サルヴェイション
「機体借用……登録者っていうのは、この機体の持ち主のこと、かな?」
『その通りだ』
なんで若干偉そうなの?
いや、正式なパイロットじゃないから、態度でかいのはまあいいか。
「貸してもらっていいのか? 俺たちとしては、近くに結晶に閉じ込められた人のことも、助けられたらと思うんだけど……」
『人命救助は素晴らしいことだろう。“歌い手”保護を最優先命令としている。人命を優先するのであれば好きに使ってよい、と登録者から通信を得ている。問題はないだろう』
「…………」
少し、口が空いたまま固まった。
通信? 登録者って、ロボットの持ち主から?
「貸出許可は出てるってことか? 俺が『貸してほしい』って頼む前に?」
『当機は“歌い手”保護を最優先命令として受け取っている』
「それって、このロボットのパイロットが生きてるってこと? おかしくない? このロボット、俺の予想だと千年前のものなんだけど? 今、許可をもらってるの?」
『その通りだ。当機の登録者は生きている。そして、当機の状況を伝えて了承を得ている』
「は、は……ははは……」
もう笑うしかなくね?
意味わからなすぎて、笑うしかない。
そんな状況、本当にあるもんなんだなぁ。
「ヒュ、ヒューバート様……あの……」
「もしかして、あの結晶の中にいる人かな?」
「っ!」
それだと割と繋がるんだけど。
だって、千年前の人間かも、って、うっすら思ってたじゃん?
で、このロボットが千年前のもので、そのパイロットって言ったらあの人しか思い浮かばない。
なによりパイロットスーツ着てたし、ヘルメット持ってたし、ロボットの近くにいる。
「よし、やっぱりあの人を助けよう。ええと、ロボットさん、近くに人がいるんだけど、助けられるだろうか?」
『問題ない』
「……ではもう一つ。君は『クイーン』っていうウイルスに、感染しているだろうか?」
「あ……」
レナも思い出してくれたらしい。
ギギが言っていたやつだ。
もし感染しているなら、研究塔には持ち込めない。
……そもそも持ち込めないか?
『当機は独立AIを搭載しており、“クイーン”は捕食対象である。“クイーン”本体の居場所を知っているのであれば、アクセスして除去に務める』
「……君、ワクチンなのか?」
『正確には“クイーン”の暴走を見かねて当機の同型機登録者がワクチンを開発した。それを当機も所持している。“クイーン”が当機に入り込んでもワクチンで除去が可能。“クイーン”本体にアクセスできれば、根絶も可能である』
「……マジか……!」
「あ、あのう、ヒューバート様? どういうことなのでしょうか?」
あ、ああ、レナにはよくわからないよな。
うーん、詳しく説明してもいいけど。
「揺れが激しくなってる」
「っ、は、はい」
「死んだことになって、お通夜空気になってそうだから早く出よう。ええと、君をなんて呼べばいい?」
機体の名前とかある?
あったらカッコいいよなー。
『ギア・フィーネ 一号機 サルヴェイション』
「……ギア・フィーネ? あ、機体のシリーズ名か?」
ガ○ン○ム的な。
で、シリーズの一号機?
えー、エ○ァみたいでかっこいー!
「機体の名前がサルヴェイションなんだな?」
『そうだ』
そしてやはり偉そうだな。
いや、いいけど。
「わかった、サルヴェイション。君の力を貸してほしい」
『貸出許可はすでに出している。人を救うためならば、好きに使え』
「——」
その言葉だけ、なぜかこのロボットの持ち主の言葉のように聴こえた。
姿は見えないのに、なんとなく。
あの金髪の中性的な子。
俺よりいくつか年上に見えたけれど、あんな状態でも人を助けようとしているんだ。
だったら——その気持ちに応えて助けなければ。
俺なんか、ただ死ぬのが怖いだけの臆病者だけど。
「レナ、掴まってて。絶対上手く操縦できないから」
「……大丈夫です。わたしはヒューバート様を、いつでも信じています」
「っ……サルヴェイション、壁の向こうにいる人を助けるぞ」
『了解』
ゆっくり、開いていた操縦席の扉が閉まる。
ボタンからなにから全部が光を宿し、座っていた椅子が重力に逆らうように垂直になった。
360度すべてが外の景色を映し出し、足下にまだ、あの馬の晶魔獣がうろうろしているのが見える。
執念深すぎない?
『あの生き物は不明』
「え? 晶魔獣だ。知らないのか?」
『該当データなし。当機が休眠状態の間に出現した新種生物と暫定』
「へ、へー……」
千年前にはいなかった、のか。
というか、休眠状態ってことはもしかしなくてもサルヴェイションもギギみたいな浦島太郎状態?
千年前と千年間になにがあったのか気になる。
余計! 気になる!
『地質情報も不可解。——登録者へのデータ共有を申請。機体チェックを開始。——異常なし』
千年眠ってて全部異常なし?
やべぇな?
エネルギーとかどうなってんの?
『サーチ開始。正体不明の物体を確認——ヒューバートが救助対象にしたのは前方八メートル弱の場所にいる正体不明の物体のことだろうか』
「? え? ええと、人間がいたはずだ」
『人類の反応ではない』
「えー?」