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番外編 子どもの終わり(2)


 言われた通りに[隠遁]で機体を隠して近くに着陸する。

 身を隠したまま石晶巨兵(クォーツドール)の隙間を通り抜け、先にミレルダが治療院の中に入った。

 外から回り込み、応接室の窓から中を覗くと四人の男が兵を連れて、ソファーで偉そうにふんぞり返っている。

 

「——!」

 

 ただ、ジェラルドはその横に白い聖女の衣を纏った少女が四人、頭から血を流しているのを見て固まった。

 男四人は皆昨日見たのと同じ顔。

 うち一人が腕を取り出し「クソ! また進行している!」と叫ぶ。

 

「おい、新しい聖女を連れてこい!」

「はい。こちらです」

「い、いや!」

「た、助けて……」

 

 扉を開けた兵が四人の聖女を連れてくる。

 そしてそれぞれ一人に一人、聖女を立たせて跪かせた。

 まさか力ずくで聖女に『聖女の魔法』を使わせるつもりなのか。

 そんなことをしても、聖女の『救いたい心』がこもらない。

 レナが『聖女の魔法』には、なにより『救いたい心』が必要だと言っていた。

 他の魔法と『聖女の魔法』が決定的に違うのは、その心が必要かそうでないか。

 その心を聖女の体内にある結晶魔石(クリステルストーン)に通すか否か。

 レナが「もしかしてデュレオ様も聖女の魔法が使えるのでしょうか」という問いに、検証した結果出た答え。

 怯えた少女たちは、泣きじゃくりながら首を横に振る。

 

「さあ、我らの結晶病をとっとと治せ!」

「失敗すればそこに転がるゴミと同じことになるぞ」

「ひっ、ひ……!」

「待ちな!」

 

 そこへ飛び込んで来たのはミレルダだ。

 銃口を向けられても「ボクはここで一番優秀な聖女だよ」と言い張る。

 実際レナと同等の聖女は、世界的に見てもシャルロットとミレルダしかいない。

 スヴィアやマロヌも十分強い力を持っているが、それでもだ。

 “歌い手”特有のプラスアルファ、とでも言えばいいのか。

 

「昨日の今日でずいぶん好き勝手してくれたね。このことはルオートニス守護神たちと、ルオートニス王家に報告させてもらうから」

「ずいぶん大口を叩く聖女が出てきたものだ。貴様一人で我ら治せるというのか?」

「多分ね。でも、先に言っておくけど彼女たちも治せなかったわけじゃない。『聖女の魔法』は聖女の感情に強く影響を受ける魔法なんだ。自分たちで聖女たちの力を奪っておいて殺すなんて……聖女は先天性の体質で決まるのに、本当に余計なことをしてくれたね」

「フン! 地上の虫けらが何匹死のうが、些細なことだ」

「っ」

 

 銃口はミレルダに向けられたまま。

 少女たちのもとに近づいて、笑みで安心させる。

 

「ミ、ミレルダ様」

「さあ、もう大丈夫だから落ち着いて」

「は、はい」

 

 ハンカチで少女たちの涙を拭う。

 その様子に苛立った男の一人が「早くしろ!」とテーブルを蹴る。

 宇宙でもっとも地位の高いところにいる人間とは思えない品のなさだ。

 しかし血走った目と焦りの表情を見れば、目に見えて体に広がる結晶化に怯えている故だとわかる。

 死を前にして、余裕がまったくないのだ。

 

「自業自得だろう。これに懲りたら今日行われる七ヶ国会議に出るんだね。もしくは代理の者を出席させなよ。連邦の長たちの責任を果たせないなら、大人しく引退しな」

「さっさと治せ!」

「はぁ」

 

 溜息を吐くミレルダ。

 手を合わせて赤い目を伏せる。

 ピンク色の髪が地面から湧き上がる光で揺れ始めた。

 

「〜〜〜♪」

 

 美しい歌声が広がる。

 結晶化した腕を持ち上げた男は、まだ訝しんでいた。

 しかし、結晶化した部分が『聖女の魔法』により砕けて人の肌が戻っていく。

 

「お、おお……」

「……さあ、治療してあげたよ。反省して王都へ——」

「ああ、礼を言おう」

「!」

 

 懐から拳銃を取り出して、なんの躊躇いもなくミレルダに向かって引き金を——引いた。

 [風壁結界]でミレルダと聖女たちを囲っていたので、彼女たちに怪我はない。

 させるつもりはない、もちろん。

 しかしらそれでもなぜだろうか。

 

「ちょっ……! ジェラルド! どうしてキミ……!」

 

 [瞬間転移]でミレルダを庇うように立つ。

 向けられた拳銃を手で掴み、[身体強化]で腕力にモノを言わせて握り潰した。

 

「……!? なっ」

 

 人間が素手で拳銃の銃口を握り潰すなんて、宇宙の人間には信じ難い。

 そしてなにより、ゆっくりと顔を上げた青年が新緑の両眼を珊瑚色に変えた。

 

(なんだろう、腹が立つ。あんまりこんな気持ちにならないのに)

 

 感情が希薄というわけではない。

 ただ、感情の隆起がほとんどないのがジェラルド・ミラーという青年だ。

 彼の根幹には幼馴染で主人、ヒューバートへの忠誠心。感謝。友情。家族愛。

 レナにもランディにも似たようなものがある。

 ミレルダにも。

 

(でも、ミレルダはちょっとだけ、違う)

 

 家族愛はある。

 でもそれだけではない。

 不思議な感情がある、彼女にだけは。

 レナと同じ聖女。

 ジェラルドの命を、救ってくれた力を持つ乙女。

 それをこうも、踏み躙る。

 そんな相手を、どうしても許すことができない。

 

「聖女を——」

「ひっ、な、なんだ!?」

「聖女を、信じない者に……救済は、いらない」

「なに……!?」

 

 ジェラルドがそう呟いた瞬間、男たちの体が見る見る結晶化していく。

 兵たちは[氷牢]の中に閉じ込め、昨日の会場と同じように光学迷彩で姿を消していた者も全員漏れなく拘束した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ま、まさかジェラルドがっ!?
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