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番外編 子どもの終わり(1)


「え、応援要請?」

「うん。聖女の治療院が制圧されたんだって」

 

 歓迎パーティーの翌日、辺境の自領に戻っていたジェラルドが朝のお茶を飲んでいるとミレルダが通信機を持って現れた。

 朝ご飯は先ほど一緒に食べたので、今日はこのあと転移陣から王都に会議の警護に行く予定だったのだが。

 聖女の治療院は宇宙の民が結晶病を発症し、その治療のためにハニュレオと新国メルドレアの間に造られたハニュレオ傘下の土地である。

 傘下、というのは一応新国メルドレア領であるため便宜上そう呼んでいるのだ。

 なにしろ聖女の治療院に集められている聖女たちは、九割がルオートニスの聖殿出身者。

 他国で“聖女”として名を馳せる聖女は一国につき一人だけではあるものの、ルオートニスは聖女候補が本来一国の代表となる聖女と遜色ないため他国に多く派遣している。

 ルオートニスの聖女がレナ・ヘムズリーでなければ、誰が選ばれても不思議ではないレベルなのだ。

 そして逆に言えばレナ・ヘムズリーがいる限り、彼女たちが国の聖女になることはない。

 国として複数人の聖女を抱えることも、ないことはないのだがそれでもルオートニスの聖女レナ・ヘムズリーは規格外。

 たった一人で聖女百人分の力を有していると言っても過言ではない。

 だからやはり、ルオートニスの聖女候補たちは他国の聖女不足の地域に駆り出される。

 彼女たちにとってもそれが幸せだろう。

 そして、特に彼女たちが集められているのが聖女の治療院だ。

 新国メルドレア領、管理はハニュレオ、ただし治療院の聖女のほとんどはルオートニスの聖女たち。

 だからこそ、治療院になにかあれば治療院からもっとも近いジェラルドのところに連絡がくる。

 昨日もヒューバートに「治療院に宇宙の代表者たちが来て、騒ぎを起こしたら頼むね」と言われていた。

 お茶を飲み終わってから、ソーサーにカップを置いて立ち上がる。

 

「じゃあ行こうかな〜。ミレルダは待ってるぅ?」

「一緒に行くよ。キミ一人だと心配だし」

「わ〜い。ミレルダと一緒だと心強い〜」

「まったく」

 

 とか言いつつ年下のジェラルドを弟のように可愛がってくれる。

 エアーフリートはさすがに置いていくとして、ギア・フィーネ三号機とギア・イニーツィオで治療院まで行く。

 最高スピードで三十分ほどだろう。

 

『今のうちに敵性情報をまとめておいたよ〜』

「わあ〜、アレンさんありがとうございます〜」

 

 ふんわりと亡霊のような姿で現れる青い髪の男。

 かつて三号機の登録者だった、アレン・ザドクリフ。

 ジェラルドにしか見えず、話せない。

 こうして戦闘のサポートをしていくれているのだが、今回も宇宙の衛星映像を『ハッキング』して取り寄せてくれた。

 

『どうやら治療院の周りを武装した石晶巨兵(クォーツドール)が囲んでいるみたいだねぇ』

石晶巨兵(クォーツドール)が?」

『うん。……え』

 

 スナイパーユニットのライフルを、治療院に構える。

 さすがにこの距離からだと狙い撃つのは難しい。

 超長距離精密狙撃ユニットは、今日持ってきていない。

 

『待って、ジェラルド。外の機体を潰しても、中にも歩兵がいたら保護対象を助けることはできないよ』

『どうしたの、ジェラルド。まだ目標は見えないよ? なにかわかったのなら情報共有してくれないかな?』

「あ……そ、そうか。あ、あのね、ミレルダ、アレンさんがね」

『うんうん』

 

 アレンが調べてくれた情報を、ミレルダと共有する。

 基本的にミレルダとジェラルドの機体は同じ長距離支援型。

 治療院の内部にいる敵を制圧するのなら、魔法に長けたジェラルドが潜入して一掃した方がいい。

 しかし——。

 

『なら、ボクが先に潜入して敵の配置を[思伝]で伝えるよ』

「え。あ、危ないよ。ぼくが行くよ」

『ううん、ジェラルドはギア・イニーツィオとアヴァリスを[隠遁]で隠してから来て。宇宙のやつらが結晶病を治しに来てるのなら、聖女であるボクを殺すことはない』

「あ〜、それは、確かに?」

 

 しかし、石晶巨兵(クォーツドール)を武装させた時点で、そいつらはヒューバートの敵だ。

 武装した石晶巨兵(クォーツドール)は、一体残らず確実に消さなければ。

 でも、やはり人命優先か。

 ミレルダの策に乗るしかあるまい。

 

「わかった、けど……」

『うん? なにやら不満げだね。なんだい? 言いたいことがあるなら言いなよ』

「あ——危ないんじゃないかなぁって」

 

 正直なところ、ジェラルドは恋や愛というものがわからない。

 ヒューバートやランディが妻となったレナやシャルロットを、とても大事にしているのは知っている。

 それがとても素晴らしいことだとも思う。

 でも自分に当てはめてみると、まったく実感がない。

 ミレルダと結婚したという実感もなければ、彼女が妻であるという実感も薄い。

 守るべき妻という存在だというのは、わかっている。

 でもそこに恋や愛があるかと言われると、幼馴染たちとは違い、おそらく、ない。

 それでも一緒に暮らすうちにそれなりの情は芽生えているし、実姉のようにハキハキした性格のミレルダはもう一人の姉のような感覚だ。

 だから、その身を案じるのは自然なこと。

 

『なら、キミがボクを守ればいいだろう』

「え、あ、う、うん」

『大丈夫。神々の助けはないけど、キミとボクなら上手くやれるさ。ヒューバート様にもそう思われてるから、頼まれたんだしね』

「う、うん。でも、あまり無茶しないでね?」

『わかってるよ』



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