儀式の前に(3)
「俺が全部殺すから、お前は手を汚さなくていいって。ギア・フィーネの登録者相手に、バカなこと考えてたもんだと思うわ」
「そんなことないよ」
天井を見上げたファントムに、ジェラルドが間髪入れずに否定する。
珍しくあまりふわふした表情ではない。
「ぼくも同じこと思ってる。ヒューバートには誰も殺してほしくないなって、思ってる」
「っ! ジェラルド……」
「ヒューバートの代わりにぼくが全部殺すから、ヒューバートには綺麗な手のままでいてほしなって。でも、ヒューバートは王子だから、いつか必要があればきっと殺すと思う。そんな日が来なければいいのにって、思ってる」
ジェラルド、そんなふうに、思ってたのか。
思わず顔を背けてしまう。
そんなふうに思っていてくれたのに、俺は——。
「ごめん、ジェラルド。俺はもう人を殺してる」
「……、……うん。なんとなくそんな気はしてた。でも、それでもヒューバートにはあんまり殺してほしくないの。僕がヒューバートの分まで殺すから、お願いって思ってる」
「……俺は……ジェラルドにもあんまり殺してほしくない」
友達だから。きょうだいだから。
驚いた表情をされる。
これから先、今のままではいられないと思うけれど。
「ヒューバート」
「うぇ!? はい!?」
ファントムに名前を呼ばれて肩が跳ねる。
え、ファントムが俺の名前を呼んだ!? え!?
「ギア・フィーネの製造方法のデータは、儀式終了後にすべて抹消する。バックアップにも残さず、全部初期化して元に戻せなくする。お前たちも表には出すなよ」
「え、あ、は、はい」
「でなければ宇宙のやつらは、自分たちのパーツを使って再現しようとするだろう。こんなもんが量産されたら、創世神を作っても世界の終わりだ」
「っ! あ、は、はい!」
ギア・フィーネの量産!?
それは地獄不可避。
たったの五機でも世界の戦禍を拡げたギア・フィーネ。
ファントムが言う『自分たちのパーツ』と言ったのは脳のことだろう。
もちろん脳だけではギア・フィーネの核であるGFエンジンは作れないけれど。
「ただ」
「はい?」
「王苑寺ギアンは、それすら見越して“登録者を神格化”なんて機能をつけたんだろうな。人間が人間であれば絶対に敵わない存在。もしも神と戦うのなら、同じく神にならねばならない。だが、神になれば人間として戦う意味を失う」
「っ」
「まあ、だから争いがなくなる——なんてことはない。今の状態が奇跡的なんだ。長くは保たないだろうけど」
「うん、そうだろうね」
それに関しては、頷かないわけにはいかない。
ギア・フィーネを失ったら、いくら守護神たちが側にいても石晶巨兵を武装させて発起するアホはどうしても出るだろう。
その時に戦う術はファントムの作ったギア・イニーツィオに頼ることになる。
人が増えれば、国が増える。
国が増えれば、それぞれの統治が始まるだろう。
資源なりなんなりを理由に、戦争は遅かれ早かれ再びこの世界に巻き起こる。
ファントムの言う通り、今の状態が奇跡的であり異常なのだ。
それでも、俺の考えに同調して戦争をやめてくれた今の世界には感謝しかない。
「だがお前は——石晶巨兵を作り出し、俺に、戦争のない世界を見せてくれた。本当に」
とても澄んだ声。
隣を見る。
ラウトの凪いだような表情。
「こんな世界、俺は滅びればいいと思っている。今も」
「エッ」
「だが、戦争のない今の世界は美しい。このままずっと戦争のない世界が続くのなら——お前とレナ・ヘムズリーが笑っている世界なら、俺とブレイクナイトゼロが守ってもいいと思う」
「……ラウト」
「面倒臭いやつ」
ふん、と笑いながら、ファントムが三号機の方へと歩き出した。
ジェラルドがそのあとをついていき、一度振り返って手を振ってくる。
それに手を振り返して、三人の語らいが始まるのを少しだけ眺めた。
まあ、あの中に混じって行ったりはしない。
それはさすがに野暮だから。
「あの男にだけは言われたくないな」
「面倒臭いってとこ?」
「ああ」
「それはそうだよねぇ」
クックっと笑い合って、俺も四号機に乗り込んでみた。
でも、正直なにを話せばいいのか意外にも出てこない。
さっきラウトとファントムに、アベルトさんの話を聞いてしまったからだろう。
イノセント・ゼロに乗った最初の登録者。
「アベルトさんはどうしてギア5に到達しなかったんだろう?」
純粋な疑問が浮かび上がってきた。
四号機の登録者、アベルト・ザグレブは最初から異質な登録者だったというではないか。
初めからリリファ・ユン・ルレーンという“歌い手”とともに乗り込み、瞬く間に誰よりもギア・フィーネの同調率を上げて行った。
それなのに、どうしてギア5に到達しなかったのか。
『世界を救うつもりなんか、なかったからだよ』
「え」
俺の疑問にイノセント・ゼロが答えてきた。
世界を救うつもりが、なかった?
