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生き残りたい

 

「ヒューバートでんかは剣と魔法の“じゅぎょう”がお好きですよね」

「うん」


 元々体を動かす方が好きだったし、剣はともかく魔法は前世の世界にはなかったからな。

 ジェラルドも「ぼくもです」と微笑む。

 ああ、ジェラルドは勉強だけでなく魔法もすごい。

 魔力量が多いのもあるけど、操作と命令式を描くスピードが大人顔負けなのだ。

 異世界転生といえばチートだと思うんだけど、俺にはそんなのないんだよなぁ。

 なにせ、悪役王子なのでー。

 せいぜい、顔が多少整ってるくらいだろうか?

 それでもジェラルドの顔立ちには敵わない。

 ザ・普通。

 けど、この国を守る王になるってさっき決めた。

 俺は破滅エンドを回避して、この国を結晶化から守るんだ。


「魔法と、結晶魔石(クリステルストーン)のことをもっと調べれば、結晶化を治す方法とかも、わかる気がするんだ」

「え?」

「だって結晶化した大地(クリステルエリア)には結晶魔石(クリステルストーン)があるだろう? 俺たちにみたいに体内に結晶魔石(クリステルストーン)がない人間にとって、魔法を使う時の“ひつじゅひん”。結晶化した大地(クリステルエリア)でしか採取できないんだ。きっとなにかつながりがあるんだよ!」


 って、思う。

 ファンタジーあるあるだろ?

 力説する俺に目を丸くしていたジェラルドだが、目線を逸らすと唇に指を当てがい考え始める。


「考えたことなかったです。でも、言われてみればなにかあるのかもしれませんね。魔法を使う以外の、結晶魔石(クリステルストーン)の使い道……ですか」

「そう! なんかないかなって、考えてるんだ。聖女みたいにけっしょうびょーを治したり、ケッカイを張れたりできたら、聖女一人にすべてを背負わせることもない。もっと聖女の“ふたん”を軽くしてやれるんじゃないかな」


 漫画の中のレナは、過労だった。

 だった一人で国中を歩き回り結界を補修し、結晶病患者を治療して、義務で婚約した俺に会いに来たりと毎日大変そう。

 その上、ヒューバートと婚約したことで実家には「聖殿を裏切った」と罵られて居場所をなくし、聖殿からは「王家を乗っとる手伝いをしろ」と命じられる。

 レナは聖殿の陰謀に気づき、それを拒否。

 聖殿でも居場所をなくして、実家からも聖殿からも虐げられていた。

 いやー、レナの生活環境もろくでもねぇなぁ……。


「……今の聖女様は力が弱っているんだろう?」

「はい。ごこーれーですからね」

「王家にもなにか、手伝えることがあればいいって思うんだ」


 それは、将来のレナのためにも、だけど。

 だって婚約破棄の原因は俺の浮気だ。

 レナが国中を歩き回り、留守だったのをいいことに可愛い平民に入れ込む。

 なら、レナの生活環境を変えればいいんじゃね?

 漫画通りなら、苦境にも弱音を吐かない芯が強い女の子だ。

 聖殿の言いなりになって、王家——ヒューバートを懐柔すれば居場所を失い虐げられることもなかっただろうに、拒否した。

 そんな誠実な女の子を、漫画のヒューバートは知らずに裏切る。

 でも俺は漫画で読んだから知ってるよ。

 レナはいい子だ。

 破滅エンド回避のためにも、仲良くしたい。

 そしてそのためには、媚びる!

 俺は浮気しないので、どうか国から出て行かないでください!


「ヒューバートでんか、すごいです」

「は?」

「ヒューバートでんかはやっぱり優しいですね! ぼくも大きくなったらヒューバートでんかの“じゅうしゃ”になれるように、もっとたくさん“べんきょー”をがんばります!」


 子爵家のジェラルドは俺の従者にはなれるかもしれないが、側近になるには家の爵位が足りない。

 だから漫画ではランディがヒューバートの側にいたんだよな。

 ランディにはもう会っているが、宰相の息子ってだけでやはり信用度はジェラルドの方が高い。

 とはいえ、父の様子から城の中の王家派を増やした方がいいと思う。

 いずれ側近にしなければならないのなら、味方に引き入れておいた方が無難だよな。


「よし、ジェラルド。午後の訓練にはランディも呼ぼう」

「そうですね。呼んできます!」

「うん、悪いな」

「いいえ! 先に行っててくださいー」


 素直で優しい。

 やっぱり側近にはジェラルドがなってほしいよぅ。

 ——顔を上げて、窓の外を見上げる。

 廊下は閑散としていて、ジェラルドの足音が遠のいていく音が今も響いていた。

 やることは山積みだけど、自分の未来がわかってるならその回避方法もわかるってもんだ。

 破滅エンド回避ものの悪役令嬢ものもたくさん読んできたんだ、きっとなんとかなるさ!

 問題は俺が“令嬢”じゃなく、いずれ国を背負う“王子”ってとこだけどな!


「…………生き残りたい……」


 某SFアニメの主題歌が、脳内で再生された。




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