五人目の神(2)
「えっとね〜、多分——聖女を信じない人には『聖女の魔法』が効かなくなるようにするって感じ!」
「は? 阻害系なの? 意外〜」
デュレオが目を丸くする。
俺もだ。
ジェラルドがこの世界に生み出した概念は、まさかの阻害系。
聖女を信仰しない者へ、聖女の慈悲を許さないというもの。
ミレルダもびっくりしている。
でも理由を聞けば納得した。
宇宙の偉い皆様が、聖女を撃ち殺してミレルダに自分たちの治療を脅して強要したというのだ。
ルーファスが頭を抱える。
やってくれたな。
「ムカっとしたの」
「そっか。それは仕方ない」
「でしょ〜?」
これからこの世界には『聖女を信じない者には、聖女の慈悲が与えられない』という概念が追加された。
満場一致で賛成だわ。
「ところで、一つ確認しておきたいんだが」
「なに?」
「神格を返上するのは王子とジェラルドだけでいいんだな?」
「はい」
「は〜い」
「そうだな。俺は今更人に戻ってもな」
ファントムの確認に俺とジェラルドが手を挙げる。
神格の返上は、つまり『人間に戻る』ということだ。
本来ならば五人全員の神格化で神力を持つ体と魂——霊魂体を融合して一つの神とするが、補助である後続機が三体あることで五人の神力だけを消費して新たな創世神を創り出すことが可能になった。
そもそも新たな創世神を作る材料は以下の五つ。
・神格化した器——つまり五人分の肉体。
依代が代用品として用意してあるから問題ない。それに地核に行ったら霊魂体になるので“神”として形を成すための一時的な器にすぎない。
・五人分の肉体に宿る神力。これは概念ではなく、概念を使うための神力のことらしい。俺たち五人分の神力をゼロレベルまで消費するが、神力は使ったところで魔力と同じく回復するのでなくなるわけではない。
・創世神を構成するための人格。これは人格データを応用して融合させたものを代替え品として使用する。
・膨大なエネルギー。ギア5に上げたギア・フィーネを用いて生産する。五機だけではギリギリだったが、後続機シリーズがあるので十分すぎる。
・神格。元々俺の神格を返上して与える予定だったのでクリアだ。それにジェラルドも返上するのであれば、創世神に相応しい格に跳ね上がるだろう。他の三人も下につくように“契約”を行うので最高神という格付けは確実。
っていうか感じで準備はほぼ完了だ。
俺もそうだけど、ジェラルドも人間に戻るということでルオートニスの守護神は引き続きラウト、ディアス、シズフさん、デュレオの四名で固定だな。
ナルミさんはなにがなんでも守護神入りはしない、と言っているし。
「ふむ、十分だな。今からルレーン国に入り、“接続”だけして……日程はどうなる?」
「レオナルドに儀式日程は任せておいたんで、すぐに出ると思います。国民への周知は完璧にはできないかもしれません」
「まあ、信仰心を無理に紐づけると信仰心不足で滅びかねないしなぁ」
ポリポリと頭を掻くファントムが見るモニターは、こちらからなにが書いてあるのかわからない。
信仰心は人心の魔力生産体制というラウトが結晶病の権能を開花させた時にディアス、シズフさん、王苑寺ギアン、クレアと無自覚に“連結”したことで仮確立した“概念”である。
人の心、感情で魔力が生み出され、千年の間に魔力というエネルギーが地上に満ちるようになった。
実質“五人の神”の連結により生まれた概念である。
それはギアンが予想していなかった創世神の“エネルギーを生み出す概念”の代用品として世界を支えてきた。
ラウトは結晶病で世界を覆い、ギアンはそれを利用して世界を維持してきたが、その間世界を支えた“エネルギーを生み出す概念”こそ人の感情を魔力に変換するというもの。
あれほどの荒神でありながら、ラウトはこの世界を守り救ってきたのだ。
なので、多分神格はクレアやギアンよりもラウトの方が高い。
世界を憎み、滅びを望みながらも。
なんというツンデレ。
こんな世界規模なツンデレ見たことない。
本人には絶対言えないけどね。
「世界のシステムを新しく作るなんて、今更ながらとんでもねぇですねぇ」
「まあな。人間だけなら無理だっただろうな」
「ファントムやディアスやデュレオがいてくれて、本当によかったです」
それはトニスのおっさんに心底同意である。
もし、悪い考えを持つ者がいたならばここで介入して世界を好きなように作り替えることができるのだ。
今後、たとえば俺が死んだあとの世界で創世神に成り代わろうという馬鹿者が現れたとしても、うちの守護神やファントムが必ずなんとかしてくれることだろう。
そのためにディアスとラウトは神格を保ったままにすると言ってくれた。
シズフさんだけは——デュレオと生きるため。
ま、この二人に関してはなにも言うまい。
「ジェラルドは本当に人間に戻るのかい?」
「うん。ヒューバートとミレルダと同じように老けて死ぬんだ〜」
「あ、そ、そう」
ジェラルドの答えに存外満更でもなさそうなミレルダ。
天然たらしめ……。
これだからイケメンは。
眼福だよ、まったく。