誕生日パーティー(4)
……やっぱり無理にでも会いに行けばよかった。
こんなに泣かせてしまった。
「こんなぼくにも、あにうえはやさじぃぃいしぃ」
「気にしなくていい。兄弟なんだから」
ジェラルドが自分の分のハンカチも差し出してくれる。
ありがとう、俺のだけじゃ足りなさそうだったから助かるぜ。
それにしても、この世界薄いティッシュとかないんだよなー。
異世界転生モノあるあるのモノ作りチャレンジで、ボックスティッシュとか開発してみようか?
……どう作るんだ?
ボロ泣きが止まらないレオナルドが落ち着くまで、あの薄いローションティッシュに思いを馳せた。
花粉症じゃなかったけど、前世の母さんが花粉症ひどくてローションティッシュは常備されていたのだ。
あれ、いいよな。
鼻の中、快適になるの。
柔らかいし、甘いし。
「マリヤと結婚したいです」
「おう……」
「あにうえ、ぼく、どうじだらいいですかぁ」
「えーと、とりあえずなにか飲みなさい」
手を上げて護衛騎士の一人に飲み物を頼む。
顔から出るモノ全部出てる。
久しぶりの再会が色んな意味で強烈すぎるぞ、レオナルド。
別にいいけどさ。
水分補給は大事だぞ。
「ランディ、マリヤという侍女のことは知ってるか?」
「はい。メリリア叔母の侍女の一人で、一番若かった者です。レオナルド殿下の乳母の娘の一人で、確か三人姉妹の長女。歳は18歳でした」
「18歳……」
レオナルドは現在11歳。
思わずゲン○ウポーズになるのは仕方ない。
いやー……まぁー……うーん……うーーーん……7歳、かぁ……まあ、うーん……、うーーーーん?
「どっ……どう思う?」
「そうですね、結婚適齢期ですが、マリヤが怪我をしたのは右の瞼から眉にかけて。誰が見てもわかるほどの傷跡が残りましたので、正直良縁は望めないかと」
「ランディ、ちがうちがう。ヒューバートが言いたいのはそっちじゃなくて、レオナルド殿下と結婚はちょっと年齢が離れすぎじゃない? っていう話」
「え、あ、失礼しました。まあ! そうですね! 離れすぎですね! もっとお歳が近い令嬢の方がよいと思います! 彼女は子爵家令嬢で身分差もありますし! ですが妹御は同い年のはずですから、妹さんでもよろしいのでは!?」
「ぼくはマリヤじゃなきゃいやだぁぁぁぁぁあ!」
ギャン泣き、再び。
実にど正論をドストレートにぶっ放したランディは、思いも寄らなかったのか慌てふためく。
一般的に、歳の差があっても結婚は可能。
ただし、上下5歳差が上限下限だろう。
少なくとも王侯貴族はそれより離れていると、あまりいい顔をされない。
特に女性は「畳と嫁は若い方がいい」考え方なので、夫より年下が好まれる。
俺は前世の感覚が強いので、年の差婚別にいいんじゃね?って思うけど、義理の妹が歳上になることに若干の抵抗感はなきにしもあらず。
しかし、自分の足で外の世界へと飛び出した弟の勇気は、その女性への愛から生み出されたもの。
やはり否定するわけにはいかない。
「そうだな。まあ、怪我をさせてしまったのがメリリア妃ならば、王家としてもなにか責任を取らねばならないだろうし」
「ヒューバート殿下!? 叔母上の犯行なのですから、責任を取るのは叔母上ですよ!?」
「レオナルドが頑張ってここまで来てくれたのは、マリヤという侍女にまた会いたいからだろう? その願いは叶えてやりたいさ。でもな、レオナルド」
「は、はひ」
大事なことだけは伝えておかなければならない。
今はまだ子どもだからと許される範囲のものだが、大人になってもこの行動力で彼女を追うようなら話は変わってくる。
「お前はマリヤ嬢が好きって気持ちでここまできただろう? その勇気は素晴らしいと思う。生活を変えるのは勇気がいることだから。でも、その勇気をどうか履き違えたりしないでほしいんだ」
「?」
「結婚したいって、一生その人と支え合って生きていく誓いだ。それってつまり、相手を支える覚悟が必要ってことなんだよ。好きだけじゃ多分ダメなんだ。俺も、レナには助けられてばかりだから、どうしたらレナにはお返しができるか考えてる」
特に結晶化した大地でサルヴェイションに助けられた時。
レナがいなければ死んでいた。
あの時、レナが望んでくれた「一緒に町に視察へ行く」約束は、まだ予定が取れていない。
できれば一日ゆっくり見て回りたいからな〜。
その一日をもぎ取るのが、こんなにも難しいとは。
「だから、もしも相手がレオナルドと『一生支え合うのは無理です』って言ったら、その気持ちを尊重して、相手の幸せを一番に考えてあげるようにしてほしい。とてもつらいし難しいことだけど、彼女のために勇気を出せたレオナルドならできると思う」
「……」
「そう思ってもらえるように頑張るのなら、俺もできる限り協力するよ」
「……」
レオナルドは賢い子なので、泣き止んですぐに考え始める。
とりあえず腫らした目元を濡れタオルで冷やし、泣いたあとを隠してから父上にも会わせるとしよう。
なお、これがレオナルドの五年にも及ぶ片想い生活の始まりであるとは、この時の誰も思いもしなかった。