二年後の世界(3)
しかし、ファントムとデュレオがギア・フィーネに乗れないのは衝撃だった。
二人ともヒューマノイドなので搭乗自体はできても、同調ができず、ギア上げができないらしい。
意外だよねぇ。
でも、そういえばファントムは三号機に乗れない、と言ってた。
人工生命体であるヒューマノイドはギア・フィーネには乗れないのだという。
「さて、新郎頑張ってこいよ」
「は、はい! 行ってきます!」
そう言ってレオナルドを送り出す。
レオナルドが十年以上かけて実らせた恋は、多くの国民に祝福された。
それを眺めたあと、披露宴のための着替えに向かう。
あー、めんどくせー。
披露宴のレオナルドとマリヤも着替えを行うとしても、なんで俺まで着替えなければならないんじゃ。
「披露宴は午後三時に終わり、そのまま祝賀パーティーになります。午後三時になりましたら、お着替えとなりますのでまたこちらのお部屋にお越しください」
「わかった。レナの体調は?」
「悪阻が相当酷いご様子です。医者と医師が常駐しておりますので安静に過ごされれば問題ないかと」
俺のスケジュールを読み上げるのは、ランディとジェラルドの代わりに側近となったフォルティス・コテーズ。
眼鏡をクイっと押し上げた、黒髪オールバックのいかにもな執事風な男。
コテーズ伯爵家は数少ない、昔ながらの王家派貴族。
俺より10歳年上の現在30歳、ということで、俺の側近候補からは外されていたのだがランディが国外に婿入り、ジェラルドが国境を守る辺境伯となったため俺の側近に格上げされた。
なんというか、ランディが俺をいかに甘やかしていたのかを痛感する。
侍女たちが俺を手早く着替えさせ、頭を下げて退出していく。
はあ、と溜息が出る。
半年前に妊娠が発覚したレナは、悪阻がとても酷い。
「そうか……食事も喉を通らないと聞いているから、果物でも差し入れたら食べてくれるだろうか?」
柑橘系でもこれしか食べられない、とかがあると母上が言ってたからなぁ。
こういう時男って本当になんの役にも立たない。
「ご希望を聞いてから手配しておきます。ただ、うちの妻の例ですと『そっとしておいてくれるのが一番』とのことです」
「そ、そっかぁ。でも会いに行くのはいいよね……!?」
「もちろんです。ただ、会いたくないタイミングもあるらしいので、事前にお伺いを立てておくのをお勧めいたします」
「難しいーーー!」
ホルモンバランスが崩れて情緒もぐちゃぐちゃになるらしいし、いつ吐き気に襲われるかわからないから人に会いたくないとか、色々あるらしいよ。
フォルティスは既婚者で娘が三人いるので、とても参考になる。
助かります、マジで。
公務は無理にでも休ませているのだが、やっぱり心配だよなぁ。
「リーンズ先輩に悪阻を和らげる香りの花とか聞いてみようかな……」
と呟きながら披露宴に参加する。
貴族たちに笑顔で「他国に迷惑をかけないように。変な頼み事はしないように。威張り散らさないようにしてね。国の恥はいらないよ」とやんわり釘を刺しておく。
弟の披露宴だもの、ガチの説教はやめておくことにした。
それでも俺の圧もそれなりに効果はあるらしくて、一部の貴族は顔を青くしていた。
はい、あの顔を青くしていたやつリストアップして調べておこうね。
なにか心当たりがあるんだろうから。
うちの国の貴族って割と長いものには巻かれて、甘い汁だけバカバカ飲みたいクソのようなタイプが多いのだ。
もちろんそうでない貴族も一定数いるが、聖殿派が幅を利かせていた頃のことを思い出すと、自分のためならば王家すら蔑ろにしてもいいという考え方の者がまだまだいる。
そいつらに俺の行いを笠に、他国で好き放題されるのは我慢ならん。
弟の顔を立ててやんわり注意に留めるが、祝賀パーティーではガッツリ説明しておこう。
「……それにしても、今日結婚式の披露宴会場で新郎に側室アプローチしてくる令嬢多すぎない? 心臓鋼なの? 隣に新婦もいるのに。あんなことしたらレオナルドの好感度マイナスよ?」
「ヒューバート殿下が側室を娶られないと宣言しておられるからでしょう。しかし、存外ルオートニス王家は一度一人の女性を愛すると、他の女性が目に入らなくなる性質があるようで」
「父上のこと言ってる? 一応父上はメリリアっていう側室もいたのよ?」
「存じ上げておりますが、40歳を過ぎて五人目となると、なんといいますか」
「うーーーん、それは否定できないけど」
五人目。
俺にはレオナルド以外に同腹の弟が二人いる。
ライモンドと、去年生まれたリアンだ。
で、二ヶ月前に母上が「生理が来ないのよね」と言い出し、一ヶ月前に再検査したら妊娠していた。
お盛んすぎるだろ。
いや、別にいいけど。
前世の世界なら40歳で妊娠出産は高齢出産と言われているが、長寿化でそれが当たり前になりつつあった。
俺の感覚だと割と普通。
というより、まるで青春を取り戻すかのようにラブラブ度が年々増している両親には胸焼けする。
と、同時に二人には若い頃、お互いに費やす時間と余裕がそれほどなかったのだと思うようになった。
メリリアという聖殿派の嫁に気を遣わねばならなかったのが、ずいぶん大きかったんだろう。