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アグリット・リーンズ(1)

 

 研究塔二階。

 エレベーターを降りて、そそーっとエリアを覗き込む。

 お、おったまげた。


「す、すごい光……太陽みたいだ」

「天井全体が太陽光発生装置になってるんだね〜」

『あら、来たざますわね』


 ざますわね?

 声の方を見ると、(スズメ)!……ではなく、ギギと同じ鳥型ロボット。

 ……なんなの、この研究塔。

 鳥縛りなの?


「いらっしゃい。メメから聞いてるよ。上の階に新しくやってきた研究者だろう? 魔樹に用があるとか」

「あ、は、はい! そうなんで——ス……」


 そうか、ギギと雀が通信かなにかで事前連絡しておいてくれたのか!

 助かる、と、新しい声の方を振り返るとなんかやべー植物。

 鉢に植わった、二メートルぐらいありそうな紫の茎と血のように真っ赤な花をつけた、ま、ま、魔物か?


「え、ええ……?」

「ぼくはジェラルド・ミラー。こちらはヒューバート・ルオートニス殿下。今月入学してきました、初等部一年生です」


 困惑する俺を慮ってか、ジェラルドがまとめて自己紹介してくれる。

 すると植物の魔物は「え! 殿下!? まさか、噂の王太子殿下かな!? 入学式の時に立太子になられたばかりの!」と、くねくね動きながら喋る。

 めっちゃ喋るじゃん……。


「ああ、ごめんね、わたくしめはアグリット・リーンズ……高等部二年だよ」


 高等部二年ってことは17歳?

 結構年上だった。

 めちゃくちゃ先輩じゃん。

 …………そもそも人間か?

 声は男の人みたいだけど。

 あまりの異様な生き物感に、ジェラルドの後ろに隠れて様子を伺う俺。

 だって、怖いじゃん……。


「リーンズ先輩、早速なんですけど魔樹の皮を分けていただくことは可能ですか?」

「構わないけれど、用途を聞いてもいいだろうか? それによってカット方法や部位が変わるのだよ」

「えーと、うーん……どうする、ヒューバート」

「え? なにが?」


 葉っぱ部分が一番上の花の花弁端を撫でる。

 やはりこういう生き物の方なのだろうか?

 それに夢中になってて話聞いてなかった。

 なんて?


「用途を知りたいんだって。それによってカット方法や部位が変わるって」

「え、あーーー、うーーーん」

「人には言えない用途なのかね?」

「こちらの研究内容に直結するので……」


 ジェラルドがやんわりと言えないことを伝える。

 しかし、リーンズ先輩の言うことはもっともだ。

 それに、用途を話した方が適切な部分をもらえるだろう。


「こちらの研究内容を、研究塔の外で話さないと約束していただけるのなら構いませんが……まず、リーンズ先輩の家って派閥はどちらですか?」

「派閥? なにそれ?」

「「…………」」


 思わずジェラルドと顔を見合わせる。

 この人あれだろうな……研究にしか興味ないタイプの人種。

 そもそも人間かどうかわからないけど。


「先輩って、苗字があるから貴族ですよね?」

「そうだよ。一応伯爵家だね」

「リーンズ伯爵家……」


 記憶を探る。

 確か……中立派の貴族だ。

 帝国寄りの領地を持つ、可もなく不可もない家。


「リーンズ先輩、あのですね、俺たちはいわゆる王家派なんですよ。俺が王太子なので当たり前なんですけど。最弱の王家で、聖殿が天下取りに王手をかけている状態を、なんとか持ち堪えてる感じなんです。そんな俺たちと関わると、先輩も先輩の家にも迷惑がかかるかもしれないんですよ。俺たちとしては、それでも先輩に協力してほしいですけど」

「……なるほど、わたくしめのことを慮ってのご配慮でしたか……。問題はありませんよ。我が家に大した影響力はありませんし、わたくしめ個人といたしましては、聖殿にいい感情はございません」


 と、言って頭代わりのでかい花が左右にブンブン振れる。

 こ、怖……。

 やっぱりそういう種族なの?

 てっきり人間以外の生物は存在しない世界だと思ってたけど、実はエルフとかドワーフがいる世界でした……?

 リーンズ先輩は植物人間?


「聖殿となにかあったんですか?」


 ジェラルド、それ突っ込んで聞いちゃう?

 聞いて大丈夫なの?


「祖母が結晶病で……。聖殿に幾度となく聖女の派遣を依頼しましたが、すべて無視されました。せめて派遣できない理由ぐらい教えてほしいものですよ。無駄に希望を持ち続け、祖母が亡くなった時の絶望感は計り知れない……」

「それは……」


 結晶病患者は国中で今この時も発症しているだろう。

 ジェラルドのように進行スピードが速い人は、派遣要請中に亡くなることもある。

 それならまだ、諦めもつくかもしれない。

 でも、返答をもらえるほどに余裕のある人はその返答がないことにどれほど焦れ、希望を抱き続けるのだろう。

 残酷なことをする……。


「というわけで家はともかくわたくしめは王家派になるのは吝かではありませんね」

「本当にいいんですか?」

「ええ、研究の秘密を守れというのも、一研究者としてごもっともであると存じます。もちろん秘密は守ります。不安でしたら一筆書きますよ」


 ジェラルドと顔を見合わせる。

 一応、計画の全容は話さないにしても、用途は話してもいいかもしれないな。


「わかりました。俺たちの研究について、触りだけでもご説明します」



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