儀式の前に(5)
部屋から出てからふと、大穴の依代も見ておきたくなった。
ファントムは三号機でジェラルド、アレンさんと話しているだろうから、依代には誰もいないかも。
いや、リーンズ先輩はいるかな。
お嫁さん候補どうなったんだろう。
聞きに行ってみようか、と足を向ける。
「……話に聞いてたよりデカいな!?」
恥ずかしながら『神代の大穴』を覆うように造られた依代は、今日初めて完成品を見た。
八十メートルはある超巨大な石晶巨兵。
それが『神代の大穴』の神の依代。
地上と地核を繋ぐ道。
石晶巨兵と言っても、上半身だけの姿だ。
ファントムが「万が一に備えて石晶巨兵のような人型にする」と言っていたけれど過剰防衛にならない?
「おや、ヒューバート殿下。仮眠に入られたのではないのですか?」
「なになに、王子サマってばまだ寝てないの〜? 寝な〜? いくら一番近場配置って言っても、普段過労気味なんだから信用ないよ〜」
「うぐっう!」
そう思いながら依代の中に入ってみると、そこはもう建物なんだよなぁ。
エントランスとエレベーターがあり、そのエレベーターでコクピット部分にある管理室に入ってみるとリーンズ先輩とデュレオがいた。
多分表面上の調整をやっているんだろう。
なんかメインの管理はファントムとナルミさんにしかできないって言ってたし。
「まだ依代に入ってなかったから、見学しておこうかなって思ったの」
「ああ、確かに内部は儀式後入れなくなるそうですものね」
「メンテナンスドローン以外は軸発電機で半永久的に自家発電で動くらしいもんね。新たな遺跡だよ、こんなん」
「あれ、俺はファントムはここに引きこもってまた研究やるんだって聞いたけど……」
「あれ、そうなんですか?」
「これ以上なにを研究するの、アイツ。本当そういうところはギアンだよねぇ〜」
それは本人に言ったら殺されるんでは?
いくらデュレオが死なないって言っても失礼すぎないか?
「ギアンといえばさぁ、王子サマはどうやってギアンを丸め込むつもりなのぉ? アイツ口車に乗るタイプじゃないよぉ? 結晶病の権能を五号機の坊やに返してやるっていうのもさ〜、無理じゃない?」
「え? 丸め込むつもりはないよ。命令するよ」
「ほあ? …………。え? 命令? ギアンに?」
「うん。命令するよ。拒否は許さないかな」
アイツが説得して言うことを聞く?
聞くわけがない。
脅したらどうかって?
脅し返されるのがオチである。
ならば命令する。
問答無用だ。
「そ、そんなの通用するぅ?」
「うん。一時的にでも融合して創世神級の神格になるからね」
「お、おお……」
あのデュレオに感心されてしまった。
「さすがに無策で挑めないよ」
「それはそうだよね」
「デュレオ様は王苑寺ギアン様と、いう方とどのようなご関係なのですか? 仲がよろしいようには見えませんが、浅い仲というわけでもなさそうですし」
リーンズ先輩が恐る恐る聞いてしまった。
俺も詳しくは怖くて聞けなかったのに。
「ギアンねぇ……アイツはナルミのお兄ちゃん」
「「お兄ちゃん!?」」
ナルミさんのお兄ちゃん!?
ここにきてまだ新事実出てくるの!?
嘘でしょ!?
「御菊名・イヴ・ルナージュが自分の胚を使って子どもを何人か作ったんだけど、当然まともな子どもの作り方はしてないんだよね。だから十個使った胚の中で、人間の形を無事保てて産まれることに成功したのがあの二人。俺とクレアはその時に人の姿にならなかった子どもに、人工細胞と妖精結晶を注入して作り直された感じ?」
「オ、オェ……」
「ギアンとナルミは地核の第一研究所で生まれ育ったんだけど、ギアンは生まれた時から天才っていうか……異常だったみたい。イヴはすぐにギアンだけ特別な教育を施して、自分の研究の手伝いをさせていたね。ナルミもギアンほどではないけど頭がよかったから、イヴはナルミを不老不死にして自分の器にできないか実験を繰り返していたの。でも無理だってわかって、自分の研究資金のために大和のお偉いさんに養子に出したんだよ。歳が還暦迎えたおっさんで、性奴隷にでもされるんじゃないって思ってたみたい。加賀おじ様はそんなことしない紳士だったけどね」
もう本当にクソだな、御菊名・イヴ・ルナージュ。
話を聞けば聞くほどフォローのしようがない。
「自分と同じ人間の肉の器はダメだと思ったらしくて、ヒューマノイド研究に進路変更したんだよ。だからまあ、実質兄妹かな。作られ方はもちろん別だろうから、お互いに血の近い“なにか”って認識じゃない?」
「複雑なものがあるんだな」
「そりゃあ複雑でしょう。ギアンは本当にクソ野郎だもん。アイツに何度脳みそ切り開かれたことか」
「実害!?」
「麻酔なしにね。俺の脳みそを切り取って培養しようとしてみたけど、俺の体って面積が一番大きなところから離れると腐ったり消えるんだって。……ってことを突き止めたのはギアンなんだけど」
「ゲスなんだな」
「ゲスだよぉ〜。俺だけじゃなく、俺の目の前でクレアを解体して俺のデータと比べたりしてるんだよ〜? 殺してやりたいよねぇ〜」
……ナルミさんとデュレオがボロクソに言う理由が納得しすぎて吐きそう。
やはりなんの容赦も必要ないな、あのゲス野郎。
「アイツに命令してくるなんて……ふふ、ふふふふっ! 楽しそう。めっちゃ応援する」
「デュレオの分までめちゃくちゃ偉そうに命令してくるわ」
「うん!」