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リーンズ先輩のお見合い(2)

 

「無理ですっ! 無理無理……! 人がたくさんいて気持ちが悪いです……!」

「めんっどくせーなぁ! ホンットに! どーせテメェと話の合う女なんかこの世に存在しねぇんだから、適当に見繕いやぁいいだろうが!」

「それはそれでひどいですよ! でもそもそもわたくしめ、結婚するつもりがございませんんっ! 研究だけしていればそれで幸せなのでありますから!」

「貴族として生まれ育ってそれはダメでしょ」

「だ、だってぇ」

 

 ナルミさんとファントムにしがみついて、割とガチ目に泣いてるリーンズ先輩。

 ああ……せっかくパーティーに連れ出してもらったのに、すでにご令嬢たちからドン引きされている……!

 いくら地位と名声とお金があってもこれじゃあ結婚してくれるご令嬢なんて現れないよぅ、リーンズ先輩ぃ!

 

「でも、ファントムがリーンズ先輩を連れてくるとは思わなかったな」

「二年も研究塔で同棲生活してるようなものだからね。ファントムはこれで割と世話好きだから」

「あ、ああ、なるほど」

 

 意外に思っていたが、ナルミさんの説明を聞くと納得する。

 階層は違えどギア・フィーネや石晶巨兵(クォーツドール)の研究にも魔樹は関係してくるから、それなりに交流はあったんだろう。

 ファントムも研究者肌なのでリーンズ先輩と話もウマも合うだろうし。

 そして一度懐に入れたものに対して、ファントムはとても甘い。

 すごいな、リーンズ先輩はファントムにそこまで気に入られていたのか。

 研究しか頭にない、純粋な人だもんね。

 

「あ、あと、俺は別件でテメェに用事あったんだわ」

「なんです?」

 

 いつものノリで返してしまうが、会場内は「ヒューバート殿下とどういうご関係で……?」「新しい守護神様……?」と困惑が広がりつつあった。

 どうしよう? 先に公的に紹介するべきか?

 でも明日シャルロット様とかが来るしなぁ。

 

「最近ルレーン国の使者に舐めた口利いてるクソがいたんだが、テメェ、自国の貴族どもの躾はどうなってやがる?」

「あ。あー、その話……」

「今さっき、兄上がこの場にいた者たちにしたばっかりですね」

 

 ファントムと入れ違いになったよ、と答える前に、レオナルドが答えてくれた。

 だが、ファントムは会場の貴族たちを一瞥する。

 この超絶美形が睨みつけると迫力が凄まじい。

 ラウトやシズフさんもそうなんだけど、美人の睨みは神の威圧並みに威力がある。

 まあ、それ抜きにしてもファントムの殺意は素人にさえ感じられるほど強い。

 睨まれた者の中には後ずさって、悲鳴じみた声を漏らす者も少なくない。

 

「ファントムたちが入ってくる前に出て行った者たちがいたんだけど、その者たちが偏った思想を持ちつつあったようだね。この場に残る者の中にもまだそのような思想を持つ者がいるかもしれないが、あれを見て改心するだろう。変わらないようなら改めて締め上げるよ」

「……ふーーーん。なら、まあいいけどな。俺が見つけたらその場で殺すぞ」

「いいよ」

「ヒュ、ヒューバート殿下!?」

 

 俺があっさりと許可を出したので、ギョッとした貴族が制止に入ってきた。

 だが俺はその許可を撤回するつもりはない。

 

「皆、この方はルレーン国の国守様だ。我が国の者ではない。ルレーン国の守護神のようなものなのだ。彼の国に害なす者と判断されれば、殺されても文句は言えないよ。神の裁きに等しいからね。殺されないように気をつければいいだけの話だろう? 違う?」

「……っ」

 

 上位貴族はさすがだな。

 俺の言わんとしていることを察して胸に手を当てて頭を下げたり、女性たちはスカートを摘んでお辞儀をしてくれる。

 

「せいぜい殺されないように、他国にも尊敬を以て接すればいい。うちの守護神の中にも他国に不敬な態度を取る輩に不快感を示す者もいると思うから、十分気をつけなよ。他国の者と接する時は紳士的、淑女的に、ね。この場の誰もセラフィ・セドルコのようにはなりたくないだろう?」

「ヒッ……」

 

 微笑んでやれば一部が冷や汗を垂らしながら半笑いになっている。

 うんうん、改心しておけよ、今のうちに。

 ラウトに『為政者——人の上に立つのに相応しくない無能』と断じられたら、容赦なく消されるぞ。

 二年経つがセラフィ・セドルコの名前は絶大だ。

 あの女はラウトに首と左足を落とされ、切断部を部分結晶病で封じられたことで今だに生首と片足の姿で過ごしている。

 新国メルドレアでは国を裏切った挙句、売国と最後の皇帝となったステファリーへ姉の立場を悪用して帝位を奪い取り暗殺を計ったとして現在の帝都で毎日晒し首にされているらしい。

 体は性奴隷の刑に処され、烙印を押されて一等娼館に左足とともに“設置”されているとか。

 まさに生き地獄。

 今はもう皇女であった頃の見る影もなく、無感情にすべてを受け入れているそうだ。

 ステファリーは、当初の予定通り王籍から外れはしたものの辺境伯としてハニュレオ貴族籍に復帰したエドワードの屋敷に雇われ、静かに暮らしている。

 ただ本人は帝位を返還後すぐに避妊手術を受けたという。

 最後の皇帝一族の者としてのけじめと覚悟であると聞いた。

 エリステレーン伯爵たちもそこまでの覚悟を見せたステファリーに、恋することも結婚することも許すと言ったと聞く。

 ……彼女の余生が穏やかであればいいと、時折思い出しては祈っている。

 という感じで、誰もセラフィ・セドルコのようにはなりたくなかろう。

 うちの守護神は守護神だが荒神や邪神も含まれている。

 国を守ってはくれるが、人を守ることはない。

 なんなら積極的に狩るぞ。

 

「問題はリーンズ先輩かな」

「アグリット、お前、今日ここで見つけられなかったら明日の国際パーティーに強制参加だからな」

「ひぇ!」

 

 強制参加確定の気配を察した。


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