめて!

 居た堪れない!

 俺が知りたいのは俺の評価じゃないんだわ!

 お前らの生活のことなんだわ!

 話題をぶった斬ろう!


「あのー、聖殿が収穫物を持っていくって話をもう少し詳しく聞いていい? 俺の父親が商売人なんだけど、王都の状況を詳しく知りたがっててさ。売れそうなものとか、なにが足りないとか」

「へぇ、身なりがいいと思ってたけど……まあ、でもそうだな。食べ物は足りてないが、辺境ほどじゃないだろう。辺境は特に王家の目が届かないからって、やりたい放題されてるらしいからな」

「!」


 なんだと。

 やりたい放題って、聖殿が?

 いや、貴族全体が、かもしれない。

 ……これは辺境の村や町も視察する必要がありそうだな。


「王都でいったら調味料だな。作られたものはとりあえずお貴族様に全部持ってかれる。平民にゃ回ってこない」

「調味料……塩や砂糖も?」

「ないない。岩塩は北部の一部からしか採れなくなってるんだ。砂糖の原材料は食用野菜に潰されてるし、胡椒も同じだ。肉もないな。家畜を増やすほど土地がないから」

「魚も出回らなくなってきたよな。北にあった一番でかい湖が避難区域に指定されたから」

「ああ、結晶化が迫ってきてるんだってな。さすがにそればっかりは仕方ねぇ」


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