宇宙連邦代表たち
シンプルに父上の年齢で退位は早いと思うし、俺にはやるべきことがあるからだ。
レオナルドの臣籍降下を先延ばしにしてもらっているのも、今日レオナルドを他国の王侯貴族にお披露目しているのも、創世神召喚の儀式が失敗した時の保険だ。
なぜなら創世神召喚の儀式とは、ギア・フィーネと登録者を連結させて融合、新たな創世神にすることなのだから。
無理はさせたくないが、ジェラルドが二年も神格化及び神鎧化しなかったのでこうなってる。
とはいえ簡単なことではないのは間違いないし、ジェラルドを責めるわけにもいかない。
「ランディはギア上げの調子はどうなっている?」
「一応、ギア3は難しくなくなっています。しかし4に上げるのがなかなか」
「あー、キツイよねぇ」
ランディは順調っぽいな。
ルーファスもギア3は余裕になってきたから、やはり問題は八号機とクロンか。
うーん、ルーファスの部下と交換してもらえるか、今日相談する?
一応宇宙の要人警護で会場には来るんだよね。
あ、考えてたらまさに来たわ。
「宇宙連邦バベルより、オーガスタ・マフォルダ様。ムーンノーティスよりルラルド・メッス様。マーズノーティスよりワーズ・オルドンス様。アースノーティスより、マイ・クレバー様……」
うわぁ。
その後ろからも八人ほどの勢力代表者が護衛とともに入場してくる。
しかし、先に入場してきた四人が桁違いに偉そう。
偉そうとは印象ではなく態度の話だ。
ルーファスたち『ストーリー』が彼らの護衛として一緒に入ってきたのだが、ルーファス以外気落ちした表情をしている。
まあ、多分怒られたんだろうな。
ルーファスたちの本来の任務は、セドルコ帝国を傀儡にして地上を制圧し、デュレオを捕えることにあった。
俺——というかそのデュレオに丸め込まれて、ディアスの治療を受けて延命しているだけでなくセドルコ帝国はまんまと滅び度重なる地上への攻撃も、ことごとく殲滅させられている。
本来であれば、ルーファスたちは敵に寝返った裏切り者と呼ばれても不思議ではない。
しかしそうさせないために新国メルドレアとハニュレオの国境付近に、聖女による治療を施せる施設を作ってやったしディアスの治療方法をまとめて提供している。
それはルーファスたちの失敗や損害を十分に補填できる情報だ。
なにしろ宇宙がほしくて堪らない情報なのだから。
それなのにあの態度か。
いや、別に恩を着せるつもりはないが、あれだと完全に自分たちは上であり地上はあらゆるものを献上してくるのが当然、って嫌な感じに見えるんだよなぁ。
実際ルーファスたちの顔色と複雑そうな表情を見る限り、そう思ってそうだけどね。
負け続けなのに、あの顔と態度で入ってこれる上司に頭が痛いって感じかな?
中間管理職のつらいところが顔に丸出しだよ、ルーファス。
可哀想だけども。
「席は?」
「は? オ、オーガスタ様、ルオートニスの国王陛下にご挨拶はなさらないのですか?」
「フン。時代遅れの地上の民に挨拶などしてなんになる。そもそも言葉が通じるかもわからん」
「珍しく意見が合う。時代錯誤のドレスやらパーティーなどでもてなされて、時間の無駄だな」
「っ」
クロンが顔を青くして俺の方を見る。
その表情から、宇宙連邦の偉い人たちが失礼なことを言ってごめんなさいって言ってるのが伝わってきた。
いいよ、父上もちょっと驚いてるけど、すぐに微笑ましいものでも見るような表情になってるもん。
ルオートニス王家が聖殿により長年蔑ろにされた歴史は忌むべきものだが、その分この程度の態度に怒りを感じるほど狭量ではないのだ。
最初に入場してきた特に偉そうな四人以降の、惑星ごとの勢力の長たちはそんなことはなく普通に父上に頭を下げて挨拶をして行ってくれたしね。
「無礼なのでは?」
「お許しになりますの?」
が、周りはあまりそう思わないらしい。
特にランディとシャルロット様の目が本気だ。
ハニュレオのソードリオ王とミドレ大公もダンスホールの隣室にある、貴賓席に平然と座って横柄に使用人たちに命令している彼らを睨みつける。
「まあ、怒るほどのことでもありませんしね」
「侮られるのはよくないんじゃない?」
参戦してきたのはミレルダだが、俺としては笑ってしまう。
「いや、侮ってくれるのならそれはそれで別にいいよ」
「なるほど。器が違いますわね。でしたらわたくしたちもなにも申し上げませんわ。ディルレッド国王陛下も気にされている様子はございませんし、ルオートニス王家の方々は器が大きくていらっしゃいますわね」
「聖殿が覇権を握っていた時代に比べたらマシだしね」
「……え」
ジョークのつもりで言ったのだが、なぜかシャルロット様たちにドン引きされてしまった。
なんで?
「国賓はこれで揃いましたね」
「そうだね」
ではそろそろ来るかな、とレナに笑いかける。
この日のために、色々準備してきたのだから、そろそろメインディッシュに入ってもいいと思うんですよ俺は。
——カッ。
いやに耳に残る靴音。
それが聞こえた瞬間、ダンスホールの空気が変わった。
談笑が止まり、入場口に視線が集中する。
鈍い人間でもダンスホール中の視線が入場口に向けられれば、いやでもそちらを見てしまう。