『アベルトは、だって近しい人を守れればそれでよかったんだもん。ザードもアレンもそうだよ。でも君は世界を終わりから救おうとしている。その差だよ』
「……そっか」
裏設定
ラミレス・イオ・カネス・ヴィナティキは父親が平民であることから皇族籍から抜かれ、平民として育てられました。
ただし、やはり皇族の血筋であるため貴族の屋敷で貴族のような教養を受けながら育っています。
名字も特別に父の姓に似たものが与えられ、ラミレス・イオンと名乗っていました。
使用人はすべてロボットであり、喜怒哀楽は幼年軍学校に入るまでやや希薄な状態で育ちました。
しかし同年代の子どもと接していくうちに、周りの子どもの世話を積極的に行うようになり、自分自身が世話を焼くことで情緒が成長していきました。
高等部になるとスヴィーリオが教官として現れ、機密裏に護衛が増えます。
この頃皇族たちの皇位継承争いが激しくなっており、本人の知らないところでラミレスの存在は非常に微妙なことになっていました。
理由として英雄の子であり、皇帝が溺愛した娘の子でもあったため皇帝が孫に会いたいと頻繁に口にするようになっていたからです。
歳の頃も成人に近くなっており、このままではラミレスが皇族籍に戻されるのは時間の問題になっていたのです。なお、本人には未だ自身の出自を知らされていません。またしてもなにも知らないラミレス・イオンさん(15歳当時)
その高等部でスヴィーリオと同じくカネス・ヴィナティキ帝国に領土を奪われた国の出身であるミン・シャオレイと出会いました。
彼のカネス・ヴィナティキ帝国への憎しみに満ちた眼を見初めたラミレスは、彼にまとわりついてグイグイ絡みに行きます。
あまりの陽キャ。いっそ迷惑。
シャオレイはそりゃあもうラミレスが嫌いでしたが、成績をどうしても抜かすことができずに別の角度からも嫌いになってしまいます。
首席、不動のラミレス。次席、いつものシャオレイ。そりゃあ嫌われます。可哀想。
そんな二人ですが卒業間近の実践演習中に敵襲を受けて、スヴィーリオに指示を受けて学校の隠し通路から薄葉甲兵装の保管庫に向かいます。
二人の成績優秀者と、スヴィーリオにより敵は制圧できたものの、ラミレスの優秀さを知った貴族たちにより、ラミレスを皇族に戻す動きが表面化してしまいます。
ラミレスが皇族であると知らされたシャオレイは故郷の敵そのものであるラミレスに対して強烈な拒否感と嫌悪感を抱きますが、ラミレスから向けられる無邪気で純粋な友愛に優越感と心地よさも覚えており形容し難い感情に揺れ動き、苦しむことになります。どんまい。
帝都に召喚されたラミレスは、男版だとコピアが死んだ後のギア・フィーネ一号機の登録者に選ばれ、第一皇子であり皇位継承順位1位の叔父シュナイドの庇護下に入り後ろ盾となってもらいます。
女版だとシュナイドの婚約者となり庇護され、母同様歌が得意なことを理由に帝国の歌姫として祭り上げられていきます。
なんで男版と女版でルート分かれしてるかって言われたら、その方が十代後半の青春を愛憎と友情と嫉妬心と復讐心と庇護欲と性欲でぐちゃぐちゃにされたミン・シャオレイのドロドロ感情がめちゃくちゃになっててとても楽しかったからに他なりませんね。やー大変だー(棒)
BLでもTLでもどっちでもシャオレイが大変なので一粒(?)で二度美味しい。
この二人のルートは、ダブル主人公スタイルです。