第一段階突破!
「どうだ?」
「はい、魔樹の皮の装着は終わりました。あとは結晶魔石との設置だけです」
「霊魂体化して定着してくれればいいんだけど」
結晶化した大地ヒューバート殿下遺物お持ち帰り事変——不本意にもそう呼ばれるようになった出来事から一ヶ月。
俺たちはついに巡り巡ってきた素材を手に入れ、実験を再開することになった!
……この一ヶ月色々なことがあったし、ある意味なにひとつ解決してないんだけれども……とにかく日常を取り戻そう。
研究塔を使っていいって許可を得たのは、このためだしな!
「そういえば殿下、例の結晶化した大地内で発見された生存者、目を覚ましたんですね。噂で耳にしましたよ」
「え!?」
慌てて口を覆う。
驚きのあまり「え!? 普段授業どころか研究塔の外にも出ないリーンズ先輩の耳にまで噂が届いている!?」って言いかけたけど、人間の姿——語弊——を、知らないだけで意外と出歩いてるのかもしれないし。
そもそもこの生花の着ぐるみのまま出歩いてたら、それこそ別な噂になるっていうか。
「お会いしたんですか?」
「あ、は、はあ……」
「微妙なお返事ですね?」
「いや、それが……」
「記憶喪失だったんですよ〜。その上、子どもみたいになってて」
「記憶障害、ですか」
「らしいです」
現代医学では到底治療のできない症状だ。
なにしろ現代では「怪我は魔法、または自然治癒で治すもの」であり、それらは圧倒的に外傷の話。
むしろ人格や記憶に障害が出るなんて、城の医者すら初の症例だ、と驚いていたほど。
そして、なにより起きて動く彼はマジで美少年。
ジェラルドとランディでイケメンは見慣れていたと思っていたが甘かった。
元より中性的だった彼の幼い仕草や口調は、「これは城内で嗜好が狂うやつが多発するな……」と危険を感じるレベル。
プラチナに近い流れるようなサラサラの金髪。
縁の大きな濃い緑色の瞳。
十代半ばのツヤツヤで透き通るような白い肌。
好奇心旺盛で天真爛漫な少年は、医務室で早くもアイドル状態になっている。
ちなみに、名前は『ラウト』というそうだ。
ファミリーネームは「わかんない!」とのこと。
年齢を聞いたところ自信満々に「9つ!」と教えてくれた。
自分の体が大きいことにずいぶん驚いていたし、記憶がないので自分がなぜあそこにいたのかすらわかっていない。
謎が解けるどころか深まるなんて。
「まあ、様子見だよ」
「興味深いですね」
……とりあえずリーンズ先輩には会わせないようにしよう。
「そんなことより! 実験開始だ!」
「「おーーー!」」
学年の違うランディと、村の回診で留守なレナには申し訳ないが……俺たちはもう我慢ができない!
満を辞して俺が核となる結晶魔石を、素体の中へと設置して蓋を閉める。
こうしてみるとでかいと思っていた五メートルの試作機十八号は、サルヴェイションに比べると半分ぐらいなんだよなぁ。
夢はでっかく、これが上手くいったらサルヴェイションぐらいでかいやつを作ってみるか!
まずは霊魂体に定着するか否かだが。
「ど、どうだ?」
「反応開始!」
「おお!」
もしかして、やっと……来るか!? 霊魂体化定着!?
物質だった結晶魔石が分解され、素体の中に霊魂体として広がり、隅々まで行き渡る。
問題はこのあと。
これがこの素体の中に、定着するかどうか……!
今回使ったのはやや大きめの結晶魔石。
その大きさ約三十センチ。
これでダメなら大きさの調整だけど——。
『どうなりました? 我々は魔法とか魔力とか全然わからないのでなんとも言えませんけど、データ上安定してますね』
「う、うん。俺たちから見ても……安定してる、な?」
「ぼくにもそう見える。初めて石に霊魂体が定着した時と同じだ……」
「ということは——霊魂体化は無事成功!?」
やったーーー!
と、三人で互いの手にハイタッチ!
第一歩、無事完了だー!
「でも問題はそのあとですね」
「うん、これが定着するかどうかだねぇ〜」
「つまり様子見だな」
明日の朝まで問題なければ明後日まで。
明後日まで問題なければ十日後まで。
って感じで。
もしも定着していたら、次は結晶化耐性のテストとなる。
どうしよう、今夜は眠れないかもしれない。
もしも、これが上手くいったらどんどんやりたいことができるようになるかもしれない。
い、いやいや、期待しすぎはよくないよな。
これまでも何回失敗してきたことか。
油断せず、気を引き締めていくべき——あ、そうだ!
「ジェラルド、素材まだたくさんあるよな?」
「え? うん、あるよ?」
「別のサイズでも何体か素体を作ろう! 検証のために、サイズ別でどの大きさの結晶魔石がどのサイズの素体に定着しやすいのか調べるんだ」
「なるほど〜! 面白そうだね!」
「いいですね、魔樹の皮をまた剥いできましょう」
「……よろしくお願いします」
先輩、言い方ァ。