アグリット・リーンズ(2)
「す、すごい! こんなものを! おお、なんと……おおおおぉ!」
……説明したら大興奮された。
いや、現在進行形で花がぽんぽん咲いている。
こわ……。
だがしかし、近づいて分かったのだがリーンズ先輩は巨大植物を着ぐるみのように着ている——ということがわかった。
背中にボタンがついている。
……この人なんの研究してんの……?
俺はこの時初めて人間という生き物がわからなくなったよ。
「はぁ、はぁ、す、すごいことを考える。正直なんで人型にする必要があるのかわからないが、人の姿を模すことで人民への安心感や親和性を与えたいのかな、とも受け取れるし、歩行という形で各所へ配置をしやすくしているのならば効率もいい。それに元々この土地に製造されていた同型の兵器が存在していたとは。興味深い……植物以外に興味はなかったけれど、この人型の超巨大魔道具に魔樹を使用するとなると実に興味深いぞ……!」
研究者特有のツボに入ったっぽい。
このテンションの上がり具合を見るに、協力はしてもらえそう、なのか?
「この人型魔道具に魔樹を使うのであれば、表面の外皮で覆い尽くすのが正解なのか? いやいやそんなことをしたら歩行が困難になる。この魔道具の利点は可動領域だ。人間と同じであり異なる働きをする、それこそがこの石晶巨兵の特徴のはず。……で、他の素材は? なにを使っているのだね」
「あ、その辺りはぼくが説明しま〜す」
と、ゆるい感じで始まった。
「なるほど、鉄や石か。加工はどのように……ふむふむ関節はこんなふうになっているのか。興味深い。このリクシマという巨大人形がベースになっているのだね?」
「そうです。ギギから提供してもらった設計図を、元々ぼくとヒューバートで用意していた設計図とを照らし合わせ、効率を優先して組み直しました。先日結晶化した大地で素材をたくさん得られたので、それをギギに渡して形成してもらい……」
「ふむふむ」
「今度ワイバーンの素材も取りに行くのですが、その前に今ある素体で試してみたいと思い……さっきの実験では霊魂体化に失敗したんですけど、一メートルの石で試した時は霊魂体化に成功したんです。でも、一日で剥がれてしまって、結晶魔石と消滅してしまいまして」
「それはもったいない」
盛り上がってる。
会話に入る隙間がない。
「つまり霊魂体化した結晶魔石を素体に固定したいわけか。それで疑似聖女を作り上げ、魔道具として運用する——すごいな、とんでもない発想をする。これが完成したら世界が変わるぞ。量産に成功したら、結晶化した大地の浄化も可能かもしれない……」
「まさに俺たちが考えている最終目標はそれなんです」
よし、ここは俺の出番だぜ。
と、花に話しかける。
……シュールだなぁ……人間並にでかい花と会話するの……。
「しかし、『聖女の魔法』は歌声で発動するものなので、ひとまずハードルを下げ、弱まらない結界と、俺たちのような結晶化耐性を持たない人間も結晶化した大地を歩き回れるようになればいい、と思っています。そうすれば未知の奇病である結晶病をもっと調べることができるし、資源を今まで以上に得られる。結晶化耐性を応用できれば、使える土地が増えますからね」
「————」
結晶病を調べて、『聖女の魔法』以外でも治せる薬とか開発できたら土地が戻る。
そうしたら、口減らしで自殺する人間だって出なくて済む。
廃業や失業した民に、仕事を与えられるだろうし。
うんうん、未来は明るくなるぞ!
……って、話をしたらリーンズ先輩が押し黙って固まっちゃった。
え? どうしたの?
「……感銘を受けました」
「はい?」
「よもや、ただゆっくりと死を待つばかりのこの世界を、生き返らせようとする方がおられるとは。それに、殿下のその提案……わたくしめは、ずっとここで結晶化した大地の上でも育つ作物ができないかと、研究していたのでございます」
「へ!」
結晶化した大地の上で、作物を!?
そんなことできるのか!?
「そ、それはすごい研究だ! その研究が成されたら、食糧難が解決する!」
「はい。しかし、やはりこれは聖女様のような結晶化耐性のある女性に、頼り切ったものでした。それなのに殿下は結晶病そのものを根本から解決しようとなさっている。これは、とんでもないことでございます」
「……そ、そうだろうか?」
だってみんな困ってんじゃん。
俺からするとどうしてそんなに簡単に、抜本的な解決を諦められるのかがわからない。
技術も知識もたくさん失われたから?
結晶病をなんとかするのって、なんかタブーなことでもあるの?
父上はなんにも言ってなかったけどな〜。
「少なくとも聖殿にとって、殿下の研究は邪魔なものとなりましょう。それが実現すれば、聖殿は聖女を失うに等しい。聖女の重要性は下がり、聖女たちも体内に結晶魔石とを持つ新たな魔物と断じられるかもしれません」