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番外編 男として(5)

 

「……っ」

 

 だからなのだろうか、デュレオが牢の中のルーファスたちを振り返った時の視線は、ひどく冷たい。

 先程の小馬鹿にするような、愉悦混じりの嘲笑を浮かべていた時の表情とはまるで別物。

 無表情であり、無感情。

 赤い光を帯びた瞳が警告のようにこちらを見ている。

 射抜かれてビクッと肩が跳ね上がった。

 背筋が一気に冷えて、蛇に睨まれた蛙の気分になる。

 あの時、金の瞳の少年に見下ろされた時に似ているが決定的に違う。

 あの時は恐怖で息も詰まった。命の危機というよりも、そもそも生きた心地がしなかったのだ。

 圧倒的な上位の存在に見下ろされ、命を握られている。

 そして、殺されても仕方がない。

 なぜか死を受け入れてすらいた。

 今は刃物を喉に突きつけらている、そんな緊張感と恐怖。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「食べちゃダメだぞ」

「食べないよ。物理的に胃に穴を開けられるのって痛いしね」

「そ、そう……。じゃあとりあえず四人分の署名を頼むね。魔法の契約書だから、違反したら激痛が走るから気をつけてほしい」

「げ、激痛!?」

「死ぬものではないし、契約の範囲は限定的だからそんなに心配しなくて大丈夫。こちらが求めるのは君たちの上司への取次くらい。……ただ、ルーファス、君にはもう一つお願いしたいことがあるんだよね」

「僕に?」

 

 地上の文字は宇宙のものとは違っていて読むことはできない。

 読めないものにサインするのは恐怖でしかないので、慎重になってしまうがルオートニスの王子はルーファスにだけ別な要項をつけた書類を手渡してきた。

 

「さっきの話……この世界はデュレオの言う通り積みかけている。滅びかけているんだ。地上もエネルギー生産が難しくなっている。それはこの惑星の神様——エネルギーを生み出す概念というものが死んでしまったから。千年前の人類が戦争で殺してしまったんだって」

「地上も……?」

「うん。だから遅かれ早かれ、宇宙も地上もエネルギーの生産ができなくなって終わってしまう。エネルギーはなにも、電力や魔力だけの話ではないんだ。人間が生まれるのにも、育つのにも、そして心にもエネルギーが必要だろう? そういうものも、いつかなくなってしまうってことなんだ」

「……!? そ、そこまでの事態だというのか……!?」

 

 それは、つまりあらゆるものの“死”そのものではないか。

 そんなことが本当にありえるのか?

 詐欺師の王子の言うことなどと切り捨てようと思ったが、エネルギー生産力が落ちているのは事実。

 

「それを結晶病で補っているのがデュレオの弟と王苑寺ギアンだ。地上の大地と命を消費してエネルギー生産力に変えている。当然そんなものには限界がある。だから、王苑寺ギアンはギア・フィーネを作ったんだって。ギア・フィーネの登録者を神格化——神にすることでギア・フィーネを神器として五機繋げ、一つの巨大な神として世界と繋げる神事。それが叶えば惑星の神様が新たに生まれて、終末から救われる」

 

 言葉が上手く出てこない。

 そんなバカな話をどうやって信じろというのか。

 もはやバカバカしすぎて半笑いになってしまう。

 

「でも俺は、ギア・フィーネの登録者たちにこれ以上犠牲になってほしくない。千年前の戦争で十分傷ついているし、三人とも十分戦ってきたと思う。俺も死にたくないしね」

「……」

「だからギア・フィーネを増やしている。新しいギア・フィーネを三機製造中なんだ」

「——は?」

 

 続いた言葉に驚愕した。

 新たなるギア・フィーネの建設だと?

 千年後の今でさえ、ギア・フィーネの模造品しか作れないというのに?

 

「そんなバカな話——!」

「そのパイロットになってくれない? 二年以内に俺は他のギア・フィーネと、登録者と一緒に惑星の神になる。でも、そのまま神様になって消えてしまうつもりはない。帰ってきたいんだ」

「か——っ……な……」

 

 神になる。

 そんなバカな。

 話の規模の意味がわからない。

 この男は真面目な顔で本当になにを言っているのか。

 宇宙の人間からすると、本物のイカれ野郎だ。

 娯楽小説の中の話ではないか。

 それが現実だとでも言うのか、本当に。

 

「断るならそれでもいいよぉ。さっきも言ったけど俺が乗ってもいいし、石晶巨兵(クォーツドール)で操縦ができるやつは増えてるしねぇ」

「デュレオ」

「はいはい、わかってるよ。宇宙の人間を使うことで宇宙の顔を立てたいんでしょ。仲間外れにすると後々宇宙側の立場に影響するしねぇ」

「っ!」

 

 デュレオ・ビドロも笑うことなく会話に参加してきた。

 それが当たり前であるかのような口ぶり。

 俄には信じ難いことだというのに。

 

「宇宙の人が、宇宙とは違う地上の常識を信じ難いのはわからなくもないんだ。多分俺も宇宙の常識を聞いたら驚くと思うし。なんていうか、千年の間で地上は異世界みたいになってるって、思ってくれると多分わかりやすい」

「い、異世界……」

「うん。だから呑み込むのはきっと大変だと思う。でも、少しずつでも砕いて呑み込んでいってほしい。宇宙の人たちにも決して無関係なことではないから」

 

 ふん、とデュレオ・ビドロが鼻を鳴らす。

 先程の楽し気な様子とも、こちらを無表情で見ていた時とも違う。

 とても“人”らしい表情。

 

「宇宙と地上と、手を取り合って“世界”を救えたらいいと思う。パイロットになる件はすぐじゃなくてもいいから、世界の事情が呑み込めたら検討してほしいな」

「……いや、やるよ」

「え、いいの?」

「やれと言ったのはお前だろう」

「いや、そうなんだけど。あんなに俺のことを信用できないって言ってたのに、どういう風の吹き回しなのかなって」

 

 それはそうだろう。

 クロンたちも驚いた顔をしている。

 いや、ルーファス自身が一番驚いてすらいた。

 どうして?

 それは、多分。

 

「……お前を信用してやると言っているわけではない。パイロットとして興味がある」

「あ、ギア・フィーネに」

「そうだ」

 

 それが一番大きい。

 ギア・マレディツィオーネのパイロットに選ばれた時の誉れを、たった一度の敗北でズタズタにされたこの想い。

 同じギア・フィーネならば、負けなかったのにと思う。

 ギロリとルオートニスの王子を睨みつける。

 二足歩行兵器戦では負け知らずだった自分に初めて土をつけた男。

 この男にだけは、どうしても、どうしても負けたくないのだ。もう二度と。男として、パイロットとして負けたくない。

 

「……王子サマは本当に変なやつもたらし込むよねぇ」

「な、なんの話?」



小ネタ


ヒューバート「あーヒヤヒヤしたぁ。デュレオが[精神誘導]を使い始めた時はどうしようかと思った」

デュレオ「えー、本来の使い方はこういう感じなんでしょぉ? これ以上時間を使うのは有限な人間たちにとって無駄だから可哀想だよぉ」

ヒューバート「うん、そうなのかも。だから止めなかったし」

デュレオ「…………」

ヒューバート「え、なに? どうしたの、急に黙って」

デュレオ「ううんー。大人になったなぁと思って。人間の成長は早いねぇ」

ヒューバート「まあ、一応成人しましたし? あと、聞こうと思ってたんだけどなんでさらに縮んでんの? 縮むことになにか意味あるの?」

デュレオ「ああ、これは単純に捕虜たちに俺の姿は変わるから、俺を捕まえるのはマジでむずいよって教えてあげたのよ。優しさよ、優しさ」

ヒューバート「あー……なるほどー……絶望した顔してたもんね……」



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