失神者多数
緊張感が増す。
足音は四人分。
ちらりと見れば隣室の中の椅子に座った宇宙連邦のやつらも、気配を感じて入場口を注視している。
そう、普通の人間でも感じてしまうだろう。
「ご、ご覧になって——あ、あの方々はっ」
入場口から入ってきた四人組のアイドルグループか? ってくらい顔がいい男性たち。
最初に入ってきたのはディアス。
白を基調にした生地に、黒と金の刺繍で縁を整えた裾の長い礼服。
元々貴族なので他の三人より場慣れしてる感があるね。
その隣にいるのはこちらも白を基調とした騎士の正装風礼服のラウト。
赤のペリースマントは幅も長さも多めに取ってある、大きめのもの。
金の紐で留め具を繋ぎ、留め具には翡翠が嵌められている。
金糸の刺繍で裾を縫い止めてあるから、見た目より少し重いだろうけどそれをおくびにも出していない。
表情は不機嫌そうだけど。
それはいつものこと。
で、そのラウトのやや後ろにいるのが黒い燕尾服風の礼服のデュレオだ。
燕尾服風、なので燕尾服ではない。
ベルトが前後にふんだんに使われ、袖にも紐が交互に編まれている。
ちなみに今日はいつもの成人男性の姿。
珍しく黒い髪は後ろに三つ編みにしている。
そして一番後ろにいるのは金髪を左側にひとまとめに結った、品のある灰色の軍服風の礼服のシズフさん。
青糸刺繍で模様が描かれ、ラウトと同じくペリースマント。
ただ、シズフさんのマントは青。
全体的にぼやけた色なのに、着ているのが観賞用イケメンのシズフさんなので完璧に着こなしている。
なんかもう、服がしっかり引き立て役になっているって感じ?
かっこよぉ〜!
本当マジ顔がいい男が四人並んで入ってきたら、そりゃあ倒れる女性も出るだろう。
普段より警護の騎士を増やしていて正解だったよね。
しかも顔だけでなく気配——神気というのが溢れているから、人は自然に道を開ける。
神々しい、うちの守護神様たちだ。
他国の王侯貴族も自然に頭を下げてしまっている。
「あら?」
「あれ?」
「どうされましたか? シャルロット様、ヒューバート様」
その守護神たちの後ろから、昨日と同じように首根っこを掴まれたリーンズ先輩と雑に着崩した礼服のファントムまで入ってきた。
守護神たちとは系統の違う超絶美形が入ってきて、お育ちのいいご令嬢たちが一斉に頬を染めて目を奪われている。
「あらあら、国守様ではありませんか。薄葉甲兵装を外しておられるところは久方ぶりに見ましたわね」
「あ、やっぱりシャルロット様はファントムの素顔を見たことがあるんですね。俺は昨日初めて見て本当に驚きました……」
「まあ、そうでしたの? 基本的に公的な場はお嫌いですから、驚かれたでしょう」
「そ、それはもう……」
あまりにもワイルド系ホストって感じで、とても普段油まみれになっているとは思えない。
顔がよすぎる。
というか、ファントムまであの中に加わったら……顔が良すぎて無意識に手を合わせてしまう。
あ、俺だけじゃなかった。
ダンスホールのあちこちで天井を仰ぎながら両手を合わせている人がいる。
信仰心が強い人か、俺と同じく面食いの極だろうな。
わかりみが深い。
あ、ラウトと目が合った。
無理、美しすぎる。
口を手で覆って、もう片方の手は親指を立てた。
なぜか塀になすりつけられたクソでも見るかのような蔑んだ目で見られた。いや、本当になぜ?
『こんな敵意に包まれた状況でよく笑っていられるな』
という[思伝]のメッセージが入ってきた。
ふはははは、この程度の敵意なんともないね。
『宇宙側が仕込みを行ってるのはみんな気づいてる?』
『バカにするな。[探索]の魔法はお前だけではなく我ら全員使える』
『だよね。くれぐれもやりすぎないでね』
『相変わらず甘いな』
はあ、と溜息を吐かれる。
その溜息姿にさえ、一部の令嬢たちには刺激が強いらしく倒れてしまう。
美形すぎるのも考えものだな。
「ファントムとアグリットではないか。二人とも参加するのか?」
「俺はコイツの付き添い。嫁探しぐらい真面目にしろって」
「無理ですよ〜! 人がいっぱい、無理ですよ〜」
「昨日からこれだ」
「アグリットは本当に人目を気にしすぎではないか?」
ファントムの後ろに隠れたリーンズ先輩に、ディアスが声をかける。
あんな超絶美形集団の中に巻き込まれたら、普通失神必至なんだけどリーンズ先輩はまともに対応していてすごいな。
慣れって怖い。
「アグリット? え! 君もしかしていつも花の着ぐるみきているアグリット・リーンズ!? 石晶巨兵の初期開発メンバーの一人で王宮植物研究者で魔樹研究第一人者って言われてる、あのアグリット・リーンズ!? 君そんな顔してたの!?」
デュレオ、驚きながらも解説じみた紹介をするなぁ。
「人間だったのか……!」
「本当に人間だったのか」
ラウトとシズフさんもその反応。
「ツラは悪くねぇんだよな」
「ヒィッ」
「そうだな、アグリットはよい顔立ちをしていると思う。実績もあるし、もしよければうちの村にいるルルアという娘を紹介したい。俺の弟子の一人だが薬学にも精通している。薬草の話でお前と話をしてみたいと言っていた